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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
27/113

現実ってやつはツンデレだ

 っしゃ、今度こそ覚悟が決まったぜ! 俺ぁやるぞ、やったるぞ! 同情はナシだ、待ってろムカデもどき。俺の初キルの餌食にしてくれる!






 ……なんてことを思っていた時期もありました。

 ええ、まさかまさかの三日連続空振りですけど何か? 俺の意気込みの空回りっぷりったらもう! もう!


「いませんねぇ」

「いないですねぇ」


 そんなわけで五日目、泣いても笑っても調査最終日。このまま終わるか、それとも最後の最後で追加の情報なり討伐報告なりができるかは完全に運次第。


 ちなみに肩透かしを受けている俺のテンションは下がりっぱなしである。だからと言って手を抜いてるわけではないけども。

 念のため意識を集中して地中の気配を探ってるんだけど……小さい虫が巣を作ってるなぁとか、そういう気が抜けるほど長閑で平和な気配しかしない。


 天気もいいし、鳥も囀ってるし、風も爽やかだし、景色もいい。


 ピクニック日和だなぁ……なんてうっかり気が緩みそうになるのを気合で引き締めていると、不意にオリスさんが口を開いた。


「……なんとなくですが、クライルさんの仰っていた通りなのかもしれませんね」

「え?」


 唐突な言葉に首を傾げる。俺が言ったこと……ってどれのことだろう。


「あの魔物たちに敵意はなかった、というやつです。こうも遭遇しないと、我々が連日出張ってるから魔物の方が棲み処を移したのかもしれないなと思いまして」


 ああ、なるほど。それは確かにありそうだ。


「そうですね。その可能性はあるかもしれませんが……そもそもあの魔物の生息域ってどこなのでしょう? ここに住みついていたからにはこの草原のような環境が暮らしやすいのでしょうけど」


 そういうのがわかると色々と予測が立てやすいんだけどなぁ。残念ながら俺にはそういった知識がないからわからん。


「なるほど、そうやって移動先を把握する手もありますね。一度環境ごとの魔物の分布について調べてみた方がいいかもしれません」


 聞けば街単位でなら魔物について調べ、まとめた図書が存在するらしい。あくまで各街周辺の魔物限定みたいだけど。ただ何故そこにその魔物が棲みついているのかまで調べたものはないんだとか。

 まぁ詳しい生態がわかった方が今後のためにもなるだろうし……というか今までそういうものがなかったことにびっくりだわ。


「昼時ですね、昼食にしましょうか」


 空を見上げたオリスさんに促されて昼食をとる。と言っても携帯食糧なので立ったままもぐもぐ食べる。うーん、ぱさぱさ。

 水分が欲しくなったので水筒から水分補給して、若干物足りないくらいの量で食事を終えた。


「いつも思っていたのですが、クライルさんは小食なんですか?」

「え? あー……いえ、ただ満腹まで食べると動きが鈍るので少なめに食べてるだけですよ」


 俺の回答に心配そうな顔になるオリスさん。あれ、何でそんな反応?


「私たちも激しい運動の前は満腹まで食べませんが、いくらなんでもその量は少なすぎでは……」

「いやいや、激しい運動をしたらどうせ吐くことになりますし、最低限の量で良くないですか?」

「え?」

「え?」


 ちょっと待て。今ものすごい認識のズレを感じたぞ? そしてズレているのは俺の方と見た!

 たぶん「激しい運動」の度合いが違うんだろうなというところまで察して、しかし体の芯まで染み付いてる感覚だから今さら矯正できないし、とりあえず笑って誤魔化す。

 それにしても、これって心配されるレベルなのか……ううん。


「えーっと、私はこれくらいがちょうどいいのでご心配なく」

「そ、そうですか」


 そんな会話を交わしながら食休みを置いて活動再開。まぁ特に変化はない……と思いきや。


「なんか、声が聞こえたような?」


 遠くで何か叫んでいるような声を拾う。遠すぎて内容までは聞き取れないけど──


「本当ですね。あちらの方角……ということはロッセとグラドさんがいる方向かと」


 グラドさんはいわずもがな、ロッセさんは兵士から選抜された調査員の名前だ。

 やけに騒いでいるなと思っているうちに轟音が響き、土煙が上がった。


「先に行きますね!」

「お願いします!」


 俺はオリスさんを置き去りにして全力で草原を駆け抜けた。

 ただごとではないのは確実だ。何せあの轟音と同時に強烈な殺気が膨れ上がってきたのだ、間違いなく戦闘が起きている。


 嫌な予感を振り切るように走り、最短で現地に到着する。状況を確認しようと周囲を見回すと、土煙の向こうに大きな影を見た。


 あまりの大きさに息を飲む。

 その瞬間強い風が吹き、一気に土煙が晴れた。


 そうして現れたのは、巨大な黒光りする魔物だった。調査初日に出くわした巨大ムカデもどきをさらに倍にしたような、言うなれば超巨大ムカデもどき。

 形状はほとんど同じなのにサイズが半端なくでかい。どうやってここまで育ったんだと問いただしたくなるくらいだ。


 そんな魔物とグラドさんが対峙していた。


 そういえばロッセさんは──と周囲を見回してみれば、少し離れた場所に横たわるロッセさんの姿が。

 生きてはいるけどギリギリかもしれない。その辺の判断はまだできないので何を優先すべきか一瞬だけ悩む。が、すぐに決断する。


 負傷者の手当てなんてやったことないし、万が一グラドさんが戦闘不能になってしまったら全滅しかねない。オリスさんがすぐに追いついてくるはずだし、ロッセさんに関してはそちらに任せよう。まずは目の前の脅威をどうにかしないと!


「グラドさん、状況は?」


 戦場において状況確認を怠るな、とはストレイル様の言葉だ。実際、どうしてこんな状況になったのかがわからないと動くに動けない。


「最初はあれと同じ感じの、もっと小さい魔物を見つけたんだ。音に反応するって話だったから試しに大声を出しておびき寄せようとしたんだが──突然足下からヤツが飛び出してきた」

「なるほど、ありがとうございます。もう少し相手の情報が欲しいので、ちょっとつついてきますね」

「は? おいっ!?」


 予想通りというかなんというか、初撃でこの状況とは。巨体というのはそれだけで脅威だな。

 だからこそ相手の力量を慎重に見極めなければいけない。そう、俺はもう調子に乗らないぞ!


 気合いを入れて地面を蹴り、跳躍する。さっきまでグラドさんに向いていた殺気がこちらに移り、頭部が俺の動きを追ってきているのがわかる。

 どうやらこいつは音だけでなく、別の何かも使って周囲の状況を把握しているようだ。


 視覚か? 違う。目が見えている動きとは思えない。

 じゃあ嗅覚か? うーん、ちょっとよくわからないな。

 あとは味覚……はないな。ないない。

 あと他には、えーと……触覚? ん? しょっかく?

 あっ、こいつよく見るとちっさいけど触角があるぞ!?


「触角ってどういう役割だっけ?」

「感覚器官だよ。生物によって役割は違うけど、感触とか匂いとかを感知できるはず」

「なるほど!」


 さすが白夜、質問したらすぐに答えてくれる!


 とりあえず超巨大ムカデもどきは音と触角によって反応していることがわかった。

 俺は一旦超巨大ムカデの背中に着地し、改めて跳躍して地面に降りる。が、一瞬遅れて超巨大ムカデもどきが俺が着地した背中部分を蠢かせたので、背中にも神経が通ってることを追加で把握。


「あとは知性の有無か」

「多少はあるだろうね」

「だろうな。巨大ムカデもどきも考えて行動してるっぽかったし、超巨大ムカデもどきならそこからさらに進化しててもおかしくない」

「ちょっと待って、ムカデって何? ていうか何その呼称」

「見た目重視で何となく」


 白夜と軽口を交えながらバックステップで距離を取る。少し離れた場所では無事追いついてきたオリスさんが、ロッセさんに呼びかけを開始していた。ただ戦場から近すぎるせいで治療に着手できないようだ。

 であるならば。


「グラドさん、ちょっとこいつを向こうまで引っ張ってくので大丈夫そうなら加勢してもらっていいですか?」

「ちょっ、ちょっと待て神使様よぅ。確かにあんたの動きは大したもんだが、そんなことできんのか?」

「できるできないは未知数ですが、ロッセさんの命がかかってるので。それにこいつの動きはこちらの想定より幾分か遅いですし、無茶はしないつもりなんで大丈夫です」


 もし超巨大ムカデもどきがまだ本気を出していないとかだったら微妙なところだけど、慎重になりすぎて追い詰められる間抜けにはなるな、というのもストレイル様の教えである。ある程度は大胆に行こうじゃないか!

 問題はどうやって相手の気を引くかだけど──幸い超巨大ムカデもどきのヘイトは俺に向いているようだ。これならちょっかいをかけながら移動すれば俺を追ってくるだろう。


「──なぁ、デカ虫さん。ちょっと俺と鬼ごっこしない?」


 期待せず言葉で挑発してみれば、通じてはいなそうだけど声に反応してこちらににじり寄ってきた。


 ふふふ、いい子だ。

 では始めようか、すんごい体格差で行う鬼ごっこを!

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