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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 炭鉱街ドイロック編
22/113

異世界生活を満喫中

 引き受けちゃったぜ。だって報酬がよかったんだもん。


 ということで、逃がさんとばかりに迫ってきた髭の衛兵さん、もといドイロック衛兵隊隊長である髭隊長さんから告げられた内容は、聞いてみれば身構えるほどのものでもなく。

 近場の平原に見慣れない魔物が現れたという報告があったものの、調査に必要な人員が確保できなかったため臨時の調査員を雇いたいというものだった。


 調査内容はその魔物の特徴や危険度を中心に、得られる情報があればどんな些細なものでも拾ってきて欲しいとのこと。

 拘束期間は五日間。朝の鐘が鳴る頃から夕の鐘が鳴る頃まで。平原には他の魔物も現れるため、危険手当込みで提示された報酬は。


「はぁ!? 金貨十枚!?」


 と、思わず素が出てしまうほど破格だった。さらに万が一調査対象の魔物と戦闘になり、討伐に成功すると。


「さらに金貨十枚〜!?」


 そんな金額、仕事斡旋所で見たことないんだけど!?


 まぁ俺は見た目が聖職者なせいか紹介される仕事が軒並み危険を伴わないものばかりで、だからこそ報酬も微妙だったんだけど。

 一方で衛兵隊からの仕事は日割り計算すると普段の二倍以上の稼ぎになる。さらに魔物を倒せばその倍に……こんなの飛びついてしまうに決まってる。


「よかったね、クライルさん。指名で仕事を依頼されるとその人は信用できる人だっていう評価に繋がるの。しかも今回は衛兵隊からの指名だから信用度もかなり高くなるよ。つまりこの仕事を受けた時点で仕事斡旋所のクライルさんへの信用も相当上がるはずだから、今よりいい仕事を回してもらえるんじゃないかな」


 宿に戻る道すがらゼシカさんがそう説明してくれた。これは一石二鳥どころか一石三鳥。破格の報酬に加え周囲の信用が得られ、尚且ついい仕事ももらえるようになるとは。引き受けてよかった。


「でも危険な仕事であることには変わりないから、くれぐれも気をつけてね」

「わかった」


 本当に心配してくれているのだろう、ものすごく真剣な目で念を押されてしまった。

 まぁ調査対象は詳細不明の魔物だし、もしかしたら巨大緑熊みたいな危険なやつかもしれないからな。慎重にいこう。


 ちなみにゼシカさんがこの時間帯に外に出てたのは店で使う食材の買い出しだったそうで。ついでなので買い物に付き合ってから宿に戻った。




 宿に到着すると双子が出迎えてくれた。この双子はサリアさんとガディルさんの子供、つまりゼシカさんの弟妹で、男の子がヨエル、女の子がノエルという。


「あっクライルだ! 今日はいい仕事見つかった?」

「またお店のお手伝いする?」


 ヨエルとノエルは駆け寄ってくるなり無邪気に辛辣な言葉を浴びせかけてきた。というのも、つい先日までの俺の懐具合が原因なんだけど。


 仕事斡旋所に通い始めた当初は新顔なこともあって仕事をもらいに行ってもごく簡単な仕事、それも単数でしか受託させてもらえなかった。

 稼ぎは不十分。当然俺の生活は綱渡りになり、テックス様からもらったお金を切り崩しながら日々を過ごしていた。

 それを見かねたサリアさんとガディルさんが店の手伝いをしたら食事代と宿泊費を格安にすると言ってくれて、ありがたくお言葉に甘えさせてもらったのだ。


 しかしその結果、ヨエルとノエルは俺に対してお金に困っている人という認識を持ってしまったらしい。故にこうして俺の懐具合を心配してくれてるわけなんだけど……。


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。今日の仕事はいつものやつだけど、今度稼ぎのいい仕事をやることになったから」

「本当!?」

「おめでとう、クライル!」


 俺以上に喜んではしゃぐ双子に癒されながら傷つくというなかなか体験できない気持ちを味わいながら、とりあえず今日は今日で受けた仕事をこなしに支度して出かける。

 支度と言っても丈夫なエプロンと革手袋を身につけて、道具やら水筒やらを入れたリュックを背負い込むだけなんだけど。


「今日も今日とて薬草採取とキノコ採取……」


 街の外に出るなりぼそりと聞こえてきたのは、ここ数日でよく耳にするようになった白夜の呆れ声。

 仕事斡旋所で紹介される仕事で俺に出来そうなのが採取系しかなく、来る日も来る日も同じようなことを繰り返しているからこその反応である。


 だって子守とか家事代行とか俺には無理だし、荷運びとかの力仕事があればいいなと思ってたんだけど紹介してもらえなかったし。

 当てが外れたのはたぶん、この見てくれのせいだろう。あの小悪党にもひ弱そうとか言われたからなぁ……。


 それは置いといて。


「いいじゃん、採取系の仕事。スワイズ様から教えてもらった知識が大活躍!」


 確かに採取系の仕事は実入りが少ない。でも安全に、その日必要な分だけ稼ぐなら採取系でも十分目的を達成できる。


 ちなみに俺が薬草採取を半日頑張ると大体銀貨五枚くらいの稼ぎになる。

 ガディルさんの宿に一泊で銀貨三枚(さすがにずっと銀貨一枚は申し訳ないので今は通常価格を支払っている)、サリアさんのお店で朝昼晩食事して銀貨二枚前後。

 つまりその日暮らしでよければ半日働けば事足りるのだ。もちろんその日暮らしなんてするつもりはないから半日と言わず日暮れ間際まで頑張るんだけども。


 で、採取系の仕事をする上でめちゃくちゃ役に立っているのがスワイズ様から教えてもらった知識だ。薬草の見分け方に始まり群生しやすい環境の情報、加えて野生の食物の知識も。

 おかげで仕事はすこぶる順調、採取対象を探す作業も結構……いや、かなり楽しい。

 初めて実物を見つけた時の感動ったら。思わず「本物だぁぁあ!」と大声を上げて白夜に呆れられてしまった。


 そして採取系の仕事の最大のメリットは薬草採取が常設依頼であることだ。薬草を採れば採っただけ稼げる。

 並行して他の採取系の仕事も受託すれば効率よく稼ぐことができる。


 ただし、調子に乗って三つ四つまとめて受託すると効率が下がることもあるから加減が大事。

 基本は薬草採取ともう一つ受託して、依頼外でも売れるものを見つけたらついでに採取しておくくらいでちょうどいい……というのをこの数日で学んだ。


「こうやってこの世界の生活に馴染んでいくんだなぁ」

「ドイロックには馴染みすぎだと思うけどね。永住する気?」


 発見した薬草を丁寧に採取しながらしみじみ頷いていると、すかさず白夜が問いかけてきた。


「いや、ある程度お金が貯まったら他の街に移動する。ここは居心地いいけど、折角の異世界なのに堪能しないのは勿体ないし」


 テレビや雑誌ですら見たこともないような景色を、人々の暮らしを、自らの足で見にいける。こんな楽しみはそうそうないだろう。


 元の世界ではあまり旅行とか興味なかったんだけど……何だろう、この世界に来てから──と言うよりもサリスタ様の眷属になってから、物の見方や感じ方が変わったような気がする。


「次は商業都市に行ってみようかな」


 浮き立った気分のままに、この先の旅路に思いを馳せる。


 次の目的地を商業都市マルトレンに定めるとして、マルトレンはどんな感じの街なんだろう。商業の街だし、きっと色んな物が売ってるんだろうな。あとすごく賑やかそう。

 賑やかと言えば王都も賑やかだったな。でも観光はしなかったんだっけ。もったいないことをした。

 王都と言えばみんなはどうしてるかな。洋介から連絡もないし、きっと順調なんだろうけど……。


「……」


 あっという間に思考が逸れた。

 しかしそんなことを考えたのも虫の知らせというか、第六感的な何かだったのかもしれない。不意に首から下げていたペンダントに意識が引き寄せられる。


「通信が来たね」


 人目がないのを確認して元の姿に戻った白夜がペンダントトップの板に触れる。すると俺の内には存在しない不思議な力の流れを感じ取った。魔力だ。どうやら白夜が魔力を注ぐことで応答しているらしい。


『秋生、聞こえるか? 秋生ー? これ本当に繋がってんのかね……』


 疑心に満ちた洋介の声がやけにクリアに聞こえる。通信しているというよりすぐ近くから声だけ聞こえているような感じだ。

 その違和感をちょっと気持ち悪く思いつつ、「聞こえてるぞー」と返してみる。すると向こうも『うおっ、めっちゃはっきり聞こえる。きもちわるっ』という反応。ですよねー。


「どした。何か問題発生か?」

『あー……いや、なかなかひとりになれる時間が取れなくて連絡できずにいたんだけど、今どうしてるかなと思って。てかお前、あの馬鹿でかい熊を倒したんだってな? 自分で自分の仇取るとか……まぁおかげでお前も大概化け物だってことがよくわかったわ』


 なんだなんだ、人を化け物呼ばわりするために連絡してきたのか?


「世間話がしたいんかね? 悪いけど俺いま労働中だから特に異変がないならもういい?」

『わーっ、ちょっと待て! 異変はないけど聞きたいことがある!』

「聞きたいこと?」


 首を傾げながらも手元では薬草採取を続行する。会話しながらでもできる仕事でよかった。


『そう。その……体の、鍛え方について』

「──ほぅ?」


 それを俺に聞いちゃうかね。聞いちゃうんだね?

 よし、教えてしんぜよう! ストレイル様の素晴らしき名言集も添えてなぁ!

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