46-Ⅶ 黒田総裁の告白【ケビン】
まだ大学生だったケビンは、純粋に軍の仕事やパーカー司令官に憧れて、パーカー司令官が広告塔を務める軍事会社へやって来た。
一流大学卒業後は士官候補生学校(OCS)へ行くことも考えていたが、時々見かける軍事会社のチラシやポスターで、パーカー司令官の講演会が軍事会社である事を知り、参加してみた。
見学も自由ということで時々足を運ぶうちに幹部たちと親しくなった。
若く優秀なケビンの存在は、幹部の口からパーカー司令官に伝わり、パーカー司令官はアイテム候補としてケビンに目を付けた。
パーカー司令官は自ら軍事会社に出向いてケビンと会った。
パーカー司令官に会えたケビンは有頂天になった。
ケビンはよく軍事会社のジムを利用していた。
時々、現職の警察官がトレーニングのためにジムにやって来るという噂を、ケビンは聞いていた。
警察が極秘に訓練を受けに来ている、それだけでケビンは信用できる会社なのだと思っていた。
ある日、ケビンがジムでトレーニングしていると、現職の警察官がジムに入ってきた。
彼はピーターと呼ばれていた。
ピータは大きな体と鍛えられた筋肉の持ち主で、とても目立つ存在だった。
その日ピーターは、少し疲れた様子で「夜勤明けだ」と話しているのをケビンは聞いた。
トレーニングが終るころ、幹部がピーターに声をかけた。
皆がトレーニングを終えてジムを出て行く中、幹部とピーターは「関係者以外立ち入り禁止」の扉の向こうに消えて行った。
ピーターとその同僚は、見学者の体験学習にもなっている警備訓練にも参加することがあった。
彼らはプロでありながらも、更に上を目指そうと訓練に励んでいた。
その日の訓練はいつもと違い、日本の柔道をやるということで、思った通り、ピーターも参加していた。
ほとんどの者が柔道が初めてということで、教官がお手本を見せると言って、ピーターを相手に指名した。
教官は黒帯で柔道熟練者だった。
ところが指名されたピーターは、初心者とは思えない堂々とした様子で教官の前にたちはだかり、お互いに1礼するとピーターは勢いよく幹部に掴みかかり、初めてとは思えない動きで教官と技を掛け合った。
まるでオリンピックの試合でもみているかのような迫力で、全員が息を呑んで見ていたが、ものすごい音と共に教官はピーターに投げ飛ばされた。
見ていた幹部や訓練を受けていた志願兵は一斉に拍手を送った。
見学や体験者希望者達も歓声の声を上げ拍手を送った。
以前にも、似たようなことがあった。
ケビンが軍事会社に足しげく通うようになった頃、軍の体験合宿に参加していたマークと知り合った。
マークは、合宿メンバーの一人が、突然別人のようになった話を聞かせてくれた。
まるで運動神経がダメだった仲間が、突然、今まで見せた事のない動きで、トレーニングを難なくこなし、熟練兵士の様に訓練 社員登録を済ませ、寮から姿を消したというのだ。
それが一人、また一人と続き、彼らは何となく目つきまで変わり、マークは、これが訓練の成果なのかと思うと同時に何か違和感を感じていた。
ケビンは、マークの話しを不思議な話だとは思ったが、特に気に留めていなかった。
ところが、マークに異変が起きた。
ジムに行くと、いつものようにマークが来ていた。
ケビンはマークに声をかけた。
するとマークはぎょろりとケビンに目を向けた。
マークの表情、動き、全てがまるで別人だった。
マークはケビンに応えることなく、ジムを出て行った。
その後マークとは会っていない。
ケビンはマークの話しを思い出した。
マークの話は本当だった。
ケビンは恐ろしくなった。
そしてケビンは、警察官のピーターも、マークのそれと同じだと思った。
何が起こっているのか……。
そんな時、ケビンはパーカー司令官から声をかけられた。
憧れのパーカー司令官とあって、ケビンは有頂天になった。
君は優秀で経歴も素晴らしいと言い、少し話がしたいと、パーカー司令官専用の特別室に招かれた。
そこは白を基調とした、カフェ風の部屋で、とても「特別室」というような所ではなかった。
部屋の隅では、キャップを深く被った若い男性が、カチャカチャと端末をいじっていた。
パーカー司令官はケビンに部屋の中央にあるマッサージチェアに腰を掛けるよう言った。
ケビンは、パーカーが何をしようとしているのか想像がつかなかった。
マッサージチェアに腰掛けると、パーカー司令官は、ケビンの後ろに回った。
なんとなく嫌な予感がして、ケビンはマッサージチェアから降りようと背中を起こした時、首筋に激しい痛みと痺れが起こり、気を失った。




