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私はアイテム  作者: 月井じゅん
99/105

52.トラと猫と祖母の活躍

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

福山…………由美の同僚

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤節子……麻紀の祖母。実はUGCの職員で時々スパイもする

伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹

斉藤さん……トラ。伊藤家のペット

ちーちゃん……猫。伊藤家のペット

 「お義母さん!」


 「バア!」


 「このばあさんが殺されたくなかったら、全員外に出ろ」


 そういうと男は天井にある監視カメラに向かって再び要求した。


 「聞こえたろう? 全員降参だ。ピーター、聞こえるか! ここに装置があるぞ、こっちに……」


 そこまで言うと、突然ちーちゃんがどこからともなく飛出し、男の背中を駆け上ると首にかみついた。

 男は驚き、ちーちゃんをふりはらった。

 飛ばされたちーちゃんが猫らしくすちゃっと着地したかと思うと、祖母が男に肘鉄を喰らわせた上に急所に蹴りまで入れた。


 そこに職員が応戦し、再び強烈な蹴りを入れた。

 バランスを崩した男が体を起こそうとすると、更なる母の強烈なひと蹴りを浴び、男は完全に床に倒れた。

 祖母と職員はニヤッと笑うとハイタッチをし、職員は手際よく結束バンドで男の両手両足を拘束した。


 「ふん、年寄りだと思ってなめんじゃないわよ。よくも斉藤さんとちーちゃんに手を出したわね!」


 「バア! かっこいい!」


 「お義母さん! お怪我はありませんか?」


 「福山さんから身を守る訓練を受けてるの。そこの彼も私のお師匠さんよ。いい運動よ。まさかこんなところで役に立つなんてね」


 胸を張って誇らしげに言う祖母に、母は呆れるやら驚くやら、予想外の展開にあっけにとられていた。

 通路に目をやると、2人の敵も拘束され、身動きがとれなくなっていた。

 騒ぎが収まり、斉藤さんとちーちゃんが、母の足にすりすりと甘え、母は「よしよし」となでた。

 斉藤さんの頭には切り傷があり、血がにじんでいた。


 「ちーちゃんもいたのね!」


 ちーちゃんはどちらかというと臆病で、家に客が来ると隠れてしまうような性格だ。

 それなのに今日のちーちゃんは何かが違った。


 ふと私は思いつき、母と職員の目を盗んで、監視カメラに背を向けると、斉藤さんの首輪から金庫の鍵をそっと外し、自分のポケットにしまい込んだ。

 職員がバタバタとガラス部屋に入って来て、男を手際よく運び出すと、祖母に声をかけた。


 「奥様、お怪我はありませんでしたか?」


 「私は大丈夫。それより斉藤さんを手当しなくちゃ。斉藤さんになんて危険な真似させるの! 怪我したのよ、可愛そうに。点検口なんてスパイの常套手段でしょ、詰めが甘い! まったくもう」


 祖母に文句を言われてタジタジになりながら、職員は祖母と斉藤さんとちーちゃんを連れて、ガラス部屋から出て行った。

 ガラス部屋の短い通路を塞いでいた分厚い壁は、いつの間にかに消えていて、私もガラス部屋から通路に出た。


 窓から外の美しい庭園を眺めて深呼吸すると、力が抜け、通路に座り込んだ。

 アイテムの耳を使ったせいか、強い疲労感があり、体は重い。


 「麻紀、大丈夫?」


 母が心配そうに言った。


 「うん、大丈夫。ちょっと緊張しただけ」


 1日中歩き回ったような疲労感に襲われ、私は壁にもたれて少し目をつぶった。

 が、すぐ目を開けた。目をつぶってしまったらそのまま深く眠ってしまいそうだったからだ。

 眠気に襲われないよう、私は母に話しかけた。


 「斉藤さんが金庫から離れても装置は爆発しないの?」


 「斉藤さんの首輪から信号が送られているの。斉藤さんの生命反応が消えたら首輪から信号が送られて装置が爆破する仕組みなの」


 「それにしてもちーちゃん、すごいね。ご主人様のピンチが分かるのかな。なんだかちーちゃんらしくなかったな」


 「実はね、斉藤さんとちーちゃんを装置にかけたのよ。2匹は伊藤家の人間を守るようプログラミングされているの」


 「斉藤さんとちーちゃんに動物実験したの!?」


 「そう、彼らの頭の中には守らなければならない人物の顔が記憶されている。だから斉藤さんは私達に決して危害を加えない。だから安心して飼えるの。斉藤さんはちーちゃんがいると安心するらしく、2匹はいつもセットで行動させているのよ」


 「斉藤さんとちーちゃんまで装置にかけたなんて! ひどい!」


 「ごめんなさい、でも共に生活するには斉藤さんにはルールを覚えてもらわなければならなかったの。彼の安全の為にもね。ちーちゃんもパニックに陥りやすいからコントロールが必要だと思って。その代りに私達も全力で斉藤さんとちーちゃんを守るわ。彼らはUGCの職員でもあるんだもの」


 「そう言う割には斉藤さんの首輪に金庫の鍵とか、ひどいよ」


 「麻紀ちゃん! 大丈夫か?」


 福山さんが、千佳達とUGC職員を引き連れてやって来た。


 「うん、大丈夫。バアと斉藤さんとちーちゃんが戦ってくれて、ガラス部屋で1人、職員が通路で2人,、計3人確保したよ」


 「バア……? 斉藤さんとちーちゃんがいたの?」


 千佳たちが意味が分からないと言った顔で言った。


 「それでね、斉藤さんが怪我しちゃったの」


 「本当か! 奥様は、節子さんは大丈夫か!?」


 福山さんが心配そうに言った。


 「お義母さんは斉藤さんを連れて出て行ったわ。それよりあなた、私に何か言う事があるんじゃない? お義母さんに何を教えたか知らないけど、お義母さんのおかげで敵を確保だなんて、まさかの展開に私は驚いたわ。まったく、いつの間に」


 母が福山さんにかみつくと、福山さんはわざとらしく辺りを点検し始めた。


 「麻紀のおばあさんと斉藤さんとちーちゃんが戦ったの!?」


 「バアはすごかった。敵に肘鉄喰らわせて蹴ってた!」


 「ええ? 動物が苦手という麻紀のおばあさんよね?」


 千佳たちはまったく事情を呑み込めないようだった。


 「さすがは節子さんだな」


 そう言った福山さんを母が睨み、福山さんは慌てて視線をそらした。


 「斉藤さんの怪我の具合は?」


 薫が心配そうに言った。


 「落ちてきた天井の点検口の蓋で殴られて頭を切ったの」


 「私達のアイドルになんて事を! 許さない!」


 友紀が怒って言った。


 「そっちはどうだったの?」


 「5人確保したんだけど、1人だけ逃がしちゃったの。いま史子(あやこ)さんと職員が追ってる。ピーターはまだ外。職員さんががんばっているみたい。私と友紀はビクビクもんだったわよ」


 薫が手に武器らしきものを持っているのに気が付いた。


 「薫ちゃんのそれ、何? 訓練の時にはなかった武器よね」


 「護身用にと史子さんがくれた銃型スタンガン「テイザー銃」よ」


 すると千佳が言った。


 「薫に銃を持たせたらすごいの。銃の名手よ! 薫のお蔭で1人確保できたのよ」


 「たまたま当たっただけよ。私も無我夢中だったわ」


 友紀が興奮状態で説明した。


 「薫と史子さんと職員が敵を追い込んで、福山さんの指示で、私と友紀が防火扉を閉めて敵を閉じ込めたの。防火扉の中だけ、ガスが壁や天井から噴き出してね、全員眠ってしまったわ。上手くいってよかった!」


 「本当ね! みんな無事でよかった!」


みんなの無事を、千佳と友紀と私が手を取り合って喜んでいると、薫が冷静に言った。


 「由美さんと麻紀のチームが3人、私達福山さんチームが5人、合計8人を確保。10人侵入したんだから、残りは2人。という事は史子さんが追っている1人と、外にいるピーターね!」

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