加護の力
全方向に飛び散り襲いかかる岩の鱗。明らかに捨て身の技だ。もしかしたらこれがボス岩モグラの必殺技なのかもしれない。
そんなことを考えながら地面に落下する。
もちろん受け身は取ったけど、さすがにダメージを受けすぎたらしい。すぐには立ち上がれない。
「あーくっそ……いってぇ」
「クライルさん!」
思わず呻いているとユギスさんの悲鳴のような叫びが聞こえてきた。
これは心配をかけてしまったかもしれない。しかし自分の状態もわかってる。全身に岩の破片が突き刺さった状態、傷という傷から流れる血。これで心配するなとは言えないか……。
それでも俺は意識を失うことなく、さらに言うなら痛いっちゃ痛いけど命の危険までは感じていなかった。
何故ならこれくらいの怪我は過去に何度も経験しているからだ。もちろんストレイル様との鍛錬でね。
「クライルさん……!」
すぐ近くで足音が止まる。視点をそちらに向ければキールさんが険しい表情でこちらを見下ろしていた。
うん、これは助からないとか思われてそうだな。でも俺には反則的なまでに強力な加護がある。だから──
「大丈夫です。それより、今が絶好の攻め時ですよ」
流れた血は戻せないけど、再生の加護が働いて傷が癒え始めている。それを確認してゆっくりと起き上がり、突き刺さっている岩を手で払う。
あー、まだあちこち痛い。血も完全には止まっていない。でも、動ける。
起き上がった俺にキールさんが息を飲む。そりゃあ見るからに助からなそうな血塗れの人間が起き上がったらホラーだよな。でも説明している時間はない。
手足の感覚を確認しつつ顔の血を拭い、手放してしまったらしい錫杖を探す。
「うわ、あんなところに……」
思わず零してしまったのも仕方がない。何せ錫杖はまだボス岩モグラの背中に突き刺さったままだったのだから。
「ほ、ほんとうに大丈夫なの?」
「ええ、私にはサリスタ様の再生の加護がありますから。それに、これくらいでやられるような柔な修行はしてません」
心配そうに、というよりも恐る恐る問いかけてきたキールさんに答えつつ身を低くする。地上に下りてからは基本的に錫杖を使ってきたけど、武器を失った場合に備えて体術も仕込まれているから不安はない。
そんなことよりもサリスタ様からもらった錫杖だ。一刻も早く取り戻したい。
「とにかく、あの魔物が再び岩の鎧を着込む前にやっつけてしまいましょう!」
「えっ」
キールさんの声を置き去りにして走り出し、ボス岩モグラに再度肉薄。巨体の脇腹を蹴って背中に駆け上り錫杖を奪取する。
よっしゃ、これで気兼ねなく攻撃できる!
「覚悟しろよ、ボス岩モグラ!」
シャン、と音を立てて錫杖を構える。
脇腹を蹴られて悶絶していたボス岩モグラが思い出したように俺を振り落とそうと暴れるが、安定しないだけの足場なんて何の障害にもならない。
荒波のように激しくうねり動く地面から無数の触手が生えてきて自由を奪いにくるとか、剣山みたいな足場で全方向からの攻撃を避け続けるとか、そのレベルでないと障害とは呼べないぞ!
いやはや、こうして戦いになってみるとよくわかるな。あの理不尽な修行の全てに意味があり、無駄などなかったのだと。
斯くして、ボス岩モグラの討伐が完了した。とは言っても岩の鱗を失って無防備になった頭部に俺が衝撃を与えて気絶させ、ユギスさんとキールさんが留めを刺してくれたんだけど。
う〜ん、やっぱりこう、打撃だけで倒し切るのって難しいんだな。錫杖と体術だけだと時間がかかりすぎるというか。
「クライルさん、大丈夫ですか!?」
ボス岩モグラが沈黙すると、すぐにユギスさんが駆け寄ってきた。
「はい。ちょっと血塗れになりましたが、再生の加護のおかげで」
「加護の力ってすごいんだね。倒れてるクライルさんを見たときは絶対助からないと思ったのに、普通に立ち上がったし」
ユギスさんに応じていると、キールさんもやってきた。
やっぱり助からないと思われてたのか。いや、普通は助からないのかもしれないけど……。
「私もまだまだですね。油断してあのような醜態を晒すことになるとは」
これについては本当に猛省している。予想外のことに思考を止めてしまうなんて、こんな体たらくではもしストレイル様がこの場にいたら修行のやり直しを言い渡されるレベルだ。
やり直し……いやだ……もう許してください……。
うぅ、嫌なことを思い出してしまった。
「とにかく無事でよかったです。いや、怪我をしたんだから無事ではないですね。でも生きててよかったです」
「ユギスさんとキールさんもご無事で何よりです。それにしてもおふたりとも、よくあの岩の鱗爆弾を回避できましたね」
ふと気になって話を振ってみれば、ユギスさんとキールさんは顔を見合わせた。
「俺は相手をしてた魔物たちがうまい具合に盾になりまして」
「オレも。群がられて面倒だったけど、おかげで命拾いしたよ」
「な、なるほど」
モロに喰らった身としては羨ましいような気もするけど、ボス岩モグラにあの技を使わせることができなかったら戦いはもっと長引いてただろうし……まぁいっか。
そうひとりで納得していると、不意にキールさんが真剣な表情でこちらに向き直った。
「あのさ、クライルさんはもう一匹の魔物の方も倒すつもりなんだよね?」
「あ……あー、そうですね。そのつもりではありますが……」
正直今回の結果を考えると、これ以上このふたりを巻き込むのは嫌だなぁという思いがあり。あと俺自身、打撃だけだと厳しいことを痛感したし。
いや、巨大緑熊の時にはもうわかってたんだけど、対策を先送りにした結果が今回の苦戦に繋がったわけで。
「とりあえず一旦ドイロックに戻りましょうか。私も武器の見直しが必要そうですし」
剣が使えたらよかったんだけど向いてないものはどうしようもない。何か他の使いやすそうな武器を探そう。
そんなことを考えていると。
「そもそも錫杖で攻撃するなんて聞いたことないですけどね」
ユギスさんが苦笑する。それに同意してキールさんも頷いた。
「それにその錫杖もあれだけ酷使されてよく折れないもんだと思うよ」
……それは俺も思ってた。
これでも一応、錫杖を武器として扱うことに罪悪感を持っているんだけど……ただね、この錫杖、本当に頑丈なんだよ。手にもよく馴染むし、何となくだけどサリスタ様も武器としてこの錫杖を与えてくれたんじゃないかと思う面もあって。
でもやっぱり周りから見たらおかしいと思うよな。早いところちゃんとした武器を手に入れよう。




