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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
40/113

再び廃坑へ

「服は私たちが洗っておくから、クライルさんはもう休んで」


 そう言ってゼシカさんは半ば強制的に俺を部屋に押し込めた。さらに扉の向こうから「ちゃんと休むのよ!」と念を押されてしまったので、言われるがままにベッドに寝転がる。

 するとどっと疲れが押し寄せてきて、気力の限界だったことを自覚した。


 今日はいろんなことがあったしなぁとしみじみ思っていると、腕輪に擬態していた瑠璃が半球状に姿を変え、顔の横でぽよぽよと体を揺らした。

 心配されてる気がして大丈夫だという気持ちを込めて瑠璃を撫でる。


 それにしても。


「この街を出ていっても、また遊びにきて……か」


 ゼシカさんのその言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだのはサリスタ様の願いだった。

 自由に生きて欲しいという願いを叶えるつもりはあった。でも具体的にどうするかは考えていなかった。そこにゼシカさんは一つの指標をくれたのだ。遠い道の先に光が灯ったような気がして、何だか嬉しかった。


「よかったね」


 元の姿に戻った白夜が声をかけてくる。


「ああ」


 目先のことばかりで漠然としていたものが、目的を持つことで形を成した。そうやってひとつひとつ標を用意していけば、果てしなく思えるものも何とかなるような気がする。

 そう、果てしなく思える魔晶石集めもたぶん、きっと……何とかなる、よな?


 ちょっと不安に思っていると、頬をぺしぺしと叩かれた。


「ねぇ、瑠璃が自分の使い方はわかってるか訊いてくれって」

「あー、それは大丈夫。瑠璃が調整した時にこっちにも情報をくれたんだよな? 何となくこう、念じれば通じる! みたいな感じがする」

「え……そんな感じなの?」


 白夜が問いかけると瑠璃が「合ってる合ってる!」と言うようにぽよんぽよん跳ねた。


「本当に不思議な生き物だね。そういえば、瑠璃に手を加えたのはテックス様やラクロノース様だけじゃないみたいだよ。スワイズ様やストレイル様も一枚噛んでる」

「あの神様たち、一枚噛むの好きすぎない?」

「面白いもの好きで構いたがりだから……」


 それってテックス様だけじゃなかったのか。

 ノリノリであの四柱が瑠璃に手を加えているところを想像して、瑠璃に同情的な気持ちを抱いてしまう。するとこちらの心情を察したのか瑠璃がぽよんと跳ねた。


「元々意思のない生き物だったから、いじられてる時の記憶はないってさ」

「そっか。ならよかった……んだよな?」


 肯定するようにもう一度瑠璃が跳ねる。

 動作も含めれば肯定か否定かくらいは何となくわかるんだけど、やっぱり言葉でやりとりできないってのはちょっと不便だよなぁ。


「瑠璃と言葉を交わすにはやっぱり魔力が必要なんだよな?」

「そうだね。でもアキオと瑠璃の間には目に見えない繋がりができてるから相手の感情くらいはわかるでしょ」

「ああ、やっぱりそんな感じの繋がりがあるのか」


 この何となくわかるという感覚、気配で感じ取るというよりは内側から伝わってくる感じなんだよな。

 こういうのなんて言うんだっけ。


「くぁ……」


 そんなことを考えているうちに眠気がやってきた。同時に意識が急速に落ちていく。


「まぁ今日は疲れたよね。おやすみ、アキオ」


 白夜の声が遠ざかる。閉じかけた視界の中で光の粒がゆっくりと降り注ぐ光景が見えた気がした。






 気がしたんじゃない、目覚めたらアイピローよろしく瑠璃が目元に張り付いていた。一体何事。


「瑠璃、これは一体……」

「疲れてたみたいだから目元を温めてみたとか言ってるけど」

「一体どこでそんな知識を仕入れたんだ」


 ていうか俺、義眼だから目が疲れることはないんだけど。


 そう思ったものの口には出さず、瑠璃にお礼を言って起き上がる。すると白夜が仮面に変化して、瑠璃は昨日と同じく腕輪に擬態した。どうやらそこが瑠璃の定位置になったらしい。

 そのまま身支度を済ませて階下に降りると、ガディルさんが片手を上げて挨拶してきた。


「おはよう。昨日は大変だったみたいだな」

「おはよう、ガディルさん。昨日は俺のせいで人手を減らしてしまって申し訳ない。あと服もありがとう。悪いけどもう一日借りるよ」


 昨日俺が宿に戻った時間帯は夕飯時だったし、宿の方も滑り込みで客が訪れる時間帯に差し掛かっていた。なのにゼシカさんと双子を駆り出してしまったのだ。これはしっかり謝っておかなければと思ったものの、ガディルさんは「気にすんな!」と快活に笑った。


「で、今日も廃坑に行くのか?」

「いや、廃坑には明日……」


 ……って、あれ? 俺、ガディルさんに廃坑の話したっけ?

 不思議に思って首を傾ぐ。するとガディルさんは苦笑いを浮かべた。


「じゃあ明日は仲間が来るまでちゃんと待っててやれよ?」

「あ! そ、そーっすね」


 そっか。キールさんもユギスさんも俺が宿にいないのを確認してから廃坑まで来たって言ってたっけ。多分ガディルさんが対応してくれたんだな。

 疑問が解消してすっきりしていると、「なぁ、クライルさんよ」とガディルさんが話しかけてきた。


「随分頑張ってるみたいだが、体を休めるのも大事だぞ。もし部屋でゆっくりしたかったら遠慮せず言ってくれよ。部屋には空きがあるんだ、いくらでも休ませてやれるんだからな」


 ああ、地上の神再び。ガディルさんに後光がさして見える。

 ありがたい申し出にお礼を言い、今日の予定は買い出しだけであることを伝える。すると「昼には帰ってくるだろ? それまでに掃除は済ませとくからな」と言って送り出してくれた。


 もう本当に絶対に、全部片付いたら何が何でも真っ先にドイロックに戻ってこよう。

 今後立ち寄る先でいい街が見つかる可能性もあるけど、最早この世界での俺のホームはここだと言えるくらいこの街が好きだ。関わった人たちもいい人ばかりだし、何よりガディルさん一家といるとほどよく気を抜くことができる。安心して生活できる。これは何にも代えがたい。


 だからこそこの街周辺の脅威は駆除しとかないとな! もちろん上質な魔晶石を集める目的もあるけれど。






 そして翌日。

 宿でキールさん、ユギスさんと合流し、再び廃坑までやってきた。


 道中の話題はドイロックの飲食店について。キールさんは食べ歩きが趣味らしく、ドイロック内の飲食店に明るかった。次々とお勧めのお店とメニューについて語ってくれて退屈はしなかったんだけど……。


「何だかお腹が空いてしまいましたね……」

「街に戻ったら早速お店に行こうよ」


 食欲をそそられて空腹感を覚えていると、その言葉を待ってましたとばかりにキールさんが誘ってくる。でもそうだな、たまにはサリアさんのお店以外に行ってみるものいいかもしれない。正直値段や味に不安があって他の飲食店に入ったことがないから興味がある。


「是非」

「俺もお供します!」

「よし、案内は任せて──っと、いいタイミング」


 キールさんが立ち止まると俺とユギスさんもそれに続く。視線の先には昨日も目にした暗い穴。こちらも縦穴のようだ。


「昨日と同じ手でいい?」

「任せてください!」


 やる気満々でユギスさんが前に出る。そして地面に手を当て──途端に気配が動いた。


 それまで方々に散っていた雑魚岩モグラの気配がものすごい速度で移動し、俺たちの背後を取る。あまりに迅速な動きに反応が遅れ、振り返った時にはすでに退路が塞がれていた。


 ユギスさんが立ち上がり剣の柄に手を添える。キールさんも短剣を引き抜き構えた。雑魚岩モグラの集団との睨み合いが始まり、キリキリと空気が張り詰めていく。

 ほんの小さな切っ掛けがあればすぐにでも戦端が切られるような状況。しかしその切っ掛けがくるより先に、地面が大きく揺れた。


「地震!?」

「うわっ!?」

「くっ、まずい!」


 この世界にも地震があるのかと驚く俺とは違う意味で驚いているユギスさんとキールさんの声。

 直後、睨み合っていた雑魚岩モグラが殺到してきた。バランスを崩したユギスさんとキールさんが雑魚岩もぐらの体当たりを受けて吹き飛ばされ、縦穴へと落ちていく。


「──瑠璃!」


 気づいた時には縦穴へと身を投げ出していた。瑠璃に縄状に変形してもらって空中でキールさんとユギスさんを確保。ふたりを引き寄せると、さらに叫ぶ。


「悪い! 白夜!」

「しょうがないなぁ」


 こちらが切羽詰まっていても白夜はいつも通り。

 元の姿に戻った白夜がさらに変化して巨大化し、俺とユギスさん、キールさんをその背で受け止めるとふわりと地面に下り立った。

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