8.違和感
福山の話しが続きます
大きくなればなるほど人材管理も難しくなる。
ここでは極秘事項を扱い、また、法を無視して活動出来る。
言い換えれば法を悪用する事も可能だ。
だからこそ職員の監視体制は徹底されている。
UGCではそれぞれが身に着けた通信機に活動内容を逐一口頭で報告し、それをAIが集約している。
通信機にはGPSが仕込まれ、報告内容と移動経路を人工知能が解析し、捜査員の動きに不正がないか、捜査に無駄がないか精査し分析する。
UGC職員はAIと本部職員に常に監視されながら、また安全を確保された環境の中で捜査を行っている。
由美は青少年に関わる問題を担当していた。
日本には居所が不明の児童が何千人もいる事を知っているだろうか。
16歳以上を含めれば行方不明の子供の数はもっとだ。
警察や国の対応の遅れにより居所不明児童の数は増えるばかりだ。
しかしUGCなら虐待が疑われる家庭に忍び込み隠しカメラを設置して監視し、証拠を掴める。
そうやって由美はUGCのやり方で数々の問題を解決し、大勢の子供達を救ってきた。
行方不明の子供や戸籍のない子供の捜査、貧困や虐待等に苦しむ青少年の保護活動など、日本で置き去りにされてきた子供や女性の問題にずっと取り組んできた。
そんな由美と僕が児嶋事件の捜査に指名された。
僕は捜査の為にある企業に新人社員として潜り込んでいたが、ちょうど捜査が終了し手が空いていた。
由美は事件の舞台が大学であり、大学生が絡んでいることから抜擢された。
これまでの担当分野とは違った仕事ではあったが、2人が中心となって児嶋事件の捜査が始まった。
児嶋事件の続きを、もう一度最初から簡単に説明しよう。
装置と児島が行方不明になった当初、装置が紛失したという事実以外に、児嶋が盗んだという確かな証拠はなく、児島の捜索依頼を受けた警察はお手上げ状態だった。
そんな時、警察に、装置に関する匿名の電話があった。
「M村の人々が洗脳されています。大学生3人が拉致され装置にかけられました。証拠を港区のポストに投函します。調べて下さい」
若い男は早口に言うと一方的に電話を切った。
悪戯電話と思われたが、男が言ったとおり、ポストから怪しげな封書が発見された。
洗脳計画書だ。
我々は、匿名者が「装置」と口にした事で、通報は信ぴょう性が高いと判断し、警察より先にM村を捜索することにした。
村には危険なアイテムが多数存在しているのではないか、1995年の毒ガス事件のように大規模施設があるかもしれないと想定し、突入も計画した。
しかしM村に行ってみると、村は朽ち果て人ひとりいなかった。
荒れ果てた土地とぼろぼろの空家が点在し、化学製品製造施設のような建物はおろか、人が出入りした痕跡も確認出来ず、我々は途方に暮れた。別の場所に施設を移したのかもしれないとも考えたが、その痕跡も残っていなかった。
1カ月後、事件は思わぬ展開を見せた。
児嶋が自ら警察に出頭し逮捕された。
しかし装置は手元になく、盗んだ事は認めたものの、装置と大学生の行方は知らないと言い張った。
UGCは行方不明者リストから、共通点がある3人の大学生を割り出し、該当者らしき人物を特定した。
3人は身寄りがなく、奨学金で大学に通い、同じ時期に学生寮やアパートを引き払っていた。
しかも、それぞれに出されていた捜索願いは、本人からの連絡で取り下げられていた。
恐らく児嶋の指示に従って行動したのだろう、と我々は推測した。
彼らが児嶋に忠実なアイテムであるならば、ありうることだ。
驚いた事に3人は、我々が特定した頃には、すでに日本から姿を消し、装置と共にA国に渡っていた。
さらに驚いたことに、装置はA国人の手に渡り、多数のアイテムの存在までが確認された。
アイテムは組織化し、その中には7年前に起こったケリー元大統領暗殺未遂事件の実行犯も含まれる。
スカイは大統領暗殺未遂事件に巻き込まれて大火傷を負った。
暗殺犯の顔を知っているスカイは、命を狙われ、顔を変えた。
アイテムには狂暴性があり、装置の劣化による不具合か副作用が原因ではないかと危惧されている。
装置が盗まれた当時、我々UGCはまだ未熟で、国際的に活動するには無理があり、海外協力を得られる術を持ち合わせていなかった。
国家秘密に等しい活動内容は国内はもちろん海外にも公表できず、国際社会に我々の実績を並べて存在をアピールする事は難しかった。
しかし装置とアイテムをめぐる問題を機に、UGCは国際化に踏み切った。
海外にパイプを作り、協力体制を整え、現在では装置とアイテムを巡る事件はA国情報機関と捜査を行っている。
装置が盗まれてから長い年月が経った。
アイテム達が悪者の都合のいいように操られ、そのアイテムに今日、伊藤家は狙われた。
今後の皆さんの生活についてはUGCが協議し、どうするか報告する。
それまでここで過ごして欲しい。今日はここまでにしよう。
紅茶を一口も口にせずに、私は福山という男の話に聞き入っていた。
スカイ、黒田元総理、児嶋事件、そして装置とアイテムという存在、7年前の元大統領暗殺未遂事件の犯人がアイテムで、スカイはその事件に巻き込まれて大火傷を負った……頭が混乱しそうだった。
スカイに顔を見られた暗殺犯、或いはアイテムが、スカイを殺そうとした……そして今日、我が家も襲われた。
母が捜査員だからだろうか。
しかし、なぜ私達は殺されなかったのか。
平凡な高3女子と年寄りなど簡単に殺せたはずだ。
それにしても、いくらまだUGCが未熟だったとは言え、UGC程の組織が、人ひとり、装置の一つぐらい、簡単に見つけられなかったのだろうか……
そう福山さんの話に、私はほんの少し違和感を感じていた。
私が小さい時に亡くなった父も何か関係しているのだろうか。
これからどうなるのだろう。
この日から私の生活は一変した。