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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
37/113

新しい仲間

「あっ、そうだ。武器でお悩みのアキオくんにテックスから預かり物があるんだ」


 ほっと胸を撫で下ろしていると、ラクロノースが虚空に手を差し出した。すると空間が歪み、そこからふよっとした粘度の高い液体のようなものが現れる。

 手のひらに乗るサイズのそれは、ラクロノースの手の上に着地するとぽよんと揺れて半球状になった。


「これはどこにでもいる不定形生物にテックスが手を加えた生き物で……そうだな、アキオくんたちに馴染み深い呼称を借りて『改造スライム』とでも呼ぼうか。形状とか性質とか、色々とこの子の意思で変えられるから武器としてだけじゃなく道具としても優秀だよ。もしこの子を手懐けられるなら役に立つんじゃないかってさ」


 はい、と差し出された改造スライムを反射的に受け取るとずしりと重かった。

 色味は濃い青で、その中にちらちらと降るような光の粒が見える。手触りは一定ではなく、固くなったり柔らかくなったり。温度は……よくわからないな。温かいとも冷たいとも感じないから常温くらいか?

 というか、さっきから全く動かないけど生きてるんだよな?


 ついじっくり観察していると、改造スライムもこちらを見ているような気配を感じた。そこでお互いに観察しあっていたことに気付く。


「えぇと……もしよかったら、俺に力を貸してくれないか?」


 見つめ合ってても仕方がないのでそう切り出すと、改造スライムがぽよんと体を揺らした。右に寄ったり左に寄ったりと体を変形させ、最後は伸び上がってぴたりと額に接触してくる。触れたところがひんやりして気持ちいい。

 そのままされるがままになっていると、額から離れた改造スライムが白夜を見ているような気配が伝わってきた。白夜は困惑しながらも小さく頷く。


「名前をつけて欲しいってさ」

「それって……」


 つまり。


「申し出には乗り気みたいだよ」


 おお、やった!

 嬉しさのあまり思わず頬が綻んでしまう。すると「なるほど」と小さくサリスタ様が呟いた。


「あれが"可愛い"というやつか」

「ぶふっ。ちょっとサリスタ、どうしちゃったの?」

「いや、何となく」


 聞こえてきた会話に改造スライムの話をしてるのかなと思いながら、名前を考える。

 改造スライム。確かに右に左に上にと体を動かしてる姿は可愛かったなぁ。ふよふよ、ぽよぽよ、ぷにぷに……う〜ん、何か名付けのとっかかりがあるといいんだけど。


 うんうん唸りながら悩んでいると、不意に視界の端に白い毛並みが映り込んだ。白夜が俺の肩から身を乗り出して改造スライムを見ているようだ。


 ……白夜、か。そういう名前もいいな。ということで。


「瑠璃なんてどうだろう?」


 単純に色繋がりで、改造スライムの体色である深い青にぴったりなものを挙げてみたんだけど……どうだろう?

 ドキドキしながら反応を待っていると、ぽよんと跳ねたスライムが体の左右から腕のようなものを形成し、頭上で繋げて丸の形をつくった。


「気に入ったみたいだね」

「それはよかった」


 名付け親という立場を手に入れたからか、さっきまで定まらなかった手触りがひんやりぷにぷにの状態に落ち着く。重さもさっきより軽くなったから気を許してくれたのかなと思って、頭と思しき場所に触れてみた。

 すると瑠璃の体が沈み込み、俺の手を取り込んでしまった。あれ、大丈夫なのかなこれ。


「ああ、それね、アキオくんの波長に合わせて自分を調整してるんだよ。そのまま待ってて。それが終わればアキオくんの意思を瞬時に汲み取れるようになるから」


 実はわしもテックスと一緒にそいつに手を加えてね、こんな機能やあんな機能を付加したんだよとラクロノースが説明を始めたけどこっちはそれどころじゃない。瑠璃と接触している場所からじわじわと侵食を受けているような違和感に鳥肌が立つ。

 拒絶したいわけじゃないのに振り払いたくなる衝動を必死に抑えていると、白夜がぺしぺしと頬を叩いてきた。


「瑠璃が同じ色だねって言ってるよ」

「え?」

「キミの髪の色と自分の色が、ちょっと違うけど同じだねって」


 言われて俯瞰視点に変えてみる。確かに、全く同じではないけれどよく似た色をしていた。


「本当だ、青色仲間だな」


 そう答えると瑠璃は嬉しそうにぽよんと体を伸縮させた。するとさっきまでの違和感が薄れ、鳥肌が治まっていく。瑠璃が俺の状態を読み取ってやり方を変えてくれたのだと何となく理解する。優しい子だな。


「アキオくん、わしの話聞いてないね?」

「あ、悪い。でも今は瑠璃との関係を築く方が大事だから」

「ぷふっ」


 ラクロノースを素気無くあしらうと、吹き出すのを堪えようとして失敗したような音が聞こえてきた。顔を上げてみれば、サリスタ様が肩を震わせて笑いを堪えている姿が。

 何だか今日一日でサリスタ様の印象がどんどん変わっていくなぁ。親しみやすくていいけども。


 そんなことを考えている間に調整が終わったらしい。瑠璃が俺の手から離れ──たかと思ったら、思い切り伸び上がってラクロノースの額をペシッと叩いた。


「ああはいはい、調整が終わったんだね。ていうかお前、わしを攻撃するほどアキオくんのことが気に入ったの?」


 ラクロノースの言葉に瑠璃はぷよんぷよんと体を伸縮させて何かを訴えているようだ。白夜が「神様相手によくあれだけ言えるね……」とか呟いてるから、何を言ってるのかものすごく気になる。


「わかったわかった。とりあえずアキオくん、おめでとう。ご覧の通りこの子、アキオくんのことが相当気に入ったみたいだよ」

「そっか、よかった。よろしくな、瑠璃」


 ぷよんと体を伸縮させて返事をする瑠璃に癒されていると、いつの間にかサリスタ様が隣に立っていた。


「妾の眷属をよろしく頼む、瑠璃。それと白夜、そなたにはこれまで通りアキオのことを頼みたい」

「はい、お任せください」


 背筋を伸ばして白夜が応じると、サリスタ様は嬉しそうに頷いて白夜の頭を撫でた。続いて瑠璃を撫でたサリスタ様の手が俺の頭に乗せられる。そして俺の髪をその手でゆっくりと梳った。労わるように、慈しむように。


「結局そなたにこの世界の者が負うべきものを背負わせてしまったな。すまない」


 かけられた言葉に俺は苦笑する。

 背負わされたなんて思っていないのに。だって、そもそもさ……。


「サリスタ様、友人たちを元の世界に帰したいというのは俺の願いでもあるんです。だから謝らないでください」


 そう返せばサリスタ様は目をぱちくりと瞬かせ、それから困ったように笑った。そして「そうか」と呟いた後、さらに近づいてきて──包み込むように抱きしめられた。


「ああ、本当に……本当に、そなたの命を繋ぎ止めてよかった。あのまま見送らなくてよかった。どうか今そなたが抱いている願いを叶えた暁には、今度こそ自由に生きてくれ。それが妾の願いだ、アキオ」


 その言葉に、行動に。サリスタ様がどれほど俺のことを考えてくれているのかが表れていて、どうしようもなく嬉しくなってしまった。

 視界の端ではラクロノースがハグし返せというジェスチャーをしているけど、さすがにそれは無理。だけど。


「ありがとうございます。その願い、絶対に叶えますから」


 応じる言葉は自然と出た。するとその答えに満足したのか、一歩離れてサリスタ様が微笑んだ。俺もつられて微笑む。


 そのまま誰も言葉を交わすことなく、サリスタ様の後ろでラクロノースが手を振った。それを合図に視界が切り替わる。

 次の瞬間には淡い色が漂う神界ではなく、ドイロックの雑踏の中に立っていた。

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