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女神様の眷属  作者: みぬま
エインルッツ王国 王都編
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生存率を上げましょう

 再起の奇跡を施すと鈴木さんも見事に立ち直った。誰よりも挫折具合が深刻だったからか、再起っぷりも飛び抜けてすごかった。

 まぁちょっと反応に困る言葉を喰らうことになったけど……それはそれとして、元気になったようで何よりだ。


 しっかしこの奇跡の力は恐ろしいな。

 本来であれば時間をかけて立ち直っていくものを、無理矢理ひっぱり上げた感が半端ない。あとやっぱり洗脳臭くて恐い。

 今後はできるだけこの力に頼らないようにしよう、そうしよう。




 挫折組とのやりとりを終え、その後話しかけてきた人たちにも応じつつ場所を移動する。

 向かった先は懐かしき訓練所。委員長から俺が武芸もかじっていることを伝えてもらい、みんなの腕前を見せてもらうことになったのだ。


 訓練所に着くと訓練中の兵士さんたちが笑顔で迎えてくれた。けれど見たことのある顔がいくつか見当たらない。そのことを少し寂しく思いながら、みんなには得意な武器を持ってもらう──その前に。


「まず確認なのですが、体力はどの程度つけていらっしゃいますか? 魔物相手というのは訓練と違って気力・体力ともに消耗が激しいものです。武器の扱いを覚えるより先に基礎となる体力を養うことをお勧めします」


 みんなにはどんな状況にあっても命を守ることを第一目的にしてもらいたい。

 となれば全ての基礎となる体力をつけてもらうのは必須だろう。戦うにしても逃げるにしても体力があって困ることはないんだし。


 ちなみに魔物相手云々に関しては城での訓練で言われたことだからみんなも承知してるはず。だから敢えて言う必要はなかったんだけど、体力をつけろという話の前置きにちょうどよかったから使わせてもらった。


「あの、一応僕たち、この訓練所の内側を毎日二十周くらい走っているのですが……」


 足りないでしょうか? と瀬良くんに問われて訓練所を見回す。

 高校の外周距離と比較するとこの訓練所の内側は一周当たり五百メートルくらいだろうか? つまり一日に走る距離はおよそ十キロ。うーん。


「ここから隣街までってどれくらい距離がありますか?」

「ええと、最寄りの街までは三十キロくらいだったかと」


 何気なく投げかけた問いには委員長が答えてくれた。さすが委員長。ただでさえ高かった俺の委員長に対する尊敬度がアップする。

 一方でこの世界でも距離の単位は元の世界と一緒なのだろうかと悩んでいると、俺の中で委員長と同等かそれ以上に信頼度の高い相棒がぼそりと教えてくれた。


「過去にもキミたちと同じ世界から召喚された人がいるからね、その単位でも通じるよ。でもってここから隣町まではその子の言う通り三十キロメートルくらいだね」

「なるほど」


 この会話もきっと遮断してくれていると信じて応じると、咳払いをひとつ。


「そう、ハナコ殿の言う通り、隣街までの距離はおよそ三十キロメートルほどあります。正直に申し上げると、それくらいは休憩なしで走れた方がいいでしょう」


 俺の言葉にクラスメイトたちから「はぁ?」とか「えー!?」とかそういう反応が返ってくる。

 気持ちはわかる。けど兵士さんたちを見てごらん。うんうん頷いてるだろ?


「はっきり申し上げて村や街、場合によっては王都ですら確実に安全な場所とは言えません。たまたま立ち寄った街に魔物が大挙して押し寄せてくる、なんてことも起こり得るのです。そのとき戦えるだけの戦力がある、または戦って勝てるような相手ならば問題ないでしょう。しかし状況によっては街を捨てて逃げなければならない場合もあるのです」


 これはストレイル様から聞いた話だ。

 けれどそれが事実であることはこの世界の環境や状況を考えれば十分理解できる。


「そのときを見越して、隣街まで逃げ切る体力を身につけた方がいい、と?」

「ええ。まずは想像してみてください、あなた方はすでに知っているはずです。逃げなければ命を落とすという状況を」


 瀬良くんの問いに何よりも効くであろう言葉を投じれば、目論見通り反論の声は上がらず。納得の表情が大半を占めた。

 よしよし、生存率は全力で上げて行こうな。


「ちなみに、クライルさんはどれくらい走れるんですか?」


 おっ、いい質問だなぁ洋介! めっちゃ俺の実力を疑ってる顔してるけどスパッと答えてやんよ。


「私は二つ先の街まで走れます」


 地獄の特訓舐めんなよ?

 そもそも加護パワーがあれば食欲と睡眠欲に負けない限り延々と走れるんだぜ! 吐くけどな!


 ドヤりたいところをぐっと我慢しつつ、この世界の兵士ならこれくらいが標準だと教えられた距離でお答えする。

 するとクラスメイトたちがざわつき始めた。


 まぁフルマラソン越えの距離だからざわつくのもわかる。わかるが現実を受け入れてほしい。理想はそれくらい走れるようになることなんだから。


「まぁでも体力は日々の努力で伸ばせますし、魔力をお持ちなら魔法で補うこともできると聞いたことがあります。なのでこの話はここまでとして、みなさん得意な武器を持っていただいてもいいですか?」


 とりあえず一番伝えたかったことは伝えられたので、当初の目的通りみんなの実力をチェックするぜ!


 と言っても俺はストレイル様と実戦オンリーの修行をしただけだから型とかよくわからないし、本職のような目は持ってないのだけども。

 それでも俺レベルの素人が見てわかることくらいはアドバイスできるはず。


 ということで、みんなに武器を持ってもらったわけなんだけど……。


「直接打ち込んでもらった方がわかると思うので剣術組から順にやってみましょうか」


 見本や型を見て覚えるのではなく実戦から学べ的な修行しかしてこなかったせいか、横から見るより正面から受けた方がやりやすそう。

 ということで直接の打ち込みを提案してみたのだけど、全員が全員困ったような顔をしている。なぜだ。


「あの、クライルさん。ここまでずっと違和感がなかったので失念していたのですが、クライルさんって目が見えないんですよね……?」


 誰か言えよ的な空気の中、前に出てきてくれたのはやはり委員長だった。んでもって当然と言えば当然のことを言われてしまった。

 そうだね、俺、目が見えないんだったね。目を介さない形では見えてるけども、そんなのみんなが知る由もないわけで。


「あ、あー……なるほど。そうですよね、そう思われますよね。でも目が見えない代わりに気配には敏感と言いますか、音の反響とか空気の流れで何となく周りの状況は掴めてるんですよ」


 実際に視覚情報をカットしても問題なく動けるんだけど……うむ、ここはボロを出さないためにも視覚情報はカットしておこう。

 わぁ、何にも見えないや。でも感じることはできる。委員長がクラスメイトたちを振り返ってどうしたものかと伺っている。


「論より証拠──でしたっけ。どなたか試しに打ち込んでもらえませんか?」


 危うくこっちになさそうな言い回しをしてしまったものの、ストレイル様がチリツモを知ってたんだし誤魔化せるだろう! と押し通して呼びかけてみる。

 けれど反応はなし。困ったなぁ。


「あ、あの、では私が」


 と名乗り出てくれたのは声からして様子を見ていた兵士さんだろう。視覚を遮断したまま相手を確認してみる。


 聞こえてきた音から予想するに手に持っているのは木剣だな。声の響きと足音の重さ、空気の揺らぎから、体格は俺より大きくてかなり筋肉質なことがわかる。

 積極的に向かってこようという気迫が感じられないしこちらの様子を窺っていることから、かなりの慎重派……と。


 なるほど。


「ありがとうございます。ではお好きなタイミングでどうぞ」


 一通り相手を把握してから錫杖を手に待ち構える。と言っても構えらしい構えは取らずに自然体で立っているだけ。

 だからだろうか、なかなか相手が踏み込んでこない。ならば。


「来ないのであればこちらから行きます……よ!」


 相手の息遣い、音、直前の空気の動き。全てを感じ取って確実に当たるであろう範囲の中でも急所近く、やや左寄りに大きく踏み込みながら錫杖の石突きを突き込む。反応した相手は当然躱そうとするが──動きが狙い通りすぎて単純。

 勢いを殺さぬまま力の流れを変え、地面を踏み締めながら錫杖を水平に払う。


 手応えあり。向こうも剣で受けたけど、音からしてちょっと吹き飛ばしてしまったかもしれない。が、ここで手を緩めたりはしない。決着がつくまでが勝負なのだ。

 流れるように距離を詰め、引き戻した錫杖を改めて突き出し──


「参りました!」


 喉元。そこに石突きを突きつけたところで降参の声が上がる。

 俺はゆっくりと錫杖を下ろして浅く頭を下げた。


「ありがとうございました」

「いえいえ。まさかここまでとは思わず、様子を見てしまった自分が情けないです」

「そうですね、もっと積極的でもよかったかもしれません。あと動きが単純すぎるので工夫が必要なのと、受けきれない攻撃は流してしまった方がよかったと思います」


 声の位置からして尻餅でもついているのだろう。この辺かなと当たりをつけて手を差し出す。すると大きくてゴツゴツした手がしっかりと手を握り返し、ほぼ自力で立ち上がってから握手を交わす。


 この一連の出来事で俺の力を認めてくれたのだろう、クラスメイトからも積極的に声がかかるようになった。

 いい傾向だ。これでみんなの生存率が上がるといいなぁ。

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