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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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39-Ⅵ 中山加奈子の告白【ダニエルの尾行】

 ダニエルは父親の強い勧めもあってマリーン(海兵隊)を志願し、29歳の時に日本に駐留した。

 日本がとても気に入り、延長を希望してみるとそれが認められ、駐留3年目を迎えていた。


 ある日ダニエルは上司から極秘指令を受けた。

 ある男を監視し、その男に預けた軍の重要な機密機器を受け取って来るように、とだけ指示され、ダニエルは詳細を知らされないまま、東京にやって来た。


 上司は父親の部下だった。

 ダニエルは父親に逆らえなかった。

 逆らおうという気さえ起きないほど、父親は厳格で言葉はかなり威圧的だった。

 そして父親は賢かった。

 ダニエルは父親を尊敬していたし、逆らっても太刀打ちできない事も分かっていた。


 父親の性格と違って、穏やかな性格のダニエルは、マリーンにいる事も、父親の部下が自分のボスである事もストレスだった。


 監視という任務もストレスで、性に合わない仕事だった。

 日本駐留の延長が許されたのも、東京へ行けと言う指示の裏にも、父親の存在が影響しているのは分かっていた。

 それが分かっていても、どんなストレスであっても、大人しいダニエルはそれを顔や態度に出す事なく、忠実な息子と部下を演じていた。


 安藤は依頼主が常に自分に目を光らせている事を承知していた。

 依頼主は装置がなかなか完成しない事に苛立ち、安藤をせかしているようだった。

 それは安藤の私に対する態度でも分かっていたが、そんな事はおかまいなしに、私は私のペースで仕事を進めていた。


 とうとう装置が完成すると、完成の遅れに焦っていた安藤は、私には何も言わず、私の承諾も無しに、装置が完成したと依頼主に知らせてしまった。

 ダニエルが受取役と知ると、受け渡し場所に私のマンションの駐車場を指定した上、勝手に受け渡し日まで決めていた。


 36台の車が止められる、住民専用の平置き駐車場は、塀に囲まれたマンション敷地内にある。

 駐車場の一番奥、塀の角に位置する12番の駐車場は、住民が引っ越してからはずっと空き駐車場になっていた。

 安藤は人目につきにくいその12番の駐車場に目を付け、そこに車を止めて待つよう、ダニエルに指示した。

 季節の植物などの植え込みもない、殺風景な駐車場は、マンションの共用廊下側に面し、駐車場からは各部屋の玄関ドアが全て見渡せた。

 3階にある私の部屋は、駐車場からはもちろん、塀の外からも見える。

 マンション内の共用廊下を住人が歩くと、大人なら肩から頭までが駐車場から見えた。

 明るい時間ならば誰が歩いているかまで分かる。


 ダニエルは約束の日、約束時間の10分前、20時50分に、12と数字の書かれた駐車スペースに、レンタルした車、シルバーのコンパクトカーを止め、安藤が部屋から出て来るのを待っていた。

 ダニエルは安藤の顔も、私の存在も、私が310号室に住んでいる事も把握していたが、安藤に会うのは初めてだった。

 約束時間の5分前、安藤が木箱を乗せた台車を押しながら310号室から私と出て来た。


 やはり日本人は時間に正確だな。


 ダニエルがそう思いながら安藤を待っていると、安藤はダニエルの車には見向きもせず、31番に止めてある私の車、青いマーチに近づき、トランクを開けた。

 安藤はは重たそうな木箱をトランクに詰め込むと車に乗り込みエンジンをかけた。


 「安藤さん!」


 ダニエルが車を降りて名前を呼んでも安藤は気が付かず、青い車は外に出て行った。

 ダニエルが後を追いかけようすると、駐車場出入口付近に路上駐車していた黒のクラウンのライトが点灯し、安藤の車を追うように夜道を走り出した。

 偶然だろうか。

 ダニエルは2台の車の後を追った。


 30分ほど追走すると、2台ともホテルの駐車場に入っていった。

 黒い車が気になったダニエルは、気付かれないよう少し距離を置いて駐車し、車を降りると慎重に安藤をつけた。

 安藤がエレベーターに乗り、階数を表示するランプを見ると、3階、4階、と順にランプが点灯し、5階で点滅に変わった。


 「5階か」


 ダニエルは隣にあるもう1台のエレベータに乗り込んだ。

 エレベータに乗る際、ちらとフロントに目をやると、黒い車に乗っていたと思われる2人組の男が何かを見せながら従業員に話しかけていた。


 「警察か?」


 ダニエルは少し不安になった。

 上司はこう言っていた。


 「機密機器の存在は極秘だ。奪おうとする者が現れないとも限らない。細心の注意をはらって安藤を監視し、確実に機密機器を受け取って来い」


 機密機器を奪おうとする者が本当にいるのか。

 様子から警察に見える。

 警察だとすれば、なぜ安藤さんをつけているのだろう。

 機器は法に触れる代物なのか。

 しかし父親とその部下がひとり息子にそんな危険な任務を任せる訳がない。


 そうダニエルは思い直し、5階でエレベーターを降り、辺りを見回した。

 すると508号室のドアがパタンと音をたてて閉まった。


 ダニエルはどうしたものか思案した。

 声をかけるべきか、出て来るのを待つべきか。

 ダニエルは部屋の前を行ったり来たりしながら考えた。


 そこへ黒い車の2人組が現れ「508番だ」と、安藤の部屋番号を口にした。

 ダニエルはその場を離れ、2人組の様子を見ていた。

 彼らはドアに耳を当てるなど、怪しい行動をとり始めた。


 ダニエルは警戒し、車中で待機する事にした。

 30分後、私に続いて、少し遅れて、安藤が木箱を乗せた台車を押しながら、駐車場に現れた。


 安藤は木箱を軽々と持ち上げ、車のトランクに詰め込んだ。

 先程よりも木箱が軽そうに見える。

 あの中に機器が入っていたのではないのか。

 軍の機器はどこにあるんだ?

 ダニエルは不安になった。


 安藤の車は来た道を戻り、黒い車も再び安藤に続いた。

 安藤の車がマンションに入り、黒い車が駐車場出入口付近に路上駐車するのを見届けたダニエルは、木箱の中身と黒い車の正体を気にしつつ、マンションを囲む道路をゆっくりと走行しながら、どうすべきか思案した。

 私と安藤が部屋に入るのを見届けると、ダニエルは24時間営業のレンタカーショップへ向かった。

 念の為、安藤をつけていた2人組を警戒し、車を目立たない車種に交換しようと考えた。

 マンションに多くあった、セダンタイプの白い車に乗り換えると、安藤を辛抱強く待とうと決心し、マンション駐車場12番へと車を走らせた。


 マンションに戻ると、路上駐車していた黒い車が消えていた。

 しかし2人組の片方が暗がりの中、懐中電灯を片手に、何やら熱心に安藤の車を調べていた。

 もう1人は車でどこかへ出掛けたようだ。

 共用廊下の灯りと道路の街頭に、うっすらと照らし出される男の様子を伺っていると、彼が車を調べながら携帯に何か言っているのが見えた。

 よく見ると、男は腰に無線らしきものもぶら下げている。


 やはり警察か。


 そう思いながらダニエルがマンション3階に視線を移した。

 すると、安藤がひとりで部屋から出てきた。

 警察らしき男は携帯に夢中で、安藤に気付いていない。

 安藤は手に、ヴィトンの大きな旅行用バッグを抱えていた。

 ダニエルは今度こそ12番に停車している自分の車に安藤がやって来ると思った。

 しかし安藤は徒歩でマンションの外へ出て行ってしまった。

 ダニエルは車を降り、安藤を追った。

 何となく安藤の様子に違和感を感じながら、安藤の後をつけた。


 歩いて1分のところにある踏切に差し掛かると、安藤はぴたりと足を止めた。

 まっすぐ前を見たままピクリともせずに立っている。

 遮断機も降りていないのに、安藤は踏切の外でじっと立ったままだ。

 誰かを待っている様にも見えるが、街頭の灯りしかなく、人気(ひとけ)のない踏切に1人たたずんでいる安藤は、まるで徘徊老人だ。


 電柱の陰に身を隠し、暫く様子を見ていると踏切がカンカンと鳴り出した。

 すると突然安藤は歩きだし、踏切の中に入った。

 遮断機が降りたにも関わらず、安藤は線路内から出ようとはせず、奇妙な行動を取り始めた。

 線路上にあぐらをかき、両手でバッグを抱え込んでいる。


 「何をしているんだ、あれじゃまるで……」


 ダニエルが戸惑っているうちに電車が汽笛を鳴らして近づいて来た。

 それでも安藤はただじっと線路上に座り、目を瞑っている。


 「安藤さん!」


 けたたましく汽笛が鳴るの中、ダニエルは安藤の名を叫び、助けに行こうと駆け出した。

 すると反対側の踏切の向こうからも、安藤を助けようと駆け寄る男性らしき人影が見えた。

 しかし次の瞬間、その人影も安藤も見えなくなった。

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