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女神様の眷属  作者: みぬま
おわりとはじまり
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異世界召喚

 ことの起こりはなんの変哲もない日常の、授業終わり。突如教室の床が光り出し、光が収まった時には景色が一変していた。


 その場には二年C組が全員いて、呆然とした様子で周囲に視線を巡らせている。

 俺──倉田(くらた)秋生(あきお)も自分の置かれている状況を確認しようと軽く混乱しながら周囲を見回して、見慣れぬ格好の見知らぬ人々に囲まれていることに気がついた。


 俺たちを囲んでいるのは金属製の鎧を着たいかにも兵士といった風体の人たちと、ローブを纏ったいかにも魔法使いといった風体の人たち。

 今いる場所も明らかに教室とは異なる、広い石造りの部屋のようだ。


 で、その中心部に俺を含むクラスメイトがいて、更にその周りにファンタジーっぽい世界観の人がたくさんいる、と。


 以上を踏まえて俺たちの身に起こっていることを既存の知識と突き合わせてみると、そんなばかな、でももしかして、と思わざるを得ない言葉が思い浮かんだ。



 ──異世界召喚。



 うわー、うっそだろ?

 こんなこと、本当に起こるもんなの??


 俺が混乱を深める一方でクラスメイトたちも当然のごとく混乱していて、中には泣き出す人も出始めた。


 そんな中、俺たちを囲う人々を割って現れたのは、いかにも王様といった風体の初老の男性。

 全体的に柔らかい印象を受けるその人物は、俺たちの様子を見て一瞬訝しげな顔をした。しかし次の瞬間には何かに気付いた様子で目を見開き、「申し訳ない!」と王冠がずり落ちんばかりの勢いで頭を下げた。


「我々は、『救世主』は──召喚で現れる方々は神より遣わされる存在であると、只人ではないと信じ込み、召喚される側のことを全く考慮していなかった! 突然拐かされ、さぞ不安を、恐怖を抱かせてしまったであろう。本当に、本当に申し訳ない!」


 あまりにも感情のこもった謝罪に面食らって、俺たちはしんと静まり返った。


 幸いうちのクラスは温厚な人間がほとんどだ。不良っぽいのもいるけど根はいいやつだし、こんな場面で胃が痛くなるような言動をするクラスメイトはいなかった。


 さらに言うなら召喚主側も悪人ではなさそう。王様の謝罪も本心からっぽいし、「お前は無能だから廃棄ね」みたいなムーブは起こりそうにない。

 よかったよかった。




 その後なんとか落ち着きを取り戻した俺たちは、クラス委員長の桜庭(さくらば)さんを代表者として王様の謝罪を受け入れ、事情を聞いてみることにした。


 そうして聞き出した内容を要約すると、どうやらこの世界では数年前から魔物が大幅に増殖し、人間の領域を侵し始めているそうで。特に魔王とかわかりやすい元凶がいるわけでもないらしく、魔物が増殖した原因は不明。

 原因を究明したくとも現状では増殖し続ける魔物への対応で手一杯……どころか、魔物がどんどん強くなっていて人間側が押され気味なのだとか。


 そこで各国で話し合った結果、時空を司る神に慈悲を請い、「救世主」を遣わしてもらうことにしたそうだ。


 ……なるほど、時空の神ねぇ。

 恐らくその神様によって俺たちは「救世主」としてこの世界に連れてこられたのだろう。ならばその逆──その神様にお願いすれば、元の世界に帰ることも可能なんじゃないだろうか。


 同じことを考えたようで、クラスの中でも割とよく俺とつるんでいる生徒、大島(おおしま)洋介(ようすけ)が挙手して王様に質問する。


「それってつまり、その時空の神様にお願いすれば元の世界に帰ることもできるんですか?」


 王様の返答は肯定。おぉー、やった! 帰れるのか!

 まぁこちらで過ごした時間があちらの世界にどう反映されるのかは気になるところだけど……こればかりは王様にもわからないようで申し訳なさそうにしていた。


 それと、帰るにも色々と準備が必要らしい。

 まずは時空の神に助けを請うために必要な対価として、上質な魔晶石が大量に必要なんだそうで。

 魔晶石は魔物を倒すことで入手できるけど、上質な魔晶石となると強力な魔物からしか入手できないから手に入れるのは困難なのだとか。


 今回の召喚に使ったものは他国の協力があったおかげで迅速に集められたけど、逆に言えば各国の手元にあったいい感じの魔晶石は今回の召喚で使い尽くしてしまったらしい。つまり集め直しが必要になる。


 あとは召喚の儀──俺たちが求めているのは帰還の儀だな──を行うための人材、魔法使いが必要となる。それもかなりの実力者が。

 しかし儀式を行う際、魔法使いは体内に持つ魔力の器を犠牲にしなければならないそうで、それを了承してくれる魔法使いは滅多にいないのだとか。つまり、魔晶石以上に人員を確保する方が困難になる。


 これは絶望的かと思いきや、幸いこれには解決方法があった。代償とするに値する魔力の器は、俺たち被召喚者の体内にも備わっていたからだ。

 つまり帰還のための儀式は俺たち自身が行えば成立する可能性が高いとのこと。


 うむ、これは案外悪くない状況なのでは。

 その他諸々の必要なものは手と金を尽くせば何とかなるそうで、これについては王様が責任を持って用意すると断言してくれた。

 ならば俺たちは準備が整うのを待てばいい──とはならないのが、若さってやつなのかもしれない。もしくは王様の人柄に絆されたのやも。


 まず最初に挙手したのは委員長だった。


「私たちも魔晶石集めに参加できませんか? その方が早く集められるでしょうし、早く集まれば私たちも早く帰れるわけですし。ただ、それぞれ意見があると思うので参加するのは希望者だけで」


 さすが委員長、現実的な意見だ。

 するとそれに続く声があがった。


「話を聞いてると本当に困ってるみたいですし、力になれるのなら僕は協力したいと思います。少しでもみなさんの助けになりたい」


 おぉー、なんか正統派主人公っぽいこと言ってるな。そんな言葉を堂々と口にするとはさすが瀬良(せら)くんだ。

 もし召喚された俺たちに職業なり称号なりが付くとすれば、間違いなく『勇者』は彼だろうというテンプレ的文武両道イケメンである。


 そんなクラスの代表格とも言うべきふたりの発言のあとも話し合いは続いた。

 そして最終的に俺たち二年C組は王様たちの庇護の下、この世界で生きる術──つまるところ武術や魔法、加えてこの世界の常識を学ぶ運びとなった。




 というのが、およそ一ヶ月前の話。




 不良くんを含め「何で俺が」的な文句を言うやつらもいたけど、とりあえず安全な城内での訓練や学習についてはみんなが受け入れた。

 とは言え、時折サボる面子も出てくる。でも衣食住の保証に加え何かと気にかけてくれるこの国の人たちを前に、サボり続ける性根を持った人間は二年C組にはいなかった。


 そうして一ヶ月。一定の知識と戦う術を身につけた俺たちは王都近くの森に向かった。それが今日、この日。

 目的のひとつは森での薬草採取。もうひとつは道中で遭遇するであろう魔物との実戦訓練。


 この国は比較的魔物の被害が少ない国で、向かう先の森も小動物が生存できるくらい安全。道中も王都から近いこともあって危険な魔物はいないらしい。

 その上で精鋭兵に守られて、少しずつ魔物との戦いにも慣れてきて、ようやく辿り着いた森はとても静かで。


 小動物どころか魔物の気配もない。何かがおかしいと隊長さんが呟いたのは、警戒しながら森の中を三十分ほど進んだ頃。

 静かすぎて不気味だった。この森に来たことのない俺たちですらその異常さを感じ取っていた。


 そして隊長さんの言葉を耳にして不安が増したその時、あいつが現れたのだ。


 俺はあっさりと命を刈り取られ、あまりにも短い異世界生活に別れを告げることに……なった、はず。なんだけどなぁ。


 あれぇ?

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