46-Ⅸ 黒田総裁の告白【ケビンの証言】
ケビンは自分の身に何が起きているのかさっぱり分からなかった。
ケビンは取調室のような部屋に連れて行かれると珈琲が出され、しばらくそこで待たされた。
ようやく落ち着きを取り戻しかけたころ、救出してくれた男性職員と、スーツ姿の男性、職員と思われる女性が現れ、軍事会社で何があったのか事情を聞かれた。
ケビンはこれまでのことを全て、こと細かく説明した。
全てを正直に話していると、取り調べ室に職員が慌てた様子で入って来た。
職員は女性職員に耳打ちしたかと思うと、職員達は青い顔をしてマークを見た。
「ケビン、落ち着いて聞いて下さい。先程ご両親がお亡くなりになりました」
ケビンの両親は軍事会社の何者かによって殺されたようだった。
ケビンを連れ戻しに家までやって来て、いないと分かると両親を殺したのだろう。
ケビンの居場所について訪ねて来た軍事会社の社員に、両親は不審感を抱いたにちがいない。
両親からケビンはどうしたのかと逆に問い詰められた彼らは焦ったのだ。
不審に思った両親は、警察に連絡しようとして殺されたようだった。
殺された父親が握っていた携帯には911を発信した形跡があった。
ケビンは突然両親を失った悲しみに暮れ、また恐怖に震えていた。
命を狙われている可能性があることから、しばらく連邦捜査局で身柄を預かることになった。
ケビンは本部内の宿泊施設の整った部屋に案内された。
ケビンは食事も喉を通らず、両親の亡骸にも会えず、ただ震えて泣いていた。
不安と悲しみに押しつぶされそうになり、一晩寝ずに明かした。
翌朝も朝食が運ばれたが食べる気になれず、ただベッドで横になっていた。
どれほど時間がたったか、ノックと共にドアが開き、職員が数名入ってきた。
「面会されたいという方がいらっしゃいます。お会いになれますか?」
「いやだ! 会社の人間かもしれない! 警察だって奴らの仲間なんだから!」
マークはパニックを起こしそうになって大声を張り上げた。
するとドアの向こうから聞きなれた声がした。
「可愛そうに、大丈夫ですよ、私はあの会社の人間ではない」
そういうとケリー元大統領がマークの前に現れた。
ケリーは大統領の任期を終えたばかりだった。
「だ、大統領!?」
「申し訳ない、君を危険に巻き込んでしまったようですね」
大統領がそう詫びると女性職員が言った。
「残念ですが、あなたのご両親は殺害されました。犯人は特定できませんが軍事会社の人間に間違いありません。」
前日からマークの事情聴取を行っていた史子君は続けた。
「ご両親があなたを心配して入社させた軍事会社はあらゆる疑惑がもたれています。あなたが昨日証言して下さった通り、マークとピーターはある装置で別人に変えられたと考えられます」
「装置……? 別人に変えられた……?」
「実はあの部屋にはある装置がありました。装置は本来なら認知症患者が人間らしい生活を送れるようにと開発されたものです。それが彼らによって悪用されている可能性があります。装置にかけられた人の様子を詳しくお聞かせ下さい。何か他に気になる事はありませんでしたか?」
「運動神経が良くなっただけではなく、目つきにも変化がありました。マークもピーターも、同じ目つきをしていた。いつもと表情が違っていて、自信というか、気迫に満ちていると言うか、恐ろしい感じがしました。声をかけられる雰囲気ではありませんでした」
職員の間からため息たもれた。
すると大統領が尋ねた。
「先ほど『警察も仲間だ』とおっしゃっていたが?」
「ピーターは現職の警察官です。他にも何人か警察官がジムに通っていると聞いています」
職員たちはその言葉に驚きを隠せなかった。
史子君が言った。
「私たちの仲間が数人、志願兵の成りすまして軍事会社で潜入捜査をしています。警察官が密かに通っているという噂を聞いた捜査官が身元を捜査中でした。警察官もアイテムにされているということですね。私たちは装置にかけられた人間を「アイテム」と呼んでいます。あなたの見たアイテムは危険かもしれません。我々はアイテムと装置を確保する必要があります。捜査にご協力をお願いできますか?」
「もちろんです。僕で出来ることならなんでも。僕のせいで両親が殺されたんですから。」
その日のうちに特別チームは装置を奪うべく、軍事会社に侵入したが、既に装置はなく、あっという間に軍事会社の兵士達に囲まれ大乱闘となった。
厳しい訓練を受け鍛えられた兵士や、警備のエキスパートが集まった軍事会社を相手に、特別チームは苦戦し作戦は失敗に終わった。
監視役の潜入捜査官も身の危険を察知し、危機一髪のところで脱出した。
装置は再び行方不明となったが、この直後、日本にいる安藤に預けられたと見られる。
この件で軍事会社は警戒を強めるようになり、志願兵募集を停止し潜入捜査は難しくなった。




