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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
26/113

一日目調査結果報告会

 念のため日が傾くまで様子をみたものの、あの魔物が再び姿を現すことはなかった。

 加えて他にそれらしき魔物と遭遇しなかったことから、オリスさんと俺が遭遇した魔物が調査対象である可能性が高いという結論に至り、帰途につく。



 街に戻るとオリスさんの提案で情報共有のための報告会を行うことになった。

 と言っても情報を持ってるのはオリスさんと俺だけなので、必然的にこのふたりが話すことになるんだけど。


 場所は衛兵隊の詰所にある会議室。そこそこ広い室内には長テーブルを囲うように椅子が置かれていて、調査に参加したメンバーが思い思いの席に座る。

 全員座ったのを確認して、早速オリスさんが話し始めた。


「では本日遭遇した魔物について判明していることをお話しします。まず外見ですが、大きさは成人男性の背丈を少し越えるくらい。虫型の魔物で頭部は丸く、胴は長くて平べったく、足がたくさんついています。胴体の色は黒、頭部と脚は黒に近いですがやや青みがかっていました」


 同意を求めるように視線を向けられたので頷いておく。

 俺が説明しても同じような特徴を挙げるだろうから、オリスさんの説明に問題はない。


「続いて移動手段ですが、主に地中に潜って移動しているようです。どこから現れるかわからないので、明日以降は足元にも注意して下さい」


 オリスさんが把握できたのはそれくらいだったのだろう。「私からは以上です」と締め括ったオリスさんが再びこちらに視線を寄越した。俺からも気づいたことがあればどうぞ、ということだろう。


「えーと、私が感じたところだと視力はなさそうでした。音によって私たちの位置を認識していたので間違いないでしょう。動きは結構素早いのですが……」


 視線に促されて話し始めたものの、どこまで俺個人の感覚を交えていいのかわからず口ごもる。するとキールさんが「何か気になることでも?」と促してきたので一呼吸置いてから続けた。


「オリスさんにも確認したのですが、今まで例の魔物による被害は発生していないそうです。そして今回も至近距離での遭遇だったにも関わらず私たちは無傷で逃げ果せています。また直接対峙して感じたのですが、あちらに敵意らしい敵意はありませんでした」


 そう、そうなんだよ。当初敵意らしい敵意は感じなかった。背後を取られたのだって殺気を向けられていなかったからで、気づいたのは単純に魔物側が姿を現したからだ。

 つまり。


「今回遭遇したのは二匹でしたが、最初の一匹は人の気配が気になって顔を出しただけなのではないでしょうか」


 そう考えることができる。


「しかし私が捕獲しようと動いた。結果一匹目は逃走し、二匹目が現れた。恐らく二匹目の方は私の行動を敵対行動と受け取ったのでしょう。私たちの背後から接近し、威嚇を行った。そしてその後も威嚇を続け、私たちが撤退した際には追跡し──なのに中途半端に追跡をやめた」


 そう、まるで。


「最初から、私たちを追い払うのが目的だったかのように」


 そう思えてならない。何せわざわざ背後を取ったのに襲撃ではなく威嚇という選択をしたのだ。

 それに、いくら足音を消して逃げたって全く音が立たないわけじゃない。つまり追おうとすればできたはずなのに、そうしなかった。


「これは個人的な意見なのですが、あの魔物たちに人を害する意思はないのだと思います。なので私としましては、これまで存在を知られていなかった魔物が何故最近になって目撃されるようになったのか、そちらを調べた方が根本的な解決になるのではないかと」


 思う……って、何でみんな俺を信じられないものを見るような目で見てくるんだよ。

 視線の圧に負けて思わず口をつぐむと、俺から視線を外した室内の面々はちらちらと顔を見合わせては目で会話し始めた。

 えぇ、俺変なこと言ったかな。頼むから放置はやめてくれ……。


 そうしてしばらく沈黙が続いたが、最後にみんなの視線がオリスさんに向けられた。するとオリスさんは咳払いをひとつ。ようやく口を開く。


「率直に申し上げましょう。その視点は持っておりませんでした。盲点だったと言うべきか、確かに何故あの魔物が目撃されるようになったのか調べる必要はありそうです。それと、あの魔物たちに我々を害する意図がない可能性も確かに捨てきれません……が」


 そこで一度言葉を切り、柔らかい印象のオリスさんらしくない鋭く射竦めるような視線を向けられる。


「魔物は人を襲うものが大半です。それに今回は目撃例も多く、戦う力を持たない一般人からすれば恐ろしい魔物に変わりありません。なので討伐できるようであれば討伐する、という方針は変わりません」

「──はい」


 まぁそうか、そうだよな。こちらとしてもあの魔物を見逃して欲しいという意図はなかった……つもりなんだけど、しかしなるほど。聞き手側にそのように取られて否定されてみて初めて、自分があの魔物を見逃して欲しいと思っていたことを自覚した。

 全く意識してなかったけど、どうやら俺には命を奪うことへの強い忌避感があるようだ。思えば立髪青牛は白夜に止めを刺してもらったし、巨大緑熊も城の兵士さんたちに任せちゃったしなぁ……うーむ。


「あの、大丈夫ですか?」


 変な沈黙を入れてしまったからだろう、オリスさんが真剣な表情で問いかけてきた。この仕事を降りるか聞かれているのだろうか?

 俺としては戦えないわけではないし、問題ないと──


「私の判断は、サリスタ様のご意思に背くものだったでしょうか」

「んぇ?」


 思いがけない角度からの問いに変な声が出た。大丈夫か聞いてきたのってそっち?


「あー、えー……その。すみません、少し考えごとをしてました。とりあえずサリスタ様のご意思云々は気にされなくても問題ないかと思いますよ」

「そうでしょうか……サリスタ様は再生や循環を司っていらっしゃいますから、命の管理もサリスタ様の管轄だと言われています。地上での命のやり取りについて気にかけていらっしゃるのではと」


 それは、どうなんだろう。

 異世界から召喚された俺たちの命については気にかけてくれてるけど、この世界のものについては……特に聞いてないというか、サリスタ様と接したのって本当に短い時間だったからなぁ。


「うーん……私の感覚だと、神々はこの世界を見守ってはいますがルールに関してはそこに生きるものたちに委ねていると思うんですよね。だからあれはだめ、これもだめと神々からダメ出しされることはそうそうないと思います」


 はっきり言って俺が関わった神様たちは地上に対して過度な干渉はしなさそうなんだよな。だからそんなに気にしなくても……。


「神使様が言うと説得力があるわね」

「確かになぁ。つうか、そもそも俺たち人間と魔物は今までも命を奪いあってきたんだ。いまさら神罰がくだるなんてこともないだろ」


 レイシーさんとグラドさんがそう続けてくれたおかげでオリスさんの表情が和らいだ。


「では引き続き明日以降もよろしくお願いします」


 この言葉を以て今日は解散。それぞれ挨拶を交わして会議室を出た。

 途中、グラドさんやレイシーさん、キールさんから声をかけられたけど内容が「今から飲みに行こう」的なやつだったので遠慮した。俺未成年だし。


 残念そうにしながらもこれから親交を深めに行くらしい三人を見送って宿に戻る。入ってすぐのカウンターにいたガディルさんと一言二言交わして部屋に戻ると、ばたりとベッドに突っ伏した。


「あーあーあー。なんだかなぁもう」


 まだ足りない。まだまだ足りない。

 この世界で人と関われば関わるほど自分の覚悟の足りなさが浮き彫りになる。覚悟したつもりでいても実際は全くできてないことを突きつけられる。


「ある意味ストレイル様の鍛錬よりきっついわー、くそぅ」


 未熟者だ。わかってる。

 中途半端に力を手に入れて大丈夫な気になって、調子に乗っているだけなんだ。だから見逃そうなんて甘っちょろい考えが潜在的に存在したりするんだ。


 思い出せ、死の直前に感じた己の命に対する絶望と諦めを。

 見逃すってことはあれを受け入れるってことだぞ。俺が死ななくても他の誰かが死ぬかもしれないんだぞ。


「まぁ致命的な事態に陥る前にわかってよかったんじゃない?」


 俺が何に対してぐちゃぐちゃ考えているのか察しているのだろう。白夜が的確な言葉をかけてくる。そんな白夜仮面を外して仰向けになると、手の上で白夜が元の姿に戻った。

 手のひらにふわふわの毛並みを感じながら、思い切り息を吸って一旦止める。そして体の内側にある靄を根こそぎ吐き出すように、深く深く吐き出して肺を空っぽにした。


 そのままぼーっと天井を見つめていると。


「……仮にキミがポカしたとして」


 白夜が静かに言葉を落とす。


「ボクがついてるんだから問題なんて起こるわけないでしょ」


 励ます時すら白夜は自信家のままで、つい笑いが漏れる。


「頼りにしてるよ、相棒」

「しょうがないから付き合ってあげるよ、アキオ」


 ああ、初めて名前を呼んでもらったな。

 そんなことをぼんやり考えながら、俺の意識は静かに眠りに落ちていった。

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