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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
30/113

急務発生

 あのあと宿に戻ると一家総出で迎えられた。サリアさんとガディルさん、ヨエルとノエルは無事帰還したことを喜んでくれたけど、ゼシカさんはなぜか目に涙を溜めながら怒ったような顔をしていて、一言も口をきいてくれなかった。

 一体何に怒っていたんだろう……。



 夜はぐっすりと眠って、目が覚めたら昼を過ぎていた。

 たぶん気を使って誰も起こしにこなかったんだろうけど、俺自身ここ数日は地面の下まで気配を探っていたせいか気疲れしていたようだ。眠りすぎた時の頭の重さはなく、むしろすっきりした気分で目が覚めた。


 領主様との約束の時間もあるし、身支度を整えた後は軽く時間を潰すつもりでフラッと街を散策。空が茜色に染まる前に宿に戻ってみればちょうど道の向こうから髭隊長がやってきた。


「よう、迎えに来たぜ」

「わざわざありがとうございます。もう時間ですか?」

「そうだなぁ、まぁ早くて悪いってこたぁないだろ」


 ということで髭隊長と連れ立って領主様の館に向かう。

 そしたらなんと、式典でも開かれるのか!? と問いたくなるような左右に騎士が並んだ道を案内され、やっぱり式典だった! と気を遠くに放り投げたくなるような会場に到着して、式典が行われた。


 完全にキョドっている俺をよそに式典は粛々と進み、見栄えのする服を着たグラドさん、キールさん、レイシーさん、そして調査に参加した兵士たちが次々と呼ばれて報酬を受け取っていく。

 最後に俺が呼ばれてぎこちない動きで前に出れば、ずしりと重い箱と勲章を授与された。


 うおぉ、なんだコレ、なんだコレぇぇえ!

 式典もだけど勲章も渡されるとか聞いてないんだけど!?


 ちなみに箱の中身は報酬だった。その額なんと当初提示されたパーフェクト達成報酬の五倍。

 たっ、大金を手に入れてしまった!


 箱の置き場に困っていると館の使用人がやってきて帰るまで預かってくれるとのこと。そうして宴に突入したわけなんだけど……ここは割愛。

 とにかくいろんな人に話しかけられて大変だった。けどタイミングを見計らって髭隊長が救い出してくれて、他の面々より先にお暇させてもらえることになった。


 髭隊長曰く、聖職者は早寝早起きだからなぁ! とのこと。俺、今後は早寝早起きを徹底します!


 当然帰る前に領主様にご挨拶なわけだけど、ここで思いがけない申し出があった。


「あの魔物の魔晶石ですが、国王陛下に献上してもよろしいでしょうか?」

「構いませんが……それってもしかして、救世主様たちのためだったりしますか?」


 ピンときて尋ねれば、領主様は驚いた様子で頷いた。


「ご存知でしたか」

「ええ、彼らとは少しばかり縁がありまして。しかしそれならなおさら喜んでお譲りしますよ」

「ありがとうございます。我々は今、考えなしに神に頼ろうとしたことを恥じています。なのでできるだけ早く安全に、救世主様たちを元の世界にお返ししたいと思っておりまして。ただ……」


 領主様の表情が曇る。これは嫌な予感……。


「他国はそうもいかない。この国は魔物被害が少ないからそんなことが言えるのだと、救世主様たちを自分たちの国に引き渡せと言い始めまして」


 うわぁ、そうなっちゃうの?

 でもそうか。そもそもの話、増殖する魔物に困り果てた末に各国が協力して召喚したのが俺たちだもんな。


「それで急ぎ上質な魔晶石を集める必要ができた、と」

「その通りです。ただここでこの国の魔物の少なさが裏目に出ていると言いますか……該当の魔晶石を持っていそうな魔物が少ないだけでなく、我が国には強力な魔物を相手にする知識や技術が不足しているのです」


 領主様は悔しげに拳を握りしめた。


「幸い救世主様たちを元の世界に帰すことに賛同してくれている国もいくつかあるので、魔晶石集めを全てこの国内で行う必要はないのですが、知識や技術はそう簡単に渡してもらえず……」


 おお……地味に深刻だな。

 しかしなるほど、巨大緑熊の件で多数の犠牲を払った理由がわかった。この国の兵士の練度があのクラスの魔物を打倒するのに追いついていないのか。

 まぁそれが分かったところでどうすることもできないんだけど──


「ちなみに魔晶石はどれくらい集めればいいのですか?」


 純粋な疑問をぶつけてみると、領主様は言葉に詰まってしまった。

 現時点で少なくとも巨大緑熊と超巨大ムカデもどきの二つの上質な魔晶石があるはずだけど、この様子だとそれでも足りないってことか。


「こればかりは、ラクロノース様の御心次第なのです。過去の文献を見てもひとり召喚するのに百の魔晶石を必要としたこともあれば、五人召喚した際に百五十ほどの魔晶石を用意したという記録もあります。そして今回、三十ニ名の救世主様を召喚した際には三百の魔晶石を献上したと伝え聞いておりますので……」

「三百!?」


 うわぁお、俺の想像を遥かに上回る数字だぁ……!

 しかしひとりで百個必要だったこともあると聞くと少なく済んだと思うべきか。この差は一体なんだろうな。


 不思議に思いながらも思考をぐるぐる回してみる。超巨大ムカデもどきはともかく、巨大緑熊みたいなのを三百も相手にするのはしんどそうだ。でもやらなければみんなを元の世界に帰せないし……ううん。


「もしわかったらでいいのですが──」


 一番手っ取り早い方法はこれしか思い浮かばない。ので、領主様に質問してみる。


「上質な魔晶石を持っていそうな魔物のいる場所をご存知ないですか?」

「それは……まさか」


 あまりこういうのは柄ではないんだけども、クラスメイトたちを他国に渡すのは得策ではないと思うので。


「ええ、できる範囲でお手伝いしてみようかなと思いまして」








 ということで翌日、ドイロック近郊の上質な魔晶石(目的のブツ)を持っていそうな魔物の巣にやってきたわけだけど。


 ちなみに報酬や勲章は普通にポーチに入れた。このポーチもテックス様お手製らしく、めっちゃ高性能でして。

 物を入れても膨らまない。ぴょんぴょん跳ねても音がしない。そもそも入れた物の重みすら消え去っている。


 不思議に思って白夜に訊いてみると、テックス様から機能説明の交信がきたらしい。それによると、神界に俺専用のエリアを作って神の御技でポーチに入れたものをそっちに転送し、保管する仕組みになっているんだそうで……って、どういうことだよ……全く理解できないんだけど。

 白夜曰く、「これは完全にラクロノース様も絡んでるね」とのこと。


「いやぁしかし、炭鉱ってのも趣があっていいな〜」

「キミが潜るのは廃坑の方だけどね」


 手をひさしのようにして遠くを見れば現役の炭鉱があり、忙しなく働く人々の姿が見て取れる。

 一方で俺がいるのは数年前に廃坑となった炭鉱で、廃坑後に魔物が住みついてしまって人が近づけないそうだ。

 幸い魔物たちは廃坑の中から出てこないから目視できる距離で仕事をしていても問題ないみたいなんだけど……。


 事前にもらった情報を思い出して、深く深く息を吐き出す。


「上質な魔晶石の持ち主って巨大系の魔物しかいないんかね」

「正式には強い魔物、なんだけどね。体の大きい魔物が強い傾向にあるだけで、小さくても上質な魔晶石を持ってる魔物もいるよ」


 滅多に会えないけどねと白夜が呟いた時、背後でざわざわと気配が動いた。

 事前に得た情報によると、この廃坑に住み着いているのは岩の鱗を持つモグラみたいな魔物らしい。そのボス格──通常種よりも数倍でかい奴が上質な魔晶石を持っている可能性が高いとのこと。


 ていうかこの世界、魔物に名前つけてないのめっちゃ不便なんですけど。基本的に絵と番号で管理・表現する傾向にあって、魔物も口頭では「四級五の魔物」とかで通じるらしい。当然俺にはさっぱりわからないんだけど。

 故に見せてもらった絵を元に『岩の鱗を持つモグラもどき』でインプットしておいたんだけど、何て呼ぶのがいいかな。岩鱗モグラ? う〜ん、岩モグラでいいか。


「小さくて強いってのも厄介だろうなぁ……だったらでかくて強い方がまだマシか?」

「大きかったら大きかったで面倒だよ」

「つまりどっちも面倒ってことかぁ。でもま、やるっきゃないんだし」


 トン、と錫杖の石突きで軽く地面を打つ。するとざわついていた気配が蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。


「行きますか」


 つい口の端が持ち上がる。

 こちらの様子を窺うために集まっていた雑魚たちが遠ざかる気配を感じながら、俺は廃坑の中へと足を踏み入れた。

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