典型的な小悪党ってやつですね、わかります
ここは表通りから少し外れた路地裏。そんな場所で俺は足下で床ペロならぬ土ペロしている二人の男を見下ろしていた。
何が起こったのかと言えば、突然襲われました。なので返り討ちにしました。以上。
こういうことって本当にあるんだなぁ。
でも図体がでかいだけで大したことはなかった。こんなのストレイル様の準備運動にすら及ばないぞ?
「くっ、ひ弱そうななりをしてるくせになんて動きしやがる……!」
「完全に不意をついたはずなのに……」
ひ弱そうって……失礼な。ゆったりした服を着てるからわかんないだけで、ちゃんと筋肉ついてるんだぞ。
あと何だって? 完全に不意をついたって? そんな馬鹿な。気配を隠してる様子なんてなかったじゃないか。
つまりコイツの言う不意をつくとは、ただ背後から急襲することを指してるんだろう。けどな、不意打ちってのは完全に認識の外から仕掛ける攻撃のことを言うんだよ。つまりあんなのは不意打ちとは言わない。
まぁそれは置いとくとして。
「で、何で俺は襲われたわけ? 理由を聞かせてもらおうか」
状況を把握するためにちょっと凄んでみる。しかし迫力不足なのか、男たちは唾を吐き捨てるのみ。
こうゆう時ってどうしたらいいんだろう。確か街を巡回してる衛兵さんがいたな。探して引き渡すか?
そんなことを考えていると、俺の目を盗んで男たちが逃げ出そうとした。なので足を払いをかける。
勢いよく走り出した分、勢いよく顔面から転倒してたけど放置。どうやって衛兵さんを探してくるか、その間こいつらをどうするか考える。
「クライルさん!?」
どうしたものかと困り果てていると、ここ数日で聴き慣れた声がした。ゼシカさんだ。
「あ、ちょうどいいところに。コイツらいきなり襲いかかってきたんだけど、そういう奴ってどうしたらいいんだ? 衛兵さんに引き渡せばいい?」
「おそっ、襲われた!? ちょっと大丈夫なの!?」
「それはご覧の通りなんだけど……」
倒れ伏す男たちを示すとゼシカさんは目を見開いた。それから俺の顔を見て、再び男たちを見て、もう一回俺の顔を見て、再々度男たちを見る。首の運動かな?
「そういえばこの時間に外にいるなんて珍しいな。どうしたん?」
いつもならサリアさんの店の手伝いをしている時間帯だ。そんな時間帯にゼシカさんが外にいることを不思議に思って尋ねていると、再び逃げ出そうと匍匐前進を始める男たち。仕方なく体がでかい方の背中を踏みつけて牽制する。
「往生際が悪いなぁ」
「くそっ、足をどかせ!」
「兄貴ぃ!」
踏みつける位置が良かったらしく、暴れようがもがこうが足の下から抜け出せないでかい方と、俺の足を掴んで持ち上げようとする小さい方……と言ってもこっちも結構でかいけど。いずれにせよ、俺の足はびくともしない。
しかしこう何度も逃走を図ろうとされては面倒だ。憲兵さんに引き渡すにしても、一旦気絶させとこうかな……。
なんてことを考えていると、表通りから「こっちです!」という声が聞こえてきた。すぐに揃いの軽鎧を身につけた男たちが現れる。
おお、衛兵さんの方から来てくれた! ラッキー。
彼らは俺たちから少し離れた場所で立ち止まり、先頭にいた髭の衛兵さんが俺と俺の足下でわちゃわちゃしている男たちを見比べた。
そしてみるみる顔を真っ赤にしてぶるぶると震えだす。怯えからくる震えではないことはその怒りの形相を見ればわかる。今にも噴火しそう──というか、噴火した。
「喧嘩だと聞いて来てみれば……アンゴル、ズモル! またお前たちか!」
一喝! 耳を塞ぎたくなるような大音声で男たちを叱り付ける。
「このかたに誠心誠意謝罪しろ! この小悪党どもがッ」
髭の衛兵さんが怒りの声をあげる一方で、ほかの衛兵に拘束された男たちはそれを無視する。その態度をまた髭の衛兵さんが叱りつけ、男たちは知らんふりをし……しかしそんな不毛なやり取りはそう長く続かなかった。髭の衛兵さんは言葉を切り、ふっと短く息を吐く。
「反省の色なしか……お前らはよほど牢屋生活が気に入っているようだな?」
ギラリとした目、凶悪に吊り上がる口端。恐らく駆けつけた衛兵の中で一番偉いのであろう髭の衛兵さんが手を一振りすると、部下の衛兵たちが男たちを引っ立てていく。男たちもあくたれながらも慣れた様子で連れて行かれた。
捕らえる方も捕われる方も、あらかじめこうなることが決まっていたかのような淀みなさ。
つい見送ってしまったけど、俺的には何とも宙ぶらりんな結末だ。ちゃんとした謝罪もなく、それどころか事情聴取すらされず。
衛兵が現場に到着すると同時に犯人が特定され、被害者放置のまま逮捕されていったようなこの状況。なんだかなぁ……。
「あのふたりはね、この街ではちょっと有名なやつらなの」
ひとりでもやもやしていると、ゼシカさんが話しかけてきた。曰く、あの男たちは重罪にしにくいような小さな悪事を繰り返していて、幾度となく牢に入れられているらしい。
「クライルさんを襲ったのもその仮面や錫杖を奪おうとしたからじゃないかな。見るからにいいものだもの、お金になると思ったんじゃない?」
「あー、なるほど」
そんな会話を交わしていると、髭の衛兵さんが近付いてきた。
「神使様、この度は我々の監督不行き届きで迷惑をかけて申し訳ない。あのふたりには監視をつけていたのだが巻かれてしまってな。次に釈放する時は監視人員を増やして練度の高い者に見張らせるようにしなければ……」
最後の方は独り言なのかブツブツと呟きながら謝罪してくる髭の衛兵さん。改めて見てみれば、先ほどの苛烈な様子が嘘のように穏やかそうな中年男性だった。まぁその表情も今は深刻そうに沈んでいるのだけども。
「そんなに犯罪を繰り返しているのでしたら、ずっと牢に入れておくことはできないのですか?」
偉い人っぽいのでなんちゃって見習い聖職者発動。気になったことを聞いてみる。
「それがなぁ……牢に入れておくにもあいつら半端なんだよ。あの程度の犯罪者を牢に入れて監視下のもとで養うってのも難しくてな」
なるほど。牢屋に入れておくだけでも金がかかると。
だとしても。
「でも釈放したらしたで監視のための人件費がかかりますよね? それに彼らは懲りずに再犯してるみたいですし。それってどうなんです?」
俺の感覚としてはこれに尽きる。この世界の感覚とはズレてるんだろうけど、それならそれでこの世界の感覚とやらを聞いてみたいと思った。
その結果。
「それもわかっちゃいるが……ぶっちゃけあいつらの行動範囲なんてこの街の中がせいぜいだ。監視の人間はそのまま巡回もできるし、仮に再犯したとしてもやつらああ見えて小心者なんでな。大物には手を出さない、人命に関わるようなことはやらかさない、という信頼みたいなもんがある」
おっふ。そうきましたか。
でもなるほど、この街では大物に手を出さず人命に関わる犯罪を犯さなければある程度許容されるんだな。
「そうですか、わかりました」
とりあえず覚えておこう。そう思いながら引き下がると「それはそうと」と髭の衛兵さんが身を乗り出してきた。サリアさんと言いこの衛兵さんと言い、ちょっと距離感が近すぎじゃなかろうか。
「神使様は随分と腕が立つようだな? あいつらはどうしようもない小悪党だが腕っ節は確かだ。加減も知ってる。つまりそれなりの達人ってわけだ。それを無傷で下すとは」
「あー……それはアレです、ひとりで旅をしてるので自分の身を守るくらいはできるというか」
あれで達人扱いなのか……この世界の基準がわからなくなってきたぞ?
そんなことを考えながら問いに答えると、髭の衛兵さんは「ほう」と呟きニヤリと笑んだ。何なのその笑みは。ちょっと恐いんですけど。
「なぁ神使様、今懐が寒かったりしないか?」
「それは……」
正直懐具合はだいぶ寒い。何せ今も生活費を稼ぐべく斡旋所で仕事をもらってきたところだ。その帰り道で襲われたわけだけど。
しかし肯定するのが恐い。何故だかとても恐い。
「実は衛兵隊から仕事斡旋所を通して指名制で出している仕事があるんだが」
じり、と髭の衛兵さんが一歩近づく。じり、と俺は一歩下がった。
「かなり割のいい仕事でな……」
さらにじり、と髭の衛兵さんが近づいてくる。俺もさらにじり、と下がった。
「どうだろう、神使様。この仕事、受けてみる気はないか?」




