持ち上げられると逃げたくなる性分でして
目的は達成した。となればあとはドイロックに戻るだけなんだけど……。
「え、これ全部運ぶつもりですか?」
「いや、さすがに全部は……でもこの一番大きいのと小さい方の傷が少ない個体を数体持ち帰ろうと思いまして」
割と重症なロッセさんと足を負傷したグラドさんのために馬車の手配をしに走ったオリスさんは、どうやら荷馬車の手配もしてきたらしい。次々とやってくる荷馬車に呆然と呟くと、そんな答えが返ってきた。
「何か手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。人員は足りてますから」
それはわかるんだけど、超巨大ムカデもどきに関してはどう運べばいいかわからない感じで立ち尽くしちゃってるじゃないですか。
そもそもあんなでかいもの、どこに運び込むつもりなんだろう。謎だわぁ。
「えーっと、切り分けていいのであればここである程度解体してしまった方がいいのでは?」
「いや、あの大きさをそのまま見せることで今回の調査および討伐の功績を正しく評価してもらいたいんです。特にクライルさん、あなたの貢献は計り知れない。しっかり評価させて報酬を上乗せしてもらわなければ」
「ええ?」
俺の貢献が計り知れないってどういうこと? 俺が倒したのは巨大ムカデもどき五、六匹だぞ? たぶん全体の十分の一以下だと思うんだけど。
「何で驚いてるんだか。当然でしょ。クライルさんがいなきゃロッセさんは死んでたかもしれないし、もっと被害が大きくなった可能性もある。それに討伐に繋がる情報をたったひとりで検証して導き出したんだ、高く評価されなきゃおかしいでしょ」
腕を組みため息を吐くキールさんに続いて、レイシーさんもうんうんと頷く。
「そうそう。安心しなよ、あたしたちがちゃあんと証言してあげるから。神使様の功績をね!」
そして芋づる式に自分たちの評価も上げてもらって、追加報酬ゲットするぞー! 的なことをレイシーさんが楽しげに語る。
全く悪びれることなく欲望を口にできるのはいいことだけど、明け透けすぎてオリスさんが苦笑してるよ?
そんなやりとりをしている傍らで、どうやら転がせばいいと考えたらしい兵士さんたちが掛け声とともに超巨大ムカデもどきをひっくり返した。が、一回転がしただけで全員の息が上がって座り込んでしまう。
あーあー、無理しちゃって……ていうかあの巨体なんだから下に丸太でも差し込んで転がした方がいいのでは……。
「この辺に木材って……」
「ありますが、伐採許可が必要なんです」
「なるほど。でもあの巨体だと荷馬車でも運べないですよね?」
「それなんですよねぇ」
ううむ、そんなにあれをあの姿のまま運びたいのか。しかしいい案が浮かばないな……。
「あっ、追加の人員が到着しましたね」
オリスさんの声に振り返れば確かに、街の方から屈強な人たちがぞろぞろとやってきた。ひぇっ。
「魔物の大きさを伝えておいたので、衛兵隊から応援をよこしてくれたみたいです」
「そ、そうですか」
結局超巨大ムカデもどきはロープで括られ、屈強な兵士たちによって街まで引きずられていった。
すんごいムキムキだった……。
ドイロックに到着すると門の前は騒然としていた。一番前に髭隊長と貴族っぽい人が立っていて、その後ろに野次馬をしに来たらしい街の人々とそれを押さえ込んでいる衛兵さんの姿が見て取れる。
「おお、よくやってくれた!」
最初に声をかけてきたのは髭隊長。引きずってこられた超巨大ムカデもどき──甲殻側を下にしたら案外簡単に運べた──を見て驚きとともに労いの言葉をかけてくれる。
「これは……本当にこんなものが潜んでいたとは……」
一方で驚きのあまり目を見開いている貴族っぽい人。この人はどういう立場の人なんだろう?
この疑問は髭隊長によってすぐに解消された。
「領主殿、ご覧の通り今回の報酬はあの程度では全くの不足。これほどの脅威を取り除いた調査員たちには相応の対価を支払う必要がありますな?」
言葉遣いこそ敬うようなものなのに、言葉そのものには嫌味をたっぷり乗せて髭隊長が貴族っぽい人──領主様に詰め寄った。すると領主様はしっかり頷く。
「それはもちろんだとも! 実物をこの目で見ておきながら出し惜しむつもりはない」
「さっすが我らが領主殿! さぁドーンと大盤振る舞いしてやってくださいよ、この英雄たちに!」
と、なぜか髭隊長は俺を領主様の前に押し出した。すると領主様が驚いたような顔になる。
「ちょっ……おい、ダーラン! まさかお前、神使様に魔物の調査をさせたのか!?」
「だってこの神使様、腕が立つし」
「はぁ!? お前頭おかしいんじゃないか!? 神使様にもしものことがあったらどうする! 神使様は人の地に遣わされた神の目なんだぞ!?」
ダーランって誰……と思ったら髭隊長の名前らしい。領主様に叱責された髭隊長は小さくなりながらも「いやしかしだな?」と何やら言い訳を述べている。
ていうか神使って神の目だと思われてるのか。だからやたらと気を遣われるんだろうか。
「領主様、それくらいにしてあげてください。実際こちらの神使様、クライルさんは腕が立ちますし、こうして無事に帰還してるじゃないですか」
終わりなき言い争いに発展しかけていた髭隊長と領主様の間に割って入ったのはレイシーさん。謎のドヤ顔である。
「それにその人、率先して前に出てあの魔物の弱点と討伐方法を見つけてくれたし」
続いてキールさんが。
「そうです、彼がいなければロッセも助かりませんでした。そして我々も今頃どうなっていたことか」
最後にオリスさんが口添えする。
一方で俺は担ぎ上げられるのに反比例して身を縮めていく。うおぉ、視線が、ものすごい数の視線が突き刺さって恐いぃっ。
「そう……なのか。しかし、それでもだな……」
「お前が言いたいことはわかる。が、もう終わったことだ。あとは正当な報酬を支払って労って感謝すりゃあいいだけの話だろ?」
ためらう領主様に髭隊長が進言する。どうやらこのふたりは仲良しさんのようで、いつの間にか髭隊長の敬語が取れていた。それを気にも止めずに領主様は小さく唸り、最後には深い深いため息を吐き出す。そしてすっと背筋を伸ばしてこちらを見た。
「神使様、この度はご助力いただきありがとうございます。他の調査参加者も含め正当な報酬を用意させていただきますので、明日の夕刻、我が屋敷にご足労いただけないでしょうか。ささやかながら祝勝の宴を催そうかと思っております」
「えっ!? いや、そんな、こちらはあれです、仕事、そう仕事を求めて参加しただけですのでそんな──」
「さすが領主様! せっかくですしお言葉に甘えましょうよ、神使様」
宴への参加は遠慮しようと思ったのにレイシーさんに逃げ道を塞がれてしまう。
「きっと美味い料理がたくさん出るよ」
こそっとキールさんが耳打ちしてくるけど、実は俺、王城でかなり豪華な料理をいただいたことがあってですね……。
「あいつの厚意を無駄にしてやるなよ、神使様。大丈夫、俺も参加してやるからな、そんなに堅苦しい宴にはならないさ!」
ガハハ、と豪快に笑う髭隊長。
厚意を無駄にするな、か。そう言われてしまうと断れないな。
「えぇと、領主様。ではお言葉に甘えて……」
「はい。報酬も宴も楽しみにしていてください」
そう告げるなり領主様は護衛とともに街へと戻っていく。
その背中を見送りながら、割のいい仕事は儲かるけどこういう事態になるなら地味な薬草採取の方が性に合ってるなぁ……なんてことをしみじみ思った。




