46-Ⅺ 黒田総裁の告白【パーカーを買った男】
パーカー司令官が近しくしていた男がいた。
その男は参謀総長でパーカーの上司にあたり、彼も野心家だった。
その傲慢な振る舞いに逆らう者はいなかったが、人徳がない事から嫌煙されていた。
参謀総長に近づく者はご機嫌を伺うか、出世を狙う者ばかりで、パーカーもその中の1人だった。
パーカーは常に参謀総長のご機嫌を伺い、忠実だった。
中将であるパーカー司令官が、次の大将の座を狙っているのを参謀総長は見抜いていた。
大将を任命するのは参謀総長の役目だ。
パーカー司令官は常に参謀総長にゴマをすり、気に入られようと努力していた。
しかし参謀総長の耳にも、かつては英雄だったパーカー司令官の黒い噂が聞こえていた。
民間の軍事会社を裏で操っている事。
若者を拉致し洗脳していた事。
軍事会社が犯罪コンサルタント業も営んでいる事。
親しかったケリー大統領から距離を置かれるようになった事。
数々の悪い噂が参謀総長の耳に届いた。
しかし参謀総長にとってパーカーは使える男だった。
以前、目障りな同僚である副官の名をパーカーに告げたところ、数日後にその同僚は姿を消した。
未だ行方不明だ。
参謀総長は副官が行方不明になった直後、軍事会社に匿名で多額の寄付を送った。
ところが最近になって、ケリー周辺が、行方不明になった副官について嗅ぎまわっている事が分かり、参謀総長はそれが気がかりだった。
参謀総長はケリーとは折りが合わず、お互いの印象は悪かった。
パーカーといる場面も何度が目撃されている。
参謀総長を指名するのは大統領の役目だ。
ケリーが大統領の任期中、ケリーは彼を参謀総長に指名しようとはしなかった。
ところがケリーが2期8年の任期を満了して大統領を引退し、新大統領が就任すると、風向きが変わった。
新大統領と参謀総長は従兄弟同士だった。
2人は特に仲が良いわけではなかったが悪くもなかった。
参謀総長にとって、人の良い従兄弟を騙すのは昔から簡単だったと、彼はそう周囲に自慢げに話していた。
新大統領は元軍人だが歴史家でもあり、ケリーとの親交も深く、おおらかな人柄は大勢の人から好かれる存在だった。
大統領選では最有力候補と言われ、その通りに彼は大統領のイスに収まった。
従兄弟である彼が新大統領の座についたことは参謀総長にとって幸運だった。
新大統領が就任して2期目に入ってから、彼はようやく参謀総長に任命された。
ケリーは大統領任期を終了し政界を離れたが、未だ彼の発言に多くの人が注目し関心を集め、彼の言葉は世間や政界にも影響を及ぼしていた。
連邦捜査局やCIAなどのOBから成る秘密警察を指揮しているという噂もあり、パーカー同様、参謀総長にとってもケリーは邪魔な存在だった。
行方不明になった副官は正義感の強い真面目な男だった。
副官の足取りを追った連邦捜査局は、副官がある告発を準備していた事をつきとめた。
副官は、参謀総長が多額の金品の見返りに、国家機密にあたる情報を漏洩したのではないかと疑い、独自に調査をしていたというのだ。
その調査中、副官は突然姿を消した。
CIAの調査でも、参謀総長が某国に航空機技術についての軍事機密を渡し、その見返りに多額の現金や宝石類を受け取った可能性が強まった。
副官はパーカー司令官の部下と会ったのを最後に行方不明となっている。
その部下も不審死を遂げた。
しかしパーカー司令官が関与しているという明確な証拠は見つかっていない。
不審死を遂げた部下は使い捨てのアイテムだったのだろうと、我々は推測した。
軍事会社とパーカー司令官の関係はもう否定できないところまできていた。
志願兵の拉致洗脳の噂は広がり、もはや広告塔だけでは済まされない状況だった。
参謀総長は、パーカーが軍を解任されるか辞職するのであれば、金で彼を買ってみようかと考えた。
彼を崇拝する若者や軍を味方につけるのは、悪くない考えだった。
参謀総長にとってパーカーは使える男だ。
パーカーは常に国の中心にいたいという野心を持っている上、ケリーを恨んでいる。
参謀総長とパーカー司令官の利害は一致していた。
装置やアイテムという存在をしらない参謀総長は「英雄パーカー」の持つ力に興味があった。
軍事会社の人間は「英雄パーカー」に憧れ、志願した者が多いという。
元軍人から元特殊部隊もいれば高校生までいると言う。
「ヒーローに生まれ変わりたくはないか?」
と人気コミックの世界でも連想させるような宣伝効果で、学校に行かずに引きこもっていた若者や、行き場を失い街をうろつく若者まで、沢山集まって来たという。
パーカーが彼らをどのように手懐けたのか分からないが、パーカーに忠実な大勢の若者や部下、軍隊の存在は、参謀総長にはとても興味深かった。
ケリーによる追い出し策で、軍事会社の活動は縮小されたが、パーカー信者などパーカーを支持する残党組織が根強く存在し、会社としてはまだ十分成り立っていた。
追い出し策後、彼らは恐喝から暗殺まであらゆる黒い仕事を請け負う組織へと化し、資金集めに翻弄した。
規模は小さくなっても優秀で情熱的な若者が多く、彼らは訓練と軍事教育に加え、警備や裏稼業で培った経験と自信もあった。
また、大勢の警察官がパーカーの隠れ信者であり、歪んだ正義を持つ警察ら達が犯罪コンサルに手を染め、暗殺紛いの仕事を請け負っているとの噂もあった。
その噂を耳にした参謀総長は、彼らを味方に付ければ怖いものはないと考えた。
パーカーの組織はもはや軍隊というより民間の情報機関だった。
警察顔負けの情報網と捜査能力を持ち合わせた彼らは、民間のFBIやCIAだとでもいった顔で、あらゆる場所に侵入し、ターゲットを拉致、恐喝し、目を付けられた者は行方不明となった。
彼らの姿を見ると人々は震え上がった。
そんな彼らの能力を、参謀総長は高く買い、意のままに操ろうと考えた。
某国から受け取った金品を隠した自宅を警備させるにも、彼らはうってつけだった。
参謀総長の期待通り、パーカー司令官は解任された。
参謀総長は某国とパーカーをバックにつけ、怖いものはなかった。
しかしケリー周辺が、副官と某国について嗅ぎまわっている行為だけが気がかりだった。
何か証拠が出てくれば、パーカーに留まらず、自身の身も滅ぼしかねない。
そんな時、参謀総長はパーカーの口から「装置」の存在を知った。
参謀総長もまた装置に魅了された。
装置の力を試したいと言った参謀総長にパーカーは、装置は行方不明だと答えた。
しかし参謀総長は諦めず、パーカーと某国に装置の行方を探らせた。
加えて、開発者の存在、そしてその後の装置の研究についても調べさせた。
新たな装置が存在するのではないか、きっとあるはずだ。
そう参謀総長は考えたのだ。
存在するのであれば、それを手に入ればいい。
同時に、参謀総長は、副官の時のようにパーカーに呟いた。
ケリーさえいなくなれば、と。
参謀総長の思惑通り、パーカーはケリー暗殺を企てた。




