表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はアイテム  作者: 月井じゅん
69/105

40.中山さんの危機

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

中山…………麻紀と千佳がアルバイトしているコンビニの先輩。児島、史子、青木の級友

ダニエル……パーカーの息子

 アルバイトに行くと、中山さんはいつものようにレジに立っていた。

 私達と目が合うと中山さんは優しく微笑み、歩み寄った。

 私達が何を言ったらいいのか戸惑っていると、中山さんは私達の背中をポンと軽く叩いて言った。


 「さあ! 元気に仕事仕事!」

 「はい!」


 私と千佳が笑顔で返事を返すと、中山さんはちょっと間を置いてから言った。


 「昨日はありがとう。話せてよかったわ。背負っていた思い荷物を降ろしたような気持ちよ。2人とも、過去にしばられてはダメよ、私がいい見本。あなたたちは前を見て進むのよ。過去にこだわってはダメ」

 「中山さん……」


 私は泣きそうになった。


 「いつか私の失敗を思い出して、あなたたちが過去に縛られない人生を選択してくれれば、私の人生も無意味ではなくなる。自分の幸せを考えて生きてね!」

 「中山さん!」


 千佳はもう泣いていた。

 千佳は昨日から泣きっぱなしだ。

 千佳はバックヤードにあるスタッフルームへ駆け込んで鼻をかんだ。


 「伊藤さんが由美の娘さんで、ふみちゃんの姪っ子さんだったなんて。なんだか不思議。急に姪っ子が出来たみたいで嬉しいわ」

 「じゃあもう「ひとり」じゃありませんね! 末永く親子共々よろしくお願いします」

 「伊藤さん……」


 中山さんは目に涙を溜めて笑って言った。



 その後も、私達はコンビニでのアルバイトと監視を続けた。

 何事も起こらない日々が続き、やはり中山さんは大丈夫なのではないか、そう思い始めた時、UGCが危惧した通り事件が起きた。


 辺りは真っ暗でもうすぐ20時になろうとしていた。

 アルバイトから帰宅すると、薫がコンビニの監視カメラを見ていた。

 私達がアルバイトの間は、薫と友紀が交代で監視カメラを見ている。

 友紀は処分するファッション雑誌やアイドル雑誌、科学雑誌を積み上げ、ビニール紐でくくっていた。

 千佳はお風呂セットを小脇に抱えると、部屋を出る前に画面を覗き込んで言った。


 「中山さんはお掃除中か。店員の藤木さんの姿が見えないけど、スタッフルームかしら?」


 「そうみたい。今日は忙しそうだったわね」


 薫は画面から目を離さず、千佳に聞いた。


 「そうなの。今日はお客さんが多かった上に、品物がいっきに入荷して品出しが大変で……ねえ、なんか様子が変じゃない?」


 薫も異変に気付き、立ち上がった。


 「え?」


 お風呂へ行こうとスリッパを履こうとしていた私は、お風呂セットを抱えたまま2人のところに駆け寄り、画面を覗き込んだ。

 友紀も雑誌をくくる手を止め、ビニール紐を持ったまま画面に駆け寄った。


 中山さんが何かに怯えた様子でモップを構え、後ずざりしている。

 薫が画面の隅、入口付近を指さした。


 「誰かいる! 友紀、画面を4方向に切り替えて!」


 画面が4分割され、コンビニ内の様子が各角度から映し出された。


 「なんなの、あの大男は!」


 中山さんが大男に向かってモップを振り回している。

 拡大すると外国人のようだ。

 するとスタッフルームから男性店員の藤木が出てきた。

 果敢にも藤木はモップを降り回す中山さんの前に立ちはだかり、大男に何か言うと、大男は藤木に掴みかかった。

 2人はもみ合いとなり、中山さんが藤木に加勢しようとモップを構えた瞬間、藤木は殴り飛ばされぐったりと床に倒れた。

 すると入口からもう1人、キャップをかぶった細身の男性が現れた。

 乱闘に巻き込まれ、キャップが脱げると、金髪があらわになった。

 彼は近くに合った消火器を手に取り、構えた。

 中山さんは大男と金髪の外国人にモップを投げつけ、コンビニの外に出た。


 「キャー! 中山さんが襲われる! 藤木さんも救出しなきゃ! UGC職員は何してるの!」


 千佳が叫んだ。


 「友紀、外のカメラに切り替えて! 職員はどこ!?」


 薫がそう言うと、画面は外に切り替わった。

 職員の姿はない。


 「私、見てくる!」


 私は勢いよくドアを開けて4階廊下の窓を開け、耳を澄ました。


 「中山さんの叫び声が聞こえる!」


 私は神経を集中させて耳を澄ませば、遠くの物音まで聞こえる特殊なアイテムの耳を持つ。

 コンビニは寮からよく見える位置にある。

 多少建物と木々に遮られるが、コンビニ前の通りはよく見渡せた。


 千佳が部屋から飛出してきてパニック気味に言った。


 「中山さんが外に出た! 敵は4人! コンビニに外人2人、外に覚えのない顔のスーツ男が2人! どうしたらいいの! 職員はどこよ!? 同じ画面を見てるはずよね!」


 千佳は頭を抱えた。私は神経を集中し、中山さんを見失わないよう目で追った。

 すると薫が部屋から出てきて言った。


 「私行ってくる! みんな腕時計型通信機をつけてオンにして! 麻紀、通信機で実況中継をお願い!」


 薫は折り畳み式自転車を抱えて駆け出した。


 「薫! 危ないわよ!」


 「千佳、あんた足遅いからここに残って麻紀を守って! それとUGCに連絡入れて!」


 薫は駆けだした。


 「私も行くわ!」


 友紀は持っていたビニール紐を握りしめたまま駆け出し、薫を追った。

 千佳は通信機で母に呼びかけた。


 「由美さん! 中山さんが4人に追われてる! 2人は外国人よ!」


 「本部の監視部からも連絡があった。警備の職員はどうしたの!?」


 母の緊迫した声が通信機から聞こえた。


 「ママ、いつもいる職員達の姿は見えない! 薫ちゃんと友紀ちゃんが助けに行ったの! すぐに職員よこして!」


 「薫! 友紀! 戻りなさい! まだ戦った経験もないくせに!」


 薫と友紀は怒鳴る母を無視して中山さんを追った。


 「薫ちゃん、中山さんは11号館と12号館の間の道を、芝生広場に向かって走ってる。薫ちゃんは2号館を右に曲がって! 近道するの、まっすぐ行けば中山さんがいる道に合流できる!」


 「了解!」


 薫は折り畳み式自転車にまたがり、勢いよく飛び出した。

 私は耳を澄ました。

 足音が複数聞こえる。

 中山さんの後ろに目をやると、細身の外国人、その後ろを大男、そしてスーツ姿の男性が1人、続いて走っている。

 辺りは暗く、道の両脇に等間隔に置かれたセンサーライトの灯りだけが頼りだ。


 「麻紀、状況はどう?」


 自転車を漕ぎながら薫が尋ねた。


 「中山さんは今、芝生広場の中央辺りを17号館に向かって走ってる。中山さんの後を細身の外国人と、その後ろを大男、続いてスーツ姿の男性が追ってる。中山さんと薫ちゃんが合流した後はどうしよう。職員が来るまでどこかに隠れなきゃ。どこにしよう!?」


 「了解! あとは私とルーシーに任せて!」


 「ルーシー? ルーシーって誰?」


 私が聞きなれない名前に首をひねると、中山さんを追っている細身で金髪の外国人が、日本語で叫ぶのが聞こえた。


 「加奈子さん! 僕です、ダニエルです!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ