ボス岩モグラを退治しよう!
姿を現したのは圧迫感を覚えるほど巨大な、全長三メートルはある岩モグラだった。情報通りだ。
「あの手の魔物は土魔法が使えるから気をつけて」
相手の出方を窺っていると白夜が忠告してきた。それに小さく頷きを返しながら改めてボス岩モグラを観察する。
サイズ感は圧倒的に異なるものの、ボス岩モグラは雑魚岩モグラを単純に巨大化したような外見をしている。
岩で覆われている範囲も雑魚岩モグラと同じで、腹側に岩の鱗はない。ならばきっと弱点も同じだろう。
「ひっくり返すか?」
とは言えあの巨体だ。簡単なことではない。
「キシャァァアアア!」
どう動くべきか思索し始めた途端にボス岩モグラが奇声を上げ、鋭い爪を生やした両手を地面に叩きつけた。途端に地面が抉れ、土や石が勢いよく飛び散る。
襲いくる土石を回避しつつ、悠長に考えている暇はなさそうだと判断。であるならば。
「検証あるのみ!」
一息に肉薄し、ボス岩モグラの背後に回る。顔を振り向けないまま後ろ足で攻撃しようとしていることから、視力には頼っていないようだ。しかし反応速度は速い。
地面を掻くように振り上げられた後ろ足をギリギリで回避し、巻き上げられた土と石は危険なものだけ弾いてやり過ごす。
するとすぐ横から風切音が。見遣れば岩の鱗に覆われた尻尾が目前に迫って──って、尻尾!?
咄嗟に錫杖で受けつつ自ら地面を蹴って飛び、敢えて吹き飛ばされる。
壁に激突する前に体勢を整えて壁面に着地、さらに壁を蹴って地面に着地し直してから首を傾げた。
「モグラって尻尾あったっけ?」
「キミの言うモグラっていうのが何を指してるのかわからないけど、この魔物は尻尾がある魔物だよ」
うーん、モグラなんて実物を見たことがないからなぁ。尻尾はあったようななかったような……。
いずれにしても、あの岩モグラには尻尾があるらしい。あまり長くはないけど、岩の鱗でコーティングされてるからまともに食らったら痛そうだな。
「クライルさん、大丈夫ですか!?」
吹き飛ばされたところを見ていたのだろう、ユギスさんが駆け寄ろうとして雑魚岩モグラや巨大ミミズに行く手を遮られる。
地味にあの小物たちが邪魔なんだけど、気配的にまだまだいそうなんだよなぁ……。
「私は大丈夫です! ユギスさんもキールさんも私に構わず身の安全を確保してください!」
あの数を捌きつつボス岩モグラの攻撃も避けなきゃいけないとなると他人に気を配っている暇などないだろう。そう思って呼び掛ければキールさんからはすぐに「了解!」という声が上がる。しかしユギスさんは口惜しげに表情を歪めた。
ええ、どうしたん?
「俺は、領主様からクライルさんを守るよう厳命されております!」
ああ、なるほど。でもいくら上司に命令されたからって自分の命を危険に晒してまで他人を守ろうっていうのは──
「でも俺では力不足です! なのでクライルさん! 死なないでくださいね!」
おっ、そうきましたか!
一句一句区切って叫びつつ、ユギスさんは自らに集る小物たちを切り払う。そんな彼に「ユギスさんも!」と返してボス岩モグラに向き直った。
神気のおかげかいつの間にか小物たちはキールさんとユギスさんに集中していた。その結果、ボス岩モグラとまともに対峙できるのは俺だけという状況が出来上がっている。
ならば当初の予定通り、こいつは俺が仕留めましょうか!
「はぁっ!」
気合いと共に再度肉薄、ひっくり返すのは諦めて鱗の隙間を狙って石突きを突き込む。しかし固い音を立てて弾かれてしまった。
やっぱり突破できないか──と思いきや。ピシリと岩の鱗に亀裂が走る。おや?
「そう言えば石って割れやすい方向があるとか聞いたことがあるような?」
「いや、あれは単純に衝撃で割れたんだと思うよ」
衝撃で割れた?
白夜の言葉に首を傾げながらボス岩モグラから距離をとる。向こうも反撃してきたけど遅い。見事に空振った。
うん、やっぱり視力には頼ってなさそうだ。じゃなきゃここで空振りするはずがない。
まぁそれはそれとして。
「どんな理由にせよ、割れるなら問題なし! 粉砕してやる!」
ということで方針が決まった。「脳筋……」という白夜の呟きは聞かなかったことにする。
錫杖を構え、思い切り地面を蹴って再々度接近。先ほど亀裂が入った位置に重ねるように突きを放つ。
過たず目標地点に命中した石突きは、今度は弾かれずに砕いた鱗の下へと突き進む。さっきの固い感触とは違う、肉に到達した感触。
「ギジャァアア!」
ボス岩モグラの悲鳴が上がる。狂ったように手足を振り回して反撃してくるが、雑な狙いで捉えられるほどぬるい修行はしてきていない。回避しながら一旦距離を取り──
「あっ!」
思わず声をあげてしまった。なぜならボス岩モグラが魔法を使って折角割った岩の鱗を修復してしまったからだ。
「うわぁ、マジか。となると、修復される前にどんどん割っていくしかないってことだな」
「やっぱり脳筋……」
聞こえなーい、聞こえない。
こうなったら多少の怪我は覚悟で突っ込むしかない! よしっ!
「てりゃあ!」
岩の鱗を修復したとは言えダメージが消えたわけではないのだろう、いまだに暴れているボス岩モグラに肉薄。地面を蹴って跳躍、ボス岩モグラの背中を蹴ってさらに跳躍。
可能な限り高く飛び上がり、石突きが地面と垂直になるようにして落下する。
「うおぉぉぉおお!」
俺は雄叫びをあげ、ボス岩モグラの背中、その中央に錫杖を突き立てた。
落下の威力に俺の体重も加わった強烈な下方への突き。それは岩の鱗を貫通し、深々とボス岩モグラに突き刺さり──
「ギシャァアア!!」
ボス岩モグラが絶叫する。同時に錫杖が突き刺さった位置を起点に、岩の鱗全体に亀裂が広がっていく。
一瞬何が起こったのかわからなかった。わからなくてつい思考を止めてしまった。予期せぬ現象を目の当たりにした時点で即刻回避行動を取るべきだったのに、だ。
今さら気付いたところで時すでに遅し。ひび割れ砕けた岩の鱗が勢いよく飛び散る。
間近にいた俺は当然避けられるはずもなく。
大量の礫と化した岩の鱗を全身に浴びた俺は、ボス岩モグラの背中からあっさり吹き飛ばされたのだった。




