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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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49.西村病院リハビリテーション研究センター

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

福山…………由美の同僚

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹

黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁

児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント

西村院長……西村病院の院長。装置の共同研究者。独特の個性を持つムードメーカー

 数日後、私達は東京の外れに最近建設されたという、西村病院リハビリテーション研究センターへ行くよう指令を受けた。

 元スカイのたつみの車で寮を出発し、1時間も走ると東京都とは思えない深い緑の中を車は進んでいた。

 豊かな自然に恵まれた山々の間から湖が姿を現し、ダムや美しい景色を楽しんだのも束の間、巽の車は太陽の光も届かない、うっそうと木々が茂る真っ暗な森の中に入って行った。

 近道なのか秘密の道なのか分からないが、滑らかだったアスファルトの道路から、舗装されていないガタガタ道に変わり、私達の体は弾みっぱなしだった。

 ジャングルの様な森を抜けると、突然目の前に太陽光発電のパネルが果てしなく並ぶ、広大な敷地が広がった。

 その先に道はない。

 まるで太陽の光を浴びてキラキラ光る穏やかな海を眺めているようだ。

 薫がたつみに言った。


 「行き止まりよ。道、間違えたんじゃない?」

 「大丈夫ですよ、薫さん。見ていて下さい」


 巽はにやりと笑い、前を見据えた。

 すると太陽光発電のパネルがパタパタと倒れ始めて地中に消えていき、その上に真っ白な道が現れた。

 その光景に私達は言葉を失った。

 まるで映画十戒でモーセが、紅海を二つに割って海の回廊を進むシーンの様だ。


 「ここは本部が管理している土地です。UGCの関係者以外が迷い込んだ場合には違う道が現れ、部外者は何度ここに来ても元の道に戻ってしまう仕組みになっています」


 そう言うとたつみは車を発進させた。

 車が走り出すと、友紀が後ろを見て言った。


 「見て! 道が消えていく!」


 後ろを振り返ると、車が通過した箇所から、パネルが芽を吹くように次々と現れ、道が消えて元の穏やかな海に戻っていった。

 果てしないパネルの回廊を進み、その景色に飽きてきた頃、車は再び暗い林の中に入った。

 暫く進むと木々はだんだん少なくなり、アスファルトの道路が、白いコンクリート製の広い道路に変わると、景色は明るくなった。

 等間隔に並んだ木立は美しく、窓をあけると爽やかな風が感じられ、別世界に踏み入れたような感覚だった。


 「間もなく到着します」


 身を乗り出して前方を見てみると、右手にどこまでも続く真っ白な高い塀が現れ、左手には緑の畑が海のようにどこまでも続いてる。

 巨大な塀の中は見えないが、かなり広い。

 暫くしてヨーロッパ調の立派な門扉が見えてきた。

 高さも幅もある門扉はおしゃれなデザインで、金色に塗られた細い金属の縦格子でできている。

 門の奥を見るとまるでそこは緑豊かな別荘地だ。

 その中を美しい一本道が果てしなく伸びていて、道の先には、遠すぎて小さくしか見えないが、白っぽい大きな建物があるのが分かった。


 「到着しました。こちらが西村病院リハビリテーション研究センターです」

 「ここ!? これが病院!?」


 私達は圧倒される規模の敷地と、美しく手入れされた木々や花々に魅入った。

 門や塀に取り付けられた複数の監視カメラが、生き物の様にたつみの車を観察すると、門が自動で開いた。

 車は白樺の木が並ぶ美しい1本道に乗った。

 車は美しい緑の中に吸い込まれる様に進み、真っ青な空が更に美景を際立させていた。

 しかし後ろを振り返ると、周りは巨大な塀に囲われ不気味でもあり、不思議な感覚に襲われた。


 正面にある建物に近づくに連れて少しずつ木々が減り、見通しがよくなると、城か宮殿の様なデザインの白い建物が近づいてきた。

 あれがメインの病棟なのだろうか。

 別荘地どころか、バッキンガム宮殿に続くザ・マル通りだ。

 友紀が建物を見上げて呟いた。


 「あれが病院? まるでまる〇ィズニーランドホテルみたい……」


 ようやく車が建物に辿り着くと、一流ホテルのドアマンのような男性が車のドアを開けた。

 友紀が「どうも」と恐縮しながら一番に車を降り、立ち止まって建物を見上げた。


 「友紀、どいて! 降りられないじゃない!」


 薫と千佳が友紀を押し除けて車を降りると、2人も建物を見上げ溜息をついた。

 すると、玄関らしきガラス製の回転ドアから、白衣姿の男性が現れ、小走りで近づいてきた。


 「やあ、麻紀ちゃん、いらっしゃい! 久しぶりだなあ。すっかりお姉さんになったなあ」


 祖父の友人の西村院長だ。

 私は小さい頃からお世話になっている。


 「西村先生! ご無沙汰してます」

 「ママも福山君も史子(あやこ)ちゃんもいらしてますよ。皆さんもようこそいらっしゃいました。医院長の西村です」

 「始めまして、西村先生。本日はお世話になります」


 千佳が代表して挨拶し、友紀と薫も緊張の面持ちでお辞儀した。


 「緊張しなくても大丈夫、西村先生はとっても面白くて優しいの」

 「あの麻紀ちゃんが大学生かあ。麻紀ちゃんは誰も笑わない僕のダジャレによく笑ってくれる可愛い子だったんだよ。よく僕と病院で鬼ごっこもしたね。楽しかったなあ」

 「そうそう、それでよく看護師さんに叱られたっけね、私じゃなくて西村先生がね」

 「あの、おっかない婦長ね。こないだも小児科でゲームしてたらこっぴどく叱られたよ」


 千佳達は西村先生の話に吹き出した。


 「私達どうして先生の新しい病院に呼ばれたの?」

 「みんな、何も聞いてないのかい?」


 千佳が答えた。


 「はい、何も。それにしても病院とは思えない環境で驚きました」

 「ここは児嶋君の計画書、洗脳計画の舞台となった廃村だ。UGCが運営する建設会社がこの周辺を丸ごと買い取って、誰も近寄らせなかったんだ」


 友紀が訊ねた。


 「計画書? あの何の役にも立たなかった洗脳計画書ですか?」


 「いいや、計画書は大きな役割を果たしているんだよ。警察は廃村を一目みて計画書は悪戯と判断したけど、計画書には暗号が隠されていたんだ」


 私は福山さんが話してくれた隠し文字を思い出して言った。


 「西村先生が読み解いた隠し文字のこと? “あんどうあつしがはんにんたすけて”だったよね」


 「暗号はそれだけではなかったんだ」


 「ええっ!?」


 私達3人は一斉に驚きの声を上げた。


 「暗号の中には別の暗号も隠されていたんだよ」


 「暗号の中に暗号が!? どういう意味ですか?」


 友紀が興味深そうに訊いた。


 「実は児嶋君は黒田の依頼を受けて僕の病院でスパイ活動をしていたんだ。最高機密レベルでUGCでも一部の職員しか知らない極秘調査だった。児嶋君がポケットに忍ばせて持っていたMOには画像などの装置に関する資料だけではなく、捜査上の写真やらUGCの機密事項も保存されていた。MOを持ったまま安藤に拉致された児嶋君は、MOの隠し場所を計画書に仕込んだ暗号で黒田に知らせようとした」


「児嶋さんがスパイ!? 」

 

 私達は再び一斉に声を上げた。

 児島さんがスパイ……計画書に仕込んだ暗号……、私達は驚かずにはいられなかった。

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