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私はアイテム  作者: 月井じゅん
25/105

24-Ⅱ 史子叔母さんの告白【侵入】

登場人物紹介


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職。

伊藤史子……麻紀の叔母。麻紀の父親の妹

福山…………由美の同僚

峰准教授……H大学の准教授。児島の父。黒田総裁と伊藤教授の級友

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

児島…………装置盗難の容疑者で伊藤教授のアシスタント

 峰准教授は、葬儀社の、運転手と従業員の様子にも、違和感を感じていた。

 葬儀社は、聞いた事のない社名だった。

 マンションへ向かう途中、峰准教授は、車内で彼らが、後続車を気にしているのに気が付いたという。

 最初は、私達の乗ったタクシーに、注意を払っているのだと思っていた。

 ところが、彼らの目が、タクシーではなく、タクシーを追走していた白いワゴン車に向いている事に、峰准教授は気付いたという。

 マンションに到着し、停車した葬儀社の横を、白いワゴン車が通り過ぎた瞬間、葬儀屋とワゴン車の運転手同士が小さく頷き合い、アイコンタクトをしたのを、峰准教授は見逃さなかった。


 そこまで聞いても、私も青木君も、その時はまだ、事情がよく呑み込めていなかった。

 とりあえず、青木君が葬儀の準備を請負う事になった。

 峰准教授は、警察から紹介された葬儀屋ではなく、母親の葬儀で世話になったという葬儀屋を利用する事にした。

 とるものもとりあえずアパートを飛び出してきた青木君は、いったん帰宅してから、葬儀屋に行くことにした。

 峰准教授は、先ほどの葬儀屋と白いワゴン車が気になり、念の為にと、青木君を人目の付かない非常階段から、そっと帰した。


 青木君が帰宅した後も、峰准教授は、何かぶつぶつ言いながら考え込んでいた。

 息子の死には何かある、殺されたのかもしれない、とまで言い始めた。

 私は峰准教授に電話を借りて、父に、児嶋君が亡くなった事、由美と福山さんが警察の人間ではないかもしれない事を告げた。

 父は児嶋君の死に取り乱し、峰准教授と同様、児嶋君が犯人であるはずがないと言った。

 峰准教授が父と話したいと言い、電話を代わると、2人は驚くべき内容を話し始めた。



 行方不明になっていた児嶋君は、逮捕される数日前に、突然、H大学の峰准教授の研究室に姿を現したという。

 児嶋君は、ずっと拉致されていたことを、峰准教授に打ち明けていた。

 装置盗難から1カ月間も真犯人に拉致され、隙をみて、逃げ出して来たのだという。


 装置を盗んだ真犯人は、人気テレビ番組に出演している有名人の、元H大学准教授、安藤厚司だと児島君は訴えた。

 安藤は峰准教授の元同僚で、逮捕された海老原教授とは険悪の仲だったという。

 峰准教授が驚きをもって児島君の話を聞いているところに、突然、男が乱暴にドアを開け、室内に入ってきた。

 安藤ではなく、海老原教授だった。

 逃げ出した児島君を、追ってきたようだった。


 海老原教授は研究室に押し入ると、嫌がる児嶋君を、無理矢理連れ去ろうとした。

 峰准教授が止めに入ると、海老原教授は形相を変え、峰准教授に襲いかかったという。

 峰准教授は大怪我を負いながらも、児嶋君をその場から逃がした。

 偶然そこに3人の学生が通りかかり、助けに入ってくれたおかげで、海老原教授は傷害の現行犯で逮捕された。

 峰准教授は大怪我を負い、救急車で運ばれ、入院となった。


 逮捕された海老原教授は、装置を盗んだのは自分だと自供し、再逮捕された。

 その後、児嶋君も警察に出頭し、装置盗難の容疑を認め、逮捕されたという。

 無実を訴えていたはずの児嶋君がなぜ出頭し、容疑を認めたのか。


 児島君が訴えていた、真犯人の安藤は、逮捕されていない。


 海老原教授をよく知る峰准教授は、彼に襲われた時に異変を感じていた。

 海老原教授の言動や振る舞いは、まるで別人で、人格が変わってしまっていたという。


 父は父で児嶋君に異変を感じていた。

 児嶋君の逮捕の知らせを受けた父は、入院した峰准教授に代わって、児嶋君と面会した。

 その時の児嶋君はまるで別人だったという。


 父は、海老原教授と児嶋君は装置にかけられ、誰かに操られているのではないかと疑った。


 やってもいない犯行を自供したのは誰かに命令されたから、そう確信した父は被害届を取り下げた。

 海老原教授によって大怪我した峰准教授も、海老原教授を告訴せず、父と峰准教授は、児島君と海老原教授を検査・治療しようと決め、2人が釈放されるのを待っていた。


 ところが、釈放直後、2人は共に、命を落としたのだった。



 峰准教授のマンションから帰宅した青木君も、自宅で事件の真相を知った。

 ポストに、児嶋君とある人物から、手紙が届いていたのだ。

 手紙は、真犯人が安藤であり、事故車両から見つかった装置の残骸は、偽物だと告げていた。

 そして、安藤は盗んだ装置を国外へ持ち出して、軍の関係者に売り込もうとしていると、黒田総理が全て知っていると、驚くべき内容が記されていた。

 戦争マニアでもあった安藤は、装置を戦争の道具として利用できないか、軍に話しを持ちかけようとしていたという。


 安藤が真犯人に違いない、私達はそう確信した。


 こんな大事件を、なぜ警察は把握していないのか、なぜ安藤が捕まらないのか、謎だった。

 それに、由美と福山さんが警視庁の人間ではないのなら、何者なのか。

 私達は真相を突き止めようと動き出した。


 まず私は、由美の正体を調べようと後をつけた。

 私は由美の人柄に触れ由美が好きだった。

 その由美が警視庁の人間ではない。

 しかし、あの由美の所属する組織が、悪い組織であるはずがない。

 私は、質問をぶつけて警戒されるより、こちらから探りを入れよう考えた。


 もう一人、会って話を聞きたい人物がいた。

 父の友人でもある黒田総理だ。

 青木君が受け取った手紙には、


 「黒田総理が全て知っている」


とあった。


 父と黒田総理は、共通の友人である西村病院の院長と、病院でよく会っていた。

 西村病院には総理の母親が入院中で、父も西村病院とは仕事上の付き合いがあり、3人はよく顔を合わせていた。

 そしてそこには、父のアシスタントである、児嶋君の姿があったかもしれない。

 黒田総理は児島君と面識があったに違いない。

 黒田総理も、児島君が父を裏切る様な人物ではないと、分かっていたはずだ。

 もしそうなら、真犯人は安藤だと知っていたのなら、総理は何か手を施すことは、できなかったのだろうか。


 父に、黒田総理から装置盗難の事件について何か真相を聞いていないか訪ねたところ、黒田総理からも警察からも、安藤の名は聞いていないようだった。

 何かおかしい。

 黒田総理は安藤が犯人だと知っているとすれば、それを父に話す機会はあったはずである。

 しかも父は、事故車両から発見された、装置の残骸の確認を、依頼されていないどころか、装置が見つかったという連絡すらきていなかった。

 では、誰がその残骸を「装置」だと証言したのか。

 何もかもが不可解だった。

 総理に疑問を感じ、父と峰准教授に、総理について言及すると


 「彼の立場上色々あるのだろう」

 「彼は多忙なのだ」


 と2人は総理の行動について真剣に受け止めなかった。


 

 私は、由美の後をつけて、UGC本部までたどり着いた。

 当時、UGC本部は地上にあり、なんとか忍び込む事にも成功した。

 すると驚いた事に、職員の会話から、施設内に黒田総理がいる事が分かった。

 しかし、彼を探しに行く前に、私はあっさりと職員に見つかり、取り押さえられてしまった。

 もうダメだと思った時、福山さんが現れた。


 私はこれまでの出来事を、福山さんに全て打ち明けた。

 総理が真相を知っていながら、真犯人を放置している、その理由を聞きたいのだと強く訴えると、福山さんは、私を総理の元へ案内してくれた。

 総理は私の突然の訪問に驚きながらも、にこやかに招き入れてくれた。


 児嶋君は私の親友だ、と打ち明けると、総理は知っていた、と静かに答えた。

 しかし、私の次の発言に彼の表情は一変した。

 児嶋君が残してくれた手紙については触れずに、装置とアイテムの存在も、安藤が犯人である事も知っていると告げると、なぜをその事を知っているのかと、彼は驚きの表情をあらわにしながらも、それを事実と認めた。

 加えて、安藤が装置を国外に持ち出して軍に売ろうとしている、と告げると、総理はそれを「初耳」と言い、知らなかった素振りを見せた。


 彼は私に嘘をついた。


 彼は全てを知っているはずだ。

 父の言った通り「立場上仕方のない事」かもしれないが、私は、この人は信用してはならない、と直感的に感じた。

 しかし私は、総理の言葉を信じたふりをし、我が家が警護されるようになった経緯や、児嶋君の事件について、根掘り葉掘り聞き出した。

 彼の言葉を聞きながら私は、真相を自分で確かめようと決心した。


 何が本当で、誰が敵か味方か、分からなくなっていた。

 ただ明らかになったのは、由美と福山さんが警察ではなく、総理の率いるUGCという組織に所属し、その存在は、政府でもごく一部にしか知られていない、極秘組織である事。

 そして彼らが、児嶋君の事件を捜査している、或いは事件に何かしら関わっているかもしれない事。


 恐らくUGCは、捜査の邪魔になるであろう警察を、事件から引き離した。

 それほどの力を持つこの組織の総裁である黒田総理は、当然、多くの情報とパイプを持っているに違いない。

 この人を利用しよう、そう思った。

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