群れる虫っていますよね
勇気と無謀は違うっていうのはよく聞く言葉だ。
でもそのどちらになるかは自分の心持ちだけじゃなく周囲の受け取り方でも変わる気がするんだよ。勇気と称えられるか無謀と謗られるかという意味では特に。
とは言えそれでも明らかな無謀ってものはあるし、確たる勇気っていうのもある。
まぁ俺としては勇気とも無謀とも無縁なので、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけど。
じゃあ何でそんなことを考えているのかと言えば、ふと今の俺の行動は勇気と無謀、どっちに受け取られるんだろうなと考えてしまったからで……。
つまり、余裕なんです。考えごとができるくらいに余裕があるんです。
なんだこれ、あまりにも思い通りにことが運びすぎて恐い。どこに落とし穴があっても俺は驚かないぞ。さぁこい! いつでもこい、落とし穴! 落ちる(心の)準備はできている!
そんな意気込みでいるのに状況の変化はやってこない。これはまさか、本当に? こいつ、まさかなの?
「反応が鈍い、鈍すぎる!」
こちらを感知するのに必ず一拍の空白が生じる。つまり攻撃に鋭さがない。しかもその一瞬の間さえ見極めれられれば攻撃を避けるのも容易だ。
「いやキミの感覚だとそうなるんだろうけど……見なよ、他の人たちを」
白夜に促されて振り返れば、集まってきた調査員たちが揃いも揃って身構えながらも手を出しあぐねているようだった。
「キミは少し自分の異常さを知った方がいいんじゃない? ストレイル様の初めての弟子だって時点で異常だからね?」
「そんなこと言って、俺を調子に乗せようとするなよ」
「……はぁ」
その定期的に吐き出される呆れ混じりのため息は何なの? 俺のなにがそんなにダメなの!?
そうこうしているうちに目的の地点まで超巨大ムカデもどきの誘導を終える。これだけ引き離せばロッセさんの治療もできるだろう。
一応、オリスさんともうひとりがロッセさんの治療にあたっていて、他のメンバーがついてきているものの……。
「こっちの戦力がいまいちわかんないんだよなぁ」
という問題がありまして。とりあえず超巨大ムカデもどきは反応が鈍いので、こちらから仕掛けてみる。
威圧、ちょっと怯んだ。フェイント、引っかかったけど防御ではなく迎撃を選んできたので身を低くして躱す。ついでに頭部と胴体の継ぎ目が頭上にきたので伸び上がりながら錫杖の石突きで一撃お見舞いすると、超巨大ムカデもどきが仰け反った。
……仰け反った!?
「え、この巨体で仰反るとか……」
「だからさぁ……」
思いがけない状況に驚いていると白夜が何かを言いかけ、なのに「もういいや」と呟いて沈黙してしまった。
諦めるなよ、もっと根性見せろよ相棒! 何を言おうとしたのか気になるじゃん!
しかし戦闘中なので聞きたい気持ちをぐっと堪えて、なぜ超巨大ムカデもどきが仰け反ったのかを分析する。
「……あそこが弱点だったのかな」
考えてもよくわからなかったので、とりあえず弱点にクリティカルヒット説で納得して巨体の下から離脱する。
ぱっと見、背中側は固そうな甲殻に覆われているけど腹側は足がわさわさ蠢いていているだけで柔らかそう。狙うなら腹側か。
確証を得るためにまずは錫杖で足払いをかける。意外とあっさりバランスを崩した超巨大ムカデもどきの甲殻に、思い切り錫杖を叩きつけてみる。
うーん、思ったよりは固くない。けど刃物を貫通させるのは難しそう。
今の一撃でそれなりにダメージを受けたらしい超巨大ムカデもどきが体を持ち上げた。ので、今度は腹側の検証をすべく肉薄して同じく錫杖を叩きつけてみる。
甲殻よりは柔らかい。けど、打撃による衝撃が多少軽減されそうな弾力がある。
てことは、だ。
「刃物を扱う人は腹側を! 打撃は背中側を狙ってくださーい!」
遠巻きにこちらを眺めているメンバーに声をかけるとなぜか戸惑ったようなざわめきがおこった。しかしすぐにグラドさんが駆け寄ってくる。
「あんた、本当に聖職者かよ」
「へっ? えっと、まぁ一応?」
「なんだよ一応って。まぁいいや、刃物は腹側だな?」
「はい、あと頭と胴体の継ぎ目も弱点みたいなんで、いけそうなら積極的に狙ってください」
「そんな細けぇとこ狙えるかよ!」
文句を言いながらも早速超巨大ムカデもどきに向かっていくグラドさんが頼もしい。走りながら引き抜いた大剣が空を裂き、回避した超巨大ムカデもどきが体を持ち上げ腹を見せた。そこへすかさず大剣を振り下ろす。
超巨大ムカデもどきの足が何本か宙を舞い、青緑色の体液が飛び散った。
「なんだぁ? 図体ばかりでかくてたいしたことないのかコイツ」
「そう思いますよね」
拍子抜けしたような声に同意の頷きを返していると、
「頭部と胴体の継ぎ目を狙えばいいんだよね?」
駆け寄ってきたキールさんが確認してきた。
「たぶんそこが弱点だと思います」
「了解」
確認を取るなりキールさんが矢をつがえる。キリキリと引き絞る音。しかしすぐには放たない。グラドさんが超巨大ムカデもどきを仰け反らせるタイミングを見計らい──放つ!
空気を切り裂く鋭い音を伴って、矢は過たず超巨大ムカデもどきの頭部と胴体の継ぎ目に突き刺さった。
「うわ、一発で命中……!」
思わず驚きの声を漏らすとキールさんは口端に笑みを浮かべ、次の矢をつがえる。そのあいだにも調査員たちが剣を手に超巨大ムカデもどきに飛びかかっていく。
おや、入る隙間がなくなってしまったぞ?
「問題なさそうだな」
「神使様があいつの倒し方を見つけてくれたからよ」
おっと、つい素の言葉遣いをしてしまった。そしてよりによってそのタイミングで今度はレイシーさんが話しかけてきた。手に短剣を握ってるけど戦闘に参加するつもりはなさそうだ。
とは言っても超巨大ムカデもどきもすでに満身創痍。相当苦しいようでギェェともギョェェとも取れる耳障りな声を上げてのたうち始める。
あの巨体で暴れられては危険極まりない。全員が一旦超巨大ムカデもどきから距離を取った──その時。
『ギギィィイィイィイイイ!』
最後の力を振り絞るように超巨大ムカデもどきが半身を持ち上げ、体液を撒き散らしながら不快な叫びを上げた。全員が反射的に耳を塞ぐ。そして。
ぼこり、と地面が盛り上がった。
それを皮切りにあちこちで地面が押し上げられていく。意識を地中に向けてみれば無数の気配が蠢いていた。
「足元に気をつけて! 下にいます!」
誰もが異常を認識していながら咄嗟に動けずにいるのを見て、敢えて声を上げる。それに反応して回避行動を始めた調査員たちを確認しつつ盛り上がりの真上に移動し、両手で掴んだ錫杖を思い切り地面に突き立てた。
石突きが大地を穿ち、突き刺さる。
土とは違う手応え。引き抜いた石突き部分には青緑色の液体が付着していた。
「うぇっ」
きっもちわるっ!
でもこの手段が地面下の敵に有効だとわかった調査員たちが地面に剣を突き立て始めたから、結果オーライ?
一方で超巨大ムカデもどきに対してはキールさんが次々と矢を放っていた。
弱点であろう頭部と胴体の継ぎ目にはまるでそういうオブジェのように放射状に矢が突き刺さっており、ついに超巨大ムカデもどきが地響きを立てて地に伏す。
その音を合図にしたかのように地面から次々と巨大ムカデもどきたちが現れたけど、そいつらもあっという間に対処されていく。
何せ超巨大ムカデもどきと弱点が同じなのだ。サイズ的にも弱点を狙いやすいし、地面から顔を出した瞬間に頭と胴体が切り離されている個体もいる。
そうして戦うこと数時間。
一体どれだけ地中にいたんだよとツッコミたくなるくらい大量の巨大ムカデもどきを退治し、超巨大ムカデもどきも絶命した。
ちなみに俺は巨大ムカデもどきを五、六匹仕留めたくらいだから貢献度は低い。なので勝ち鬨をあげる輪には加わらず、相変わらず穏やかな空を見上げた。
視界一杯に広がった空は地上のことなど関係ないと言わんばかりに晴れ渡り、小鳥たちが楽しげに囀りながら視界を横切っていった。




