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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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24-Ⅳ 史子叔母さんの告白【新しい人生のスタート】

登場人物紹介


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職。

伊藤史子……麻紀の叔母。麻紀の父親の妹

福山…………由美の同僚

峰准教授……H大学の准教授。児島の父。黒田総裁と伊藤教授の級友

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント

青木…………児島の同級生で親友。史子と峰准教授とA国に移住

 移住して1年も経つと、言葉の壁もほぼなくなり、行動を共にしていたCIA捜査官も私を理解し、積極的に支援してくれるようになっていた。

 安藤と会っていた軍人らしき外国人男性が、空軍の所属である事も分かった。

 空軍本部の下にはいくつか部隊があり、それぞれ10の軍団で成り立っている。

 彼はそのうちの1軍団に所属するパーカー大佐だった。

 当時まだ大佐だった彼は、その後、准将を飛ばし少将、中将へと若いながらも異例の出世を遂げていくことになる、有能な軍人だ。

 パーカー大佐は、安藤と知り合うとすぐに意気投合し、2人は親しくなった。


 装置は、軍ではなく、パーカ―大佐が個人的に所有し、保管している様子だった。

 恐らく、パーカーと安藤にとって、装置は、洗脳の道具でしかない。

 私的に利用しようと考え、装置の存在を公にするつもりなさそうだった。

 装置で人々を洗脳し、アイテムとなった人々を自分の思い通りに操ろうと、パーカーと安藤が企んでいるのではないか、私はそう危惧していた。


 安藤とパーカーを監視中、衝撃的な言葉を耳にした。

 特定の兵士の事を「アイテム兵士」と呼んでいたのだ。

 安藤とパーカーは兵士を装置にかけ、操っている可能性が高まった。

 私は不安になった。

 危惧した通り、アイテム兵士は各地に派遣され、まるでゲームの駒のように、危険な任務を次々と任された。

 しかし彼らは、器用にそれらの任務を遂行した。


 安藤の傍には、常に、アイテムと思われる、あの大学生3人が、まるで秘書の様に付いていた。

 彼らは安藤に操られているのだろうか。

 私にはもう一つ不安があった。

 ケリー大統領が、装置の能力とアイテムの存在に気付いていながら、パーカーから装置を奪い取ろうとも、事実を公表しようともしない事だ。


 何故だろう。


 それどころか、アイテム兵士の素晴らしい活躍は、パーカー大佐の功績と認められ、大佐は少将へと昇進し、司令官となった。


 私は不安よりも疑問の方が強くなっていった。


 安藤は、R市北部に家を持ち、大半をそこで優雅に過ごしていた。

 パーカー司令官の計らいのようだった。

 そんな安藤に、青木君が近づいた。

 青木君は、峰准教授の援助で語学学校に通った後、峰准教授が教鞭をとるR大学に入学していた。

 はっきりとした素性がなければ、安藤に怪しまれ、接触は難しいと考えた青木君は、必死に勉強に取り組み、少し遠回りをしながらも、安藤との接触に成功した。

 青木君は、安藤行きつけの店に足しげく通い、何度か安藤と顔を合わせるうちに、会話を交わす仲になった。

 しかし安藤は決して、装置や軍について語らなかった。

 青木君は地道に安藤を探った。


 青木君にはもう一役買ってもらっていた。

 架空の人物、私の恋人役として「椎名さん」役を演じてもらった。

 両親は、私が結婚して「椎名史子」になったと思っている。

 私は両親に嘘をついて日本を離れた。

 恋人の「椎名さん」が、突然A国へ転勤となったため、急遽、籍だけ入れ、式を上げる間もなくA国に移住する――、という嘘のストーリーを作り上げ、私は日本を発った。

 両親は嘘のストーリーを疑わず、出国の日は涙ながら空港まで見送ってくれた。



 兄からプロポーズを受けていた由美は、私がA国へ行く事を知ると、猛反対した。

 由美が代わりに行くとまで言い出した。

 両親は、由美を本当の娘のように可愛がり、由美も両親をとても慕ってくれた。

 それなのに、由美は全てを捨てて、私の代わりにA国へ行くと言い出した。

 私達は泣きながら、互いに言い争った。

 私の代わりに両親のそばに居てやって欲しい、兄と結婚して欲しいと、私は必死に由美に懇願した。

 私の意志の固さを理解していた福山さんも、行かせてやれと、由美を説得してくれた。

 とくかく今は行かせてやれと、すぐに帰ってくるかもしれないじゃないか、と由美を説得してくれた。


 由美の不幸な子供時代を知っている福山さんは、由美に幸せを味あわせてやりたいと思っていた。

 福山さんは由美に結婚を勧め、私達の説得に、由美は渋々首を縦に振った。


 こうして由美と私は、それぞれの新しい人生をスタートさせた。


 私がA国に移住後、我が家はにぎやかになっていた。

 由美のおかげで、両親に寂しい思いをさせずに済み、私は丁度いいタイミングで移住できた。


 A国に移住して1年後、私と由美が26歳の時、由美は妊娠した。

 私にとって久しぶりの明るいニュースだった。

 由美はひどいつわりに悩まされ、暫く捜査から離れる事になった。

 由美の幸せを願う福山さんは、捜査から由美を遠ざけ、その代りに他の仕事を与えた。

 由美は父の新型装置開発のサポート役となった。

 サポートといっても、父とUGCとの間を取り持つ、事務的な役割だ。


 加えてUGCは由美にリフォームを提案した。

 家の地下に、父専用の研究室を作るという案だ。

 最新のセキュリティシステム等、警備対策はもちろんの事、職員が行き来しやすいよう、UGCの秘密の地下道と、我が家をつなげる計画が持ち上がった。

 福山さんは、由美の視線を、私や事件から遠ざけ、リフォームと子育てに集中させようとした。


 ところが思わぬ出来事が起きた。

 リフォームの最中、荷物整理をしていた兄が、私の大学時代の写真を見つけてしまったのだ。

 写真には児嶋君だけではなく、青木君も写っていた。

 大学4年の時、就職活動の祈願に訪れた愛宕神社で撮った写真だ。

 神社名物の急階段の下で、アルバイト仲間の中山さんを含め、4人が並んで微笑んでいる。


 私達兄妹は、父の友人である西村院長を小さい時から知っていた。

 医療機器メーカーのエンジニアとなった兄は、仕事上でも西村病院と付き合いがあった。

 父と児嶋君も、研究協力者である西村病院を定期的に訪れていたため、兄は児嶋君と面識があった。

 児嶋君の性格を知っていた兄も、児嶋君が犯人のはずがないと強く訴えていた1人だった。


 その児嶋君が、私と笑顔で写真に写っている。

 その上、職場の取引先で出会ったはずの夫「椎名さん」までもが写っている。

 兄にとって青木君は「青木」ではなく「椎名」で、義理の弟だ。

 兄は驚いた。

 私が突然、椎名さんと結婚して日本を離れると言った時、兄は何かを感じ取り、色々と質問をぶつけてきた。

 私と由美は口裏を合わせ、何とか兄を誤魔化した。

 私達の説明に兄は多少違和感を感じながらも、A国行きを受け入れてくれた。


 ところが、兄は写真を見つけ見つけてしまった。

 兄は、私が嘘をついていると確信した。

 写真は、兄の人生を変えてしまった。

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