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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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46-Ⅴ 黒田総裁の告白【ゲーム終了】

 過去の戦争でもA国は復興事業に参加し、同時に石油関連事業の利益を狙った。

 しかし兵士の数が足りず、復興事業は進まなかった。

 現地国民の不満はたまり、インフラ整備などで復興事業に参加してくれた民間企業は、残存する武装勢力の標的となってしまい、略奪も相次ぐなど、治安は悪化していった。


 その経験からケリー大統領は、復興事業は現地国民の意志によって国民が行うべきで、利益は国民が得るべきと考えていた。

 第2ステージの洗脳作戦は上手くいき、アイテム達の手によって復興はどんどん進んだ。


 復興事業はA国と現地双方に思わぬ効果をもたらした。

 現地の水が奇麗になるとその技術が世界で評価され、その技術を世界に売る事でA国は利益を得た。

 その利益は還元され、現地復興事業にはもちろん、A国の社会福祉の予算にも当てられた。


 また、ケリー一家が祖父の代から営んでいる、売上高国内一のスーパーマーケットが、一役買った。

 テスマートは自社農園からスタッフを現地に派遣し、農業の教育や支援を行った。

 テスマートは、現地で実った小麦の輸入を決定し契約を結んだ。

 奇麗な水から実った小麦は評判を呼び、その輸入小麦で作ったドーナツが大人気となり、テスマートの利益は上がった。

 テスマートが各地にドーナツ屋を展開すると、ドーナツは世界中でも販売され、人気を博した。

 そのおかげで小麦は世界で注目されるようになり、現地国民に大きな利益をもたらした。

 アイテム達によって豊かになった土地と奇麗な水で育った小麦は、荒れ果てていた国々をどんどん豊かにしていった。


 復興事業が上手くいけばいく程、パーカー司令官は退屈した。

 戦争が必要なくなるとパーカーは居場所を失い「ゲーム終了」に不満のようだった。


 軍の活動が、パーカー司令官にとってまったく興味のない復興活動へとシフトされていくと、退屈したパーカーは自分の居場所を求めて動き出した。

 彼は信頼をおいていた忠実な部下に、軍を退官するよう勧め、彼に軍事会社を設立させた。

 そして自分は軍に席を残したまま、会社の実権を握った。


 パーカーはケリー大統領からの特権的な恩恵を期待していたが、孝之君殺害後、ケリーはパーカーと距離を置いていた。

 パーカーは自分の元から去って行ったケリー大統領と、パーカーの存在を忘れた国民と社会に、再び「英雄パーカー」の力を見せ付けたいと考えた。

 自分の力を見せつける方法としてパーカーは、軍事会社設立を思いついたのだ。

 実際、英雄パーカーが広告塔という事で、軍事会社の知名度は高まり、軍事会社には警備等仕事の依頼が殺到した。

 そして英雄パーカーに憧れを持つ若者に的を絞って志願兵を募ると、思った以上に大勢のパーカー信者が集まった。

 軍事会社はみるみる大きくなり、近代的な大きな自社ビルも建て、パーカーは思いのままに動かせる軍隊と資金を手に入れた。


 戦争で政府が介入できない部分は、民間の軍事会社に委ねられる。

 政府から雇われる事もあれば、情報機関の仕事や民間の警備も軍事会社は請け負う。

 パーカーの軍事会社は何でも請け負った。

 行き場を失いつつあったパーカーにとって、軍事会社は彼らしく生きる事ができる唯一の居場所となった。


 英雄パーカーが広告塔である軍事会社が益々知名度を上げると、民間だけではなく、仲介業者を通じて軍や政府関連施設の警備まで請け負うようになり、あらゆる建物の構造や設備、一般に知られていない出入り口等、細かなの情報等を入手し、幅広いセキュリティ情報を網羅した。


 軍事会社はまるでパーカーを崇拝する新興宗教団体の様でもあった。

 安藤のような戦争マニア、戦士になりたいと戦争に憧れる若者など、多くの志願者が軍事会社の門を叩いた。

 もちろん、弱者の為に戦いたい、平和の為に戦う戦士になりたいと、真の正義感から志願する者もいた。


 パーカーは、孝之君を殺した罪を逃れようと、装置を盾にして、ケリー大統領を無言で脅していた。

 実験的に兵士達をアイテムにし、装置を戦争の道具にしたケリー大統領と秘密を共有するパーカーは、装置を手放そうとせず、ケリー大統領に「秘密をばらされたくなかったら装置を取り返そうなどと考えるな」とでも言いたげだった。

 パーカーは脅しているつもりだったかもしれないが、ケリー大統領は覚悟を決め、装置の存在と自分の犯した罪を公表し、CIAと連邦捜査局からなる「特別チーム」を立ち上げ、パーカーの監視と装置奪還作戦に乗り出していた。


 装置が劣化すると同様に、我々が仕掛けたGPSと盗聴器も劣化し、十分な機能を果たしていなかった。

 ケリーは志願兵が装置に掛けられる事を懸念していた。

 そこで特別チームの捜査官が志願兵に成りすまして軍事会社に潜入し、装置の行方と軍事会社の動きを探った。


 パーカーの軍事会社は近代的な大きなビルで、太陽が上がると、ビル全体が放つ反射光がまぶしく、その存在感は軍事会社の力を見せつけているかのようだった。


 20階にはリラックスルームと呼ばれる奥部屋がある。

 リラックスルームに行くには、パスワードが必要なガラス製の扉で塞がれた通路に入らなければならない。

 ガラス扉の前には見張りが1人、常に立っている。

 その先は、パーカーが許した者しか入れない上、周辺には監視カメラが設置され、厳重に警備されていた。

 しかし、リラックスルームの監視カメラだけは、リラックスルームのドア付近しか映さず、部屋の中の様子は不明だった。


 以前、潜入捜査官は、パーカーと若い志願兵がそのリラックスルームに入って行くのを見た。

 その後、志願兵はまるで別人となった。


 特別チームが彼について調べたところ、高校生で名はマークといった。

 勉強にも人間関係にもなじめず、家に毎日引きこもり、パソコンばかり眺める生活を送っていた。

 そんなマークを心配した両親が、ある会社の面接を進めた。

 マークがインターネットでその会社のホームページにアクセスすると、そこには


 「ヒーローになってみないか?」


という誘い文句から始まる、民間の軍事会社の紹介が掲載されていた。

 マークはその誘い文句に、自分の人生を変えてくれるのではないかという期待を感じ、勇気を出して訪ねる決心をした。


 初心者でも気軽に軍事訓練が体験できるという合宿に申し込むと、自分と同じような境遇の若者が15名程集まっていた。

 同じ境遇からか、皆すぐに打ち解け合い、自分が引きこもりだったとは思えないような毎日が始まった。

 寮生活だったが、朝は迷彩服を着た社員が起こしに来てくれる。

 そして全員でそろって朝食を食べる。

 ジムでトレーニングをした後は、FBIやCIAの研修生が見るという警備の基本やあり方などの映像を見る。

 昼食など休憩をとった後、午後は警備の訓練や軍事教育を受ける。

 社員登録すれば、それで給料がもらえるというのだ。

 月に10万円ももらえれば、マークは満足だった。

 マークはおっとりした性格だったが、意外にも体を動かす事が好きだったらしく、トレーニングも警備訓練も楽しかった。

 仲間ができて居場所もでき、毎日が楽しく、軍事会社がとても気に入り、便りを読んだ両親も喜んだ。


 しかし中には、マーク以上に心に深い闇を抱え、こうした毎日に耐え切れず、ベッドから出て来れなくなった者もいた。

 しかし会社は彼に何も強要せず、仲間もマークも、彼を黙って見守った。

 彼は毎日ベッドに引きこもり、食事をベッドで摂る事もあった。


 ところが彼は突然変わった。

 ベットから出られるようになっただけではなく、きびきびと行動し、特別運動神経がよかった訳ではなかったが、トレーニングを難なくこなし、警備訓練では今まで見せた事のない素晴らしい行動を見せた。

 まるで熟練兵士の様だったという。

 何となく目つきも変わり、積極的に毎日の日課をこなすようになったかと思うと、社員登録を済ませ、寮から姿を消した。

 そんな事が1人、また1人と起こり、これが訓練の成果なのかと思うと同時に、マークは何か違和感を感じ、両親にも不安を綴っていた。

 両親はマークを心配した。


 暫くすると、マークからの便りが届かなくなった。

 たまに生存を知らせるかの様に電話があるが、内容はそっけなく、ただ無事にやっていると、抑揚のない声で言うだけで、両親は息子の変化を黙って受け入れる事しか出来なかった。

 特別チームは、リラックスルームが装置の保管場所と断定した。

 しかし、世間に公表できない装置を差し押さえするための令状はとれない。

 何か事件でも起きない限り家宅捜査も出来ない。

 その後もパーカー司令官の手によって次々とアイテムが生み出されていった。

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