35.変身
登場人物
伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部
伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員
伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹
青木…………児島と史子の親友
児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント
安藤…………元H大学の准教授。峰准教授の同僚。装置を盗んだ真犯人。
パーカー司令官……現在の装置所有者
児嶋君が亡くなった後、青木君はあの日の出来事を悔い、自分を責めた。
中山さんに会わせる顔がなかった。
その後、青木君は中山さんに1度も連絡をしていない。
中山さんからも連絡はなかった。
史子も、中山さんを巻き込む訳にいかないと、連絡をしなかった。
そして児嶋君が亡くなって8年後、史子はA国で中山さんを目撃した。
私の夫が殺された後、パーカーを恐れて逃げるように日本に帰国した安藤が、2年後、どういう理由か再びA国へ旅立った。
UGCから報告を受けた史子は、A国空港で安藤を待ち伏せ追跡した。
安藤はホテルに到着すると、チェックイン手続きをせずにエレベータに乗り込んだ。
メモを片手に目的の部屋を探し当てると、ドアをノックした。
ドアが開くと安藤はにこやかな笑顔を見せ、部屋の中に入っていった。
史子が様子を窺おうと、安藤の部屋を通り過ぎようとした時、ドアが開いた。
史子は顔を伏せ、宿泊客のふりをした。
安藤は、美しい女性と一緒に部屋から出てくると、腕を組んで、楽しそうに会話を交わしながらエレベータに乗り込んだ。
女性が先にチェックインし、安藤を待っていたようだ。
安藤にはクラブで働く恋人がいると、UGCから報告が上がっていた。
その女性だろうか。
化粧は少し派手で華やかさがあるが、服装は白いシャツとジーンズにスニーカというシンプルな装いで、ぴんと背中をはって歩く姿はなんとなく知性を感じさせた。
恋人同士のように寄り添い歩く女性に、史子はどことなく見覚えがあった。
2人が楽しそうに交わすその声にも、史子は何となく聞き覚えがあった。
2人はオープンテラスに腰掛け、紅茶とフレンチトーストを注文した。
史子も2人が見える位置に座り、ブラック・コーヒーを注文した。
女性はバッグから携帯を取り出し、テーブルに置いた。
その携帯に、アクリル製のキーホルダーがぶら下がっているのに史子は気が付いた。
透明のアクリル製キーホルダーの中には紫陽花らしき花びらが、四葉のクローバーのように美しくはさみ込んである。
一瞬にして史子は記憶を蘇らせた。
あれは中山さんが拾った紫陽花の花びらだ。
児嶋君、青木君、中山さんと史子の4人で行った、愛宕神社で拾った紫陽花の花びら。
就職活動の祈願に皆で訪れた愛宕神社で中山さんが拾い、手先が器用な中山さんは、その日の記念にと、紫陽花のキーホルダーを作ってくれた。
4人おそろいの思い出のキーホルダーだ。
「まさか……あれは、中山さん……!?」
すぐには思い出せない程に彼女は変わっていた。
地味で化粧っ気のない静かなタイプの女性だった彼女が、いつも一つに束ねていた髪を解き、真っ黒だった髪を栗色に染め、くっきりとした目鼻立ちと美しい瞳は、メイクでさらに華やぎ、赤く濃い口紅がよく似合う魅力的な女性になっていた。
少し派手な化粧にも関わらず、下品さはなく、どこか昔の中山さんの面影が残っていた。
中山さんの写真を青木君に見せると、青木君は彼女が誰だか分からなかった。
中山さんだと告げると青木君は彼女の変貌ぶりに驚いた。
それ以上に、あの日、中山さんの言葉を真剣に受け止めなかった事を悔いた。
2人は不安に襲われた。
中山さんが安藤と一緒にいる理由は、復讐しかない。
何を企んでいるのだろう。
中山さんが安藤の恋人なら、彼女は銀座の高級クラブで働いている事になる。
中山さんからは想像もつかない勤め先だ。
児嶋君の死の真相を1人で探ろうとしていたのかと思うと、切なさで胸がいっぱいだった。
史子と青木君は、中山さんとの接触を考えたが、青木君は安藤と面識がある。
安藤とパーカーは我々のマークに気付いていない。
我々の事を知られては捜査がやりにくくなり、これまでの苦労も水の泡になる。
それと心配なのは、愛宕神社で撮った4人の写真の存在だ。
夫はあの写真をきっかけに命を落とした。
あの写真には青木君も児嶋君も写っている。
もし安藤に、あの写真を見られでもしたら大変だ。
A国で親しくしていた青木君が、児島君の友人だったと知られてしまう。
しかし、中山さんが復讐を果たす為に安藤に近づいたのであれば、児嶋君が友人だという事は伏せているはずだ。
中山さんの登場は史子と青木君を混乱させた。
とりあえず中山さんの行動を静観する事になった。
中山さんが安藤と帰国すると、私が彼女を監視することになった。
この件をきっかけに私は捜査官に復帰した。
※作中にアガサ・クリスティの著作名が紛れ込んでいます(全部分ではありませんが、著作名がある部分にはあとがきで説明を加えています)。
【ブラック・コーヒー】
ポアロシリーズです。
戯曲版(会話形式)と小説版があります。
アガサ・クリスティ自身が執筆した戯曲としてはこれが初作品です。
小説化したのは、クリスティー研究者のチャールズ・オズボーンです。
研究中の原爆の方程式が入った封筒が盗まれ、科学者クロードが、部屋を暗くしている間に封筒を返すよう説得しますが、明かりが付くとクロードが殺され、空の封筒が置かれていました。
ヘイスティングとジャップ警部も登場します。
ポアロの素早い身のこなしに「日本のジュージュツですか?」と「日本」が出てきて嬉しかったり、ポアロのアクションシーンが見られて面白くもある作品です。
小中学生でも楽しめる作品と思います。
次は 39-Ⅰ 中山加奈子の告白【紫陽花殺人計画】 に1作品名が隠れています。
是非探してみて下さい。




