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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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44.ティータイム

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤正一……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹

黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁

峰准教授……H大学の准教授。児島の父。黒田総裁と伊藤教授の級友

青木…………児島と史子の親友

児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント

安藤…………元H大学の准教授。峰准教授の同僚。装置を盗んだ真犯人。

福山…………由美の同僚

中山…………麻紀と千佳がアルバイトしているコンビニの先輩。児島、史子、青木の級友

パーカー司令官……現在の装置所有者

ダニエル……パーカーの息子

 黒田総裁は上座から全員の顔を眺めた。

 総裁の右手に祖父、峰准教授、青木さん、母、千佳、友紀が並んで座り、向かい合わせに、総裁の左手から福山さん、史子叔母さん、中山さん、薫、私の順に座った。

 祖父が立ち上がり、挨拶をした。


 「今日はお集まり下さり、ありがとうございます。うちの麻紀が大変お世話になっております。申し遅れました。麻紀の祖父の伊藤正一です。そしてこちらが既にご存じかと思いますが、元総理大臣の黒田です。黒田が皆様と話したいというので、このようなお茶会を催させていただきました」


 「突然すまなかったね。どうそ紅茶をお召し上がり下さい。冷めてしまいますよ」


 場を和ますように、総裁がにこやかに言うと、母が軽く手を挙げた。


 「総裁、改めてご紹介します。娘の警護役で同居人です。千佳」


 「はい。清水千佳です。お会いできて光栄です。こちらは菊池友紀、志藤薫です。どうぞよろしくお願いいたします」


 3人がお辞儀をすると総裁は、うむ、と頷いて言った。


 「君達の活躍は聞いています。この度はUGCにご協力頂きありがとう。それから清水さんはUGCの職員に採用されるそうだね。おめでとう。期待しています」


 「ありがとうございます」


 「腕時計は気に入ってくれたかな。伊藤が作ったんだ。UGCから君達への大学入学祝いだ」


 「はい。先日の大男の騒動ではとても大変役にたちました。素敵な腕時計をありがとうございました」


 千佳が祖父にもお礼を言うと、祖父は「いやいや」と照れたように手をふった。

 しばしティータイムとなり、総裁と史子あやこ叔母さんに大学や寮生活についてあれこれ質問を浴びながら、雑談を楽しんだ。


 中山さんは大切な話があったらしく、先に本部に来て、総裁らと会っていたようだ。

 どうやら中山さんは祖父と峰准教授とは初対面の様だ。

 おそらく中山さんは、今そこに児嶋さんの父親が居るとは、気付いていない。

 峰准教授が時々、中山さんを懐かしむ様にも、悲しそうにも見ている気がした。

 きっと息子である児嶋さんと重ねて、復讐に手を染め翻弄された人生を送ってきた中山さんに、複雑な思いがあるに違いない。


 祖父は私が楽しく話す姿を、目を細めて見ていた。

 私はおじいちゃんっ子だった。

 祖父は私に何でもしてくれた。

 動かない犬のぬいぐるみのワンちゃんを


 「歩けるようになったらいいのに」


と話した翌朝、祖父から少し体重が重くなったワンちゃんを手渡された。

 おなかにはスイッチが付いていて、スイッチを入れるとギーギー音をたててワンちゃんが歩き始め、私は大喜びした。


 私は祖父にとても可愛がられた。

 祖父はアイテムである私を、どんな気持ちで見ていたのだろうか。

 きっと装置が巻き起こした事件に、ずっと心を痛めてきたに違いない。


 今ここに集まっている人達は、装置によって深く傷つき人生を翻弄されてきた。

 特に中山さんは長い間1人で戦い、殺人まで犯した。

 ようやく穏やかな生活を取戻したところに、私達が現れ、時間は巻き戻された。

 旧友とも再会した。


 千佳が紅茶を片手に訊ねた。


 「中山さんは本部と何のお話をされていたのですか?」


 中山さんの顔色が曇り、黙り込んだ。


 「中山さんに、お仕事を辞めてもらいたいとお願いしていたの」


 代わりに史子あやこ叔母さんが答えると、部屋がしんと静まり返った。


 「それは中山さんにまた危険が及ぶから?」


 私が訊ねると、総裁が答えた。


 「それもあるが、もっと重大な理由があってね。ダニエル君の治療と、装置の研究に、力を貸して欲しいとお願いしていました。コンビニを辞めて、この本部で仕事をしていただきたいとね」


 「ダニエルの治療? ダニエルがどうかしたんですか!?」


 薫が驚いて言った。

 薫と友紀は、ダニエルがアイテムだという事をまだ知らない。

 総裁は続けた。


 「ダニエルはアイテムでした。ダニエルは中山さんについて、全てパーカーに話してしまったんだ。そして中山さんは狙われた」


 「ダニエルがアイテム? 全て話した?」


 友紀はショックを受け、両手で口を押えた。

 薫も驚きの表情を浮かべた。

 福山さんが言った。


 「だからダニエルは、中山さんが危険にさらされると分かっていたんだ。それを知らせに中山さんに会いに来た」


 福山さんは中山さんの方を見て言った。


 「ダニエルは、自分の意志で君の事を話したんじゃない。アイテムだから話してしまったんだ。おそらくダニエルは父親には逆らえない。そうプログラミングされている」


 「ダニエルは今、どうしてるんですか?」


 千佳が心配そうに言った。


 「ダニエルはまだ検査中だ。しかし動揺している。治療に集中できないんだ」


 そう福山さんが言うと、祖父が中山さんに言った。


 「中山さん、私からもお願いです。あなたには装置に関するノウハウがある。私達と一緒にダニエルの治療と装置の研究に力を貸して頂きたい。私達はもう年寄りだ。できれば若い人に受け継ぎたい。是非、児嶋君の代わりに、私達を手伝ってもらえないでしょうか」


 「ダニエルの治療には喜んで協力します。ですが装置に触れるのは嫌です!」


 中山さんはきっぱりと断った。

 どうやら私達が本部に着くまでに、話し合いは平行線だった様子だ。

 中山さんは視線を下に落としたまま動かなかった。

 テーブルの上に重ねて乗せている手が、震えている様にも見える。


 中山さんは装置で安藤を殺した。

 その事は中山さんにとって、堪えがたい事なのだろう。

 祖父もそれはよく分かっていた。

 祖父から次の言葉は出なかった。

 祖父の代わりに史子あやこ叔母さんが言った。


 「中山さん、気持ちは分かるわ。でも、装置は戦争の道具ではないの。病気や障害で日常生活がままならない方のための医療機器なの。彼らが人間らしい生活を送れるようにと開発された、素晴らしい医療機器よ。アイテムの治療にも装置が必要なの。装置の存在は極秘よ、他の誰にも、こんなこと頼めないの」


 「だけど……」


 「アイテムにされてしまった人はダニエルだけじゃない。劣化した装置でアイテムにされてしまった人達が他にもいるの。彼らも治療してやりたいの」


 すると母が口を挟んだ。


 「史子(あやこ)もお義父さんも、少し待ちましょうよ。先輩はまだ休養が必要だわ。色々ありすぎたわ。まずはダニエルさんに会わせてあげて。ダニエルさんの治療をまず優先しましょう。装置の事はそれから考えましょう」


 中山さんの目は潤んでいた。

 史子あやこ叔母さんは、はっとし、そして申し訳なさそうに言った。


 「ごめんなさい。私ったら、中山さんの気持ちもよく考えずに……」


 「いいの、ふみちゃん。ごめんなさい、伊藤先生、少し考えさせて下さい。時間を下さい。すみません」


 祖父ではなく、総裁が優しく答えた。


 「私も申し訳なかった、中山さん。色々な事があったのに。私達は少し焦っているのかもしれない」


 いいえ、と首を振った中山さんに、母が言った。


 「先輩、ダニエルさんの証言から色々と分かった事があるの。先輩とダニエルさんが出会った時、ダニエルさんは既にアイテムだった。装置にかけたのはパーカー司令官、ダニエルさんの父親よ」


 母は、ダニエルの証言から得た詳細を語った。

 私達はダニエルの悲しい過去を知った。

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