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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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24-Ⅹ 史子叔母さんの告白【ケリー大統領と黒田総裁のシナリオ】

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

伊藤史子……麻紀の叔母。麻紀の父親の妹

伊藤孝之……麻紀の亡くなった父親

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者

峰准教授……元H大学准教授。児島の父

青木…………児島と史子の親友

児嶋…………伊藤教授のアシスタント

海老原教授……H大学教授で峰の上司

安藤…………元H大学の准教授。峰准教授の同僚。装置を盗んだ真犯人

パーカー司令官……現在の装置所有者

関・石塚・竹本……アイテムと思われる大学生

 パーカー司令官の行為を知っていながら、それを黙認し、何もしようとしない大統領に、私はずっと不信感を抱いていた。

 パーカーが多くのアイテムを生み出し、それを大統領に報告しても、大統領は全く動く様子を見せなかった。

 アイテムを戦争の駒にする、パーカーの動きを制止しないのは、大統領が装置を軍の手に渡したから。

 黒田総理はそれに協力した。

 私はそう確信していた。

 そしてその疑念を確かめる機会が訪れた。


 私が長年抱えてきたその疑念を2人にぶつけると、峰准教授はノート型パソコンにUSB差し込み、大統領と総裁の前に置いた。

 関君達は立ち上がり、大統領と総裁の後ろからパソコンを覗き込んだ。

 そこには兄が撮った、数々の写真がスライドショーで映し出され、動画もあった。

 その中で、アイテム兵士達は敵の武器庫を破壊し、武器を奪い、長けた武術で敵を殺さず捕え、別の動画ではある組織のアジトに忍び込み、誘拐された女性や子供を救い出す場面を捉えていた。


 撮影中、兄が争いに巻き込まれ、兵士に助けられる場面もあった。

 崩壊した建物を背景に、仮設テントが並び、その中に怪我人が運び込まれると、アイテム兵士達は敵味方構わず治療を施していた。

 あらゆる言語を操り、あらゆる能力を発揮し活躍するアイテムの姿が、動画に収められていた。

 また、兄が流した「第九」に反応し、眠りに落ちていく兵士の映像もあった。


 映像の最後に、兄が自身の姿を撮った動画が流れた。

 兄は、両手にノート型パソコンを持ち歩きながら、パソコンの内蔵カメラに向かって語りかけ、時折、周囲に広がる荒れ果てた戦場にも内蔵カメラを向けて、アイテムの現状を訴えた。

 兄の服と、パソコンが擦れるガザガザという雑音と、周囲の雑踏の中で、兄は、声を張り上げて現状を伝えていた。

 安定感の悪い画面の中に写る兄の姿を、皆が食い入るように見ていた。


 話し終えた兄の腕がこちらに伸びて、パソコンのフタがパタンと閉じられると、画面が真っ暗になり、場面が変わったようで、音声だけが流れ始めた。

 それは椎名家の留守番電話に録音された、兄とパーカーとのやりとりだった。

 兄がパーカーに装置を返すよう訴えた後、銃声とうめき声が聞こえ、衝撃音と共に音声は途絶えた。


 峰准教授がゆっくりとテーブルに歩み寄り、ノートパソコンを閉じると、暫く沈黙が流れた。


 「装置を戦争の道具にしようと企んだのは、あなた方ですね」


 峰准教授の問いに、大統領が深く溜息をついて答えた。


 「すまなかった。私はアイツを見誤っていた。タカユキさんが亡くなったのは私の責任だ」


 大統領は後悔をにじませながらそう言うと、立ち上がって日本式に頭を下げた。

 黒田総理も座ったまま、テーブルに両手をついて、土下座するように深々と頭を下げた。

 大統領は沈み込むようにソファに体を戻すと、再び大きく溜息をついた。

 そして2人が安藤を利用し、パーカーの手に装置が渡るよう仕向けた事を打明けた。


 児嶋君の死から5年、やっと大統領と黒田総裁の策略が明るみとなった。


 児嶋君は峰准教授に真相を打明ける直前、黒田総理に会っていた。

 黒田総理は誰よりも先に、事件の真相と、安藤の企みを知った。

 黒田総理は即座にケリー大統領に連絡し警告した。

 装置は人々をコントロールする、テロリストの手にでも渡れば大変だ、そうなれば自爆テロにされるなど、罪のない国民が利用されかねない。

 そう黒田総理が説明したところ、思わぬ展開が待っていた。


 大統領が装置に興味を示したのだ。


 A国では膨大な防衛費が国費を圧迫しているにも関わらず、世界中でテロによる事件が多発し絶える事はなかった。

 膨大な費用を防衛費に当てて攻防し続けても、世界は一向に良くならない。

 戦争が無くなるどころか、戦争もテロの手口も巧妙化し、対抗が難しくなっていく。

 核保有国も増えた。


 装置の能力を知った大統領は、装置を戦争に利用出来ないかと考えた。

 新しい形の戦争を思い描いたのだ。


 装置を上手く利用すれば無駄な戦いをせず、或いは戦わずして敵を倒せるのではないか。

 無駄な血を流さずに済むのではないか。

 強くて優秀な頭脳を持つ兵士を沢山生み出し、映画さながら凶悪犯罪組織を壊滅させる方法もあるだろう。


 しかしそれより、装置は敵を味方に変える事も可能だ。


 捕えた敵を装置で洗脳し、敵をA国の味方につけるのだ。

 上手くいけば装置は最強の兵器となり、これまでの膨大な費用がかかる兵器は必要なくなる。


 装置は世界を変える。

 戦争の形を変える。


 装置による戦争は勝ち負けではない。

 今までのような、終わりのない、繰り返さる報復や争いとは違う。

 新しい形の戦争は、人々を教育し、悪を改心させる。


 装置は血の戦争を終われせ、世界を平和に導くに違いない!



 新たな兵器となる装置の可能性に、大統領はすっかり魅入られてしまった。

 そして黒田総理は大統領の熱意に負け、装置を譲る事に同意した。

 黒田総理にとってケリーは信頼できる男だった。

 誰よりも平和を願い、優しく正義感溢れる男だった。


 新しい形の戦争を行うべく、大統領と総裁は結託し、手始めに当時大佐だったパーカーのに目をつけ、彼の手に装置が渡るようシナリオを描いた。

 パーカーの方から、積極的に安藤とテレビスタッフの申し出に応じるように仕向けたのだ。

 シナリオ通り、安藤はパーカーと出会った。

 大統領と総裁の手引きにより、取材が設定されているとも知らず、安藤はパーカーと意気投合すると、装置をパーカーに渡してしまった。


 パーカーは大統領の指示通り、身寄りがないか、家族と疎遠で、正義感溢れる強い兵士を集め、アイテムにして戦闘地域に送り込んだ。

 その結果、パーカーの部隊は、多くのテロや凶悪犯罪組織を壊滅するに留まらず、人身売買組織なども摘発し、拉致された女性や子供達を助け出した。

 パーカー部隊による活躍ぶりは注目を浴び、パーカーは46歳の若さで少尉から中将へ、異例のスピード出世まで果たすと、英雄として名高くなっていった。


 大統領は、信頼できる捜査官と関君達に、パーカーの動きを監視させ、都合よく現われた私には、安藤の監視を命じた。


 当初、黒田総理と大統領は私の処遇に困り、場当たり的に私をA国に招待したに違いなかったが、パーカーが装置とアイテムを私物化し、ゲームの駒のように扱うようになると、都合のいい情報屋だったはずの私の報告は重要性を増した。

 私は協力してくれるCIA職員やOBたちと連携しながら安藤とパーカーの動きを監視し、大統領に報告し続けた。


 その最中、兄が亡くなった。

 パーカーは本性を見せ始め、彼の胸中は、装置で世界に平和をもたらすよりも、装置で人々を支配する事に、強い関心を抱く様になっていた。


 彼は装置の魅力と可能性に取りつかれ変貌した。


 出世に対し貪欲だったパーカーは、「平和」よりも「支配」や「統治」という、危険な謀略を抱く様になっていた。

 パーカーが大佐だった当初、彼に対する大統領の評価は高かった。


 大統領は、パーカーの能力を把握してはいたものの、彼の素質を把握していなかった。


 兄が殺され、とうとう大統領は動き出した。

 パーカーを警戒し、一部政府とCIAに対して、装置とアイテムの存在の公表に踏み切り、それまでの全貌を打ち明けた。

 その一方で、パーカーから情報を引き出す必要があった大統領は、彼を敵に回す事はせず、後ろ盾となっているフリを続けた。

 その裏で、大統領は、CIAと連邦捜査局からなる「特別チーム」を立ち上げ、パーカーを監視しながら装置の回収を試みようとした。

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