すいすい廃坑探索
今このエインルッツ王国にある上質な魔晶石は俺が把握してるだけでも二つある。巨大緑熊と超巨大ムカデもどきの魔晶石だ。
それに加えてスワイズ様に預けた希少石が一つ。
そう考えるとクラスメイトを元の世界に帰すための魔晶石および希少石集めは順調だと思う。しかしいつ二年C組のメンバーが他国に連れて行かれるかわからない状況で、このペースは遅い。確実に遅い。
かと言って焦ったところでどうにかなるわけでもなく。こればかりは地道に頑張るしかないなぁとため息をついていると。
「クライルさーん!」
「まだ中に入ってないんじゃない?」
「でも外にもいる様子はありませんでしたし、宿もすでに出ていましたし……」
「行き違いかな……?」
背後からそんな会話が聞こえてきた。そう言えば誰かが入り口の方から呼びかけてきてたんだっけ。
俺の記憶が確かならこの声は魔物調査に参加していた兵士のユギスさんと斡旋所経由で参加していたキールさんだな。知らない相手でもないし、返事をした方がいいだろう。
「中にいますよー!」
と声を張り上げたものの、そこではたと気付いてしまう。俺、全く明かりをつけてなかった……!
当然向こうは声は聞こえど姿は見えず状態だろう。戸惑ったような気配が伝わってくる。
「うぉぉ、失敗……! なんで俺、明かりを持ってこなかったんだ……!」
つい小声で零すと白夜がくっと笑いを堪えるような声を漏らした。好きなだけ笑うがいい。俺もだんだん普通の人間に溶け込める気がしなくなってきた。
てかこの視覚が便利すぎるんだよ。暗くても普通に見えるから、入口方面の明るさを見るまでここが暗い場所だっていう認識すらすっぽ抜けてたし……!
警戒するような足音とともにカンテラの明かりが近づいてくる。明かりを持っていない理由をどう説明しようかと思っていると、
「あっ、本当にいた」
「もうびっくりさせないでくださいよ、クライルさん。しかしさすがですね。達人になると視力に頼らずとも行動できるというのは本当だったんだなぁ」
おっ、何だかいいように受け取ってくれたらしい。
しかし達人と言われるとそれは違うと言いたくなる。達人っていうのは目を塞ぎ、耳を塞ぎ、嗅覚すら絶たれても自由自在に動ける人のことを言うんだぜ。俺は知ってる。ストレイル様とその眷属たちの達人っぷりを。
しかしそれを口に出すわけにもいかず、適当に愛想笑いを浮かべてやりすごす。
「それにしてもおふたりはどうされたんです? この廃坑に何か御用でも?」
「……もしかしてクライルさん、領主様の話を聞いてなかった?」
キールさんの声には呆れが多分に混じっている。まるで白夜のよう……っていうか、何だって? 領主様の話??
「何か聞き漏らしてました?」
「ひとりで向かうには危険な場所なので、同行者を選定して迎えに行かせるとお伝えしていたかと。それで宿に行ったらすでに出られたと聞いて、慌てて追いかけてきたんですよ」
首を傾げてみれば苦笑まじりにユギスさんが教えてくれた。
なんてことだ、全く記憶にないぞ?
でも聞き逃した可能性は捨てきれない。なぜなら領主様から廃坑の話を聞いている時、俺の頭の中には三百もの魔晶石をどうやって集めたらいいのかという疑問も同居していたからだ。ちょいちょい領主様の声から意識が逸れていたことは否定できない。
「それは申し訳ありませんでした。廃坑の話を聞いていた時、少々考えごともしていたので……」
素直に謝罪すればふたりは笑って許してくれた。
でも本来なら領主様と話してるのに考えごとをするのは失礼だよな。そういう面も含めて目を瞑ってくれたふたりに心の中で感謝しつつ、改めて廃坑探索について話し合うことになった。
と言っても俺には向かうべき方向がわかってるからそれを伝えただけなんだけど。
「この廃坑は相当入り組んでいるようですが、強い魔物の気配があるのは二箇所。右奥と左奥です。まずは右奥を目指して、次に左奥方向へ向かえばいいかと思ってまして」
ちなみに雑魚岩モグラたちが逃げたのもその二方向だ。強い奴に守ってもらおうという心算なんだろう。
最初どうやってボス岩モグラを見つけようかと思ってたんだけど、雑魚岩モグラたちが逃げる方向にその気配を見つけた時はついニヤけてしまった。だって目的地を教えてくれるんだもの。なんて親切な雑魚岩モグラなんだ。
「そんなこともわかるんだね」
「視力が弱いので気配に敏感なんですよ」
適当な理由をでっちあげる。しかしキールさんとユギスさんはそれで納得してくれたようで、なら右奥から目指そうということになった。
あれで納得されちゃうあたり、本当にこの世界は元の世界とまるで違うんだなと実感する。物理法則が違うという感覚はないんだけど、生物の身体能力が明らかに元の世界とは違うんだよなぁ。
人間も姿形が似てるだけで実は全く違う造りなのかも。だとしたら身体能力的に劣るはずの俺たちがどうしてこの世界に召喚されたんだろうっていう疑問が……。
いやいや、今は考え事をしてる場合じゃないか。とりあえずやるべきことをひとつひとつ確実にこなして行こう。
「いやしかし、やはりクライルさんの神気はすごいですね」
「そうだね。全く魔物の気配がしない」
黙々と歩いていくと先頭を歩くと言って聞かなかったユギスさんと背後の警戒は任せてと言って譲らなかったキールさんがそんな言葉を交わしている。俺を挟んでね!
何でだろう、聖職者っていうのが守らなければならない存在だと思わせるんだろうか。
それともあれか? 領主様が言ってた「神使は神の目」ってのと何か関係あるんかね。
いずれにせよ前後を守られて安全な状態で廃坑を進んでるんだけど、ふたりが言う通り雑魚はみんな逃げてしまったので戦闘が発生することもなく。時々言葉を交わしながら進んでいく。
しかし。
「……何というかこう、黙々と歩くというのも地味につらいものですね」
廃坑の中は崩落を防ぐ支柱と岩肌の見える壁が延々と続いている。分岐もあるけど向かうべき方向が決まってるから道順に煩わされることもないし、単調な道のりにちょっとだけ退屈さを感じてしまう。
「クライルさんは余裕だね」
ふっとおかしそうに笑う声。キールさんが緊張させていた肩の力を抜く。
「強者の余裕ってやつ?」
「違いますよ、変化のない状況が苦手なだけです。そもそも強者っていうのはもっとこう理不尽に強い人のことをいうものであって、私など足元にも及びません」
「あー、なんかわかったかも。クライルさん師匠がいるでしょ。で、その人が理不尽に強いと」
キールさん鋭い!
「私の師匠は理不尽の塊ですから……あ、でも親切ではあるんですよ、ええ、本当に」
くっくっくっと前方からも笑い声が聞こえてきた。
でも本当にあの熱血脳筋神様はとても親切な神様で、思うところがあっても全く憎めないんだよな。
「その師匠さんに会ってみたいもんだね」
「俺も気になります!」
などと話しているうちに視線の先、通路の突き当たりに周囲より一層暗い穴が現れた。
空気の流れからして下方に向かう穴なんだけど、階段ではない。すとんと下に落ちる縦穴がそこにあり、その縦穴の下にボス岩モグラと思しき気配を感じる。
しかしこの縦穴、飛び降りて無事に済むような高さじゃないぞ……。
「これはすごい縦穴ですね……どれくらい深いんだろ」
「ロープで届くかな……」
慎重に縦穴の淵に近づいたふたりがそれぞれ険しい表情を浮かべる。壁の凹凸を利用すれば下りられるだろうけど、下り切るまで魔物側が悠長に待ってくれるとも思えないし……。
さて、どうしたものか。




