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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
24/113

準備

 どうやら洋介は俺の協力要請に応える気になったらしい。

 というか元々そのつもりで自分なりにやってきたけど、どうにも成果が感じられなくて悩んでいたのだとか。


 俺が王都を出てから十日かそこら。そんな短期間で結果を求めようとはせっかちな奴だ。

 とりあえず体を鍛えるのと一緒に忍耐力も鍛えておくようにと伝えておいた。



 通信を切ってからは手が止まっていた分を取り戻すべく、せっせと薬草を採取。一緒に受託していた食用キノコの収穫も忘れない。

 そうしてそれぞれ十分な量を確保したのを確認して、ドイロックに戻る。切り上げた時間も早かったし、今日の収入は銀貨七枚だった。


「さて、例の仕事に向けて準備しますか」

「準備って、何を?」

「えーと、水筒とか? 今持ってるのって半日を想定してるから容量が足りないんだよな。あと調査中の食糧も自前らしいから携帯食料も必要だな」


 早速商店通りを歩きながら必要そうなものを買い込んでいく。と言っても懐具合に余裕があるわけじゃないからギリギリを見極めての購入だ。できるだけ安価で、できるだけ希望に適うものを購入していく。

 商品の選び方はゼシカさんから教えてもらった。どの店の何が安くて何の品質がいいのかも一通り教えてもらったので、迷わず目的のものを購入できた。現地人の知識、本当にありがたい。


 あとは念のため火を起こす道具も買い足して──


「そう言えばキミ、すっかり忘れているようだけど……というか多分周りもそういう認識でいると思うんだけど」

「ん?」

「完全に目が見えてる人の振る舞いだよね。その辺ちゃんと考えてるの?」

「……んん?」


 一瞬、白夜の言葉の意味が理解できなかった。が、少し遅れて理解するなり頭を抱える。

 言われてみれば確かに、目が見えないなら調査はおろか採取系の仕事もできるはずがなく。どうやって品種判定して要望通り採取してきてるんだって話になる。

 うっわぁ、そういうの全く頭になかった。


「とりあえず、見えてるっていう設定でいいんだよね?」

「設定……そっすね。もうほんと、今さら目が見えてないんですとか言っても説得力皆無だし」


 眼球を通して認識しているのではないにしても、見えてるのだから問題ないだろう。


「そういえば俺もひとつ気になってたんだけど」

「なに?」

「街の外に出ても魔物に遭遇しないのって何で? 周りの話を聞くともっと頻繁に遭遇するみたいなのに、ドイロックに来てから俺、一回も魔物に遭遇してないんだけど」


 もっとこう、一定確率でエンカウントしてバトル勃発! みたいなのがあると思ってたわけよ。なのに俺の魔物との遭遇率の低さったら、ほぼゼロと言っても過言ではない気がするんだけど。


「そりゃあ、それだけ神気を発してたら木っ端は近寄ってこないよ」

「ん? どゆこと?」

「魔物は基本的に神を畏れてるからね、それに連なる者にも畏れを抱くんだ。とは言え神を畏れない魔物もいるし、腹が減れば畏れをかなぐり捨てて向かってくるのもいるけど」


 えぇー……そうなのか。ちょっと残念。

 そう思ったのが顔に出たのか、「面倒なことに煩わされなくていいじゃん」と言われてしまった。


「いや、でもさ。もうちょっとこう、異世界の雰囲気を満喫したいというか」

「……はぁ」


 ちょっ、ため息つかれたんですけど!?

 まぁ白夜が面倒がるのもわかるよ。移動するだけで次々と魔物に寄ってこられちゃ確かに面倒だ。

 でもこちとらこことは異なる世界出身で、漫画なりゲームなりの空想世界でしか魔物なんてものを知らないわけで。ちょっとくらいそれっぽい体験をしてみたいと思う気持ちがあっても──


 いや、だめか。そもそもそんな風に軽く考えてしまっているのがだめなんだ。

 もっとここが現実であるという認識を持たないとまた命に落としかねない。クラスメイトには生き延びてほしいと言いながら、自分の命を軽んじるような考え方をしてちゃだめだよな。


「……そうだよな、魔物に絡まれないのはいいことだよな」

「当たり前だよ。と言いたいところだけど、まぁキミの気持ちもわかる。ボクの名付け親も似たようなこと言ってたし」

「へぇ」


 白夜が名付け親の話をするなんて初めてじゃないだろうか。確か俺と同じ世界出身者だって話だったよな。

 ちょっと興味が出て聞こうとしたけど、「ほら、発火石も買うんだろ?」と近くの商店に意識が向くよう見えざる力に誘導される。これたまにやられるんだけど一体どういう仕組みなんだろう。

 いずれにしてもはぐらかされたような気がするので突っ込んで聞くのはやめておこう。白夜の機嫌を損ねることだけはしたくない。


 そんなわけで発火石をふたつほど購入して魔物調査に向けた準備は整った。体が鈍らないよう続けている鍛錬も街の外にいる間に終わらせたし、あとは夕飯を食べて眠るだけ……と思っていたら。


「クライルさん、ちょうどいいところに!」


 背後からゼシカさんの声がした。振り返れば顔が半分隠れるくらいの大荷物を抱えたゼシカさんの姿が。あの細腕でよく持てるな。


「随分買い込んだなぁ」


 とりあえず重そうな袋を引き受けると、顔を真っ赤にして荷物を運んでいたゼシカさんが「うわーん、クライルさんありがとう〜」と声を上げた。

 これはもう少し荷物を減らしてあげないとつらそうだな。バランスを見ながらもうひとつ袋を受け取るとようやくゼシカさんの顔色が落ち着いてきた。相当無理して持ってたんだろうなぁ……。


「みんなおまけしてくれるのは嬉しいんだけど、片っ端から貰ってたらすごい量になっちゃって。しかも面白がって持てるだけおまけしてやるなんて言うから……」

「それで欲張って目一杯おまけしてもらったら、この状態になったと」


 図星だったのだろう、ゼシカさんは俺から視線を逸らした。

 ゼシカさんってそういうところあるよなー。とにかく「おまけ」とか「お得」って言葉に弱い。気持ちはわかるけども。


「まぁ俺もちょうど宿に戻るところだったし、付き合うよ。他に寄るところは?」

「それは大丈夫、必要なものは全部買ったから」

「そう、じゃあ帰ろうか」


 荷物を抱え直すゼシカさんの少し後ろを歩いてサリアさんの店へと向かう。ここでゼシカさんと並んで歩かないのがミソだ。並んで歩くと視線で殺される。

 と言うのもどうやらこの世界、ゼシカさんくらいの年齢──つまり俺と同年代くらいになると結婚適齢期に入るらしく、この年代で相手の決まっていないゼシカさんはその人柄と笑顔の可愛さで未婚の男性陣に人気らしい。


 なので同年代の俺が隣を歩くとゼシカさんを狙う男たちから睨まれる。ついでに言えばゼシカさんの婚期にも影響しかねない。

 なのでいかにも護衛ですよ〜的な立ち位置を歩いている……んだけど、問題はゼシカさんがそういうのを気にせず話しかけてきたり、隣に並ぼうとすることなんだよなぁ。空気読めない子なのかしら。



 そうしてチクチクと視線で刺されつつ歩くことしばし。ようやくサリアさんの店に到着する。


 出迎えたサリアさんは大量のおまけをゲットしてきたゼシカさんを褒め称え、荷物持ちを手伝った俺に夕飯をご馳走してくれた。今日は食材が山ほど手に入ったから夕飯も豪華だった。

 サリアさんのお店の料理は美味しいし、腹一杯食べられて大満足だ。


 俺は幸福感に満たされたまま宿に戻り、早々に眠りについた。

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