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私はアイテム  作者: 月井じゅん
21/105

21.麻紀の秘密

登場人物紹介


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部。母の由美はUGC職員

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤史子……麻紀の叔母。麻希の父親の妹。

清水千佳……理工学部。リーダー的存在だが、少し太り気味

菊池友紀……理工学部。サラサラのロングヘアにロングスカートが定番。いまどきの娘という感じ

志藤薫……法学部。整った美人でジーンズ姿がよく似合い、男っぽい性格

児島……麻紀の祖父のアシスタント。装置と共に行方不明になり、装置盗難の犯人として逮捕された

中山さん……麻紀と千佳がアルバイトしているコンビニの先輩。コンビニ一筋20年勤務

 「お疲れ様です」


 「あら清水さん早いわね。今日は暇よ。雨の日は決まって暇なの」


 「そうなんですか。中山さんは長年お仕事されてるから、何でも分かるんですね」


 「売店だった頃が懐かしい。そう言えば最近警備員の姿を見るけど、どこかりっぱなご子息でも留学されてるの? こんなに警備が多いのは、売店時代以来よ」


 「売店時代に、何かあったんですか?」


 「あったわ。私にとっては忘れられない出来事が……。もう22年も経つのね。22年前の3月、教授が運転する車が交通事故を起こしてね、教授と同乗していた男子学生が亡くなったの。その後なぜか警備員がそこらじゅうにいる見かけるようになって。ただの交通事故でどうしてって、当時、とても不思議に思ったわ」


 「教授と教え子ですか?」


 「ええ。ここの卒業生よ。私のお友達だったの」


 「お友達!」


 「児嶋君と言ってね。児嶋君は、当時ここでアルバイトをしていた青木君と親友でね、青木君を訪ねてよくここに来ていたの。それで私とも顔見知りになって。もう1人、女子学生のアルバイトも加わって、私達4人は仲良しだった。あの頃が一番楽しかったな」


 「今でも会ってるんですか?」


 「ううん、みんな卒業してからは会ってない。どこにいるのかも分からないわ。私だけがここに残った。みんないい子だったなあ。児嶋君はご両親を早くに亡くしていてね、ふみちゃんと青木君がよく気にかけて、助け合って・・・本当に仲が良かったの」


 「ふみちゃん?」


 「もう1人の女子学生のアルバイトよ。伊藤史子っていうの。「史子」と書いて「あやこ」と読むんだけど、皆「ふみこ」って読むの。ふみちゃんはいちいち説明するのが面倒だって皆に「ふみこ」「ふみちゃん」って呼ばせてたわ。伊藤って聞くとふみちゃんを思い出すの。伊藤さんは少し雰囲気がふみちゃんに似てるの。伊藤さんのお母様のお名前、まさか史子(あやこ)ではないわよね」


 「違ったと思います」


 「そうよね、まさかね」


 「青木君とふみちゃんって、今どうしてるんですか?」


 「さあ。母子家庭だった青木君は病気がちなお母様に代わって家計を支える為、進学せずに働いていたの。大学生の気分を味わいたくて、ここでアルバイトしているって言ってたわ。だけど、それだけじゃお金が足りないって、夜にも、児嶋君と一緒に、この近くの居酒屋でアルバイトをしていて。そのうち青木君は売店を辞めて居酒屋に就職したの。ふみちゃんは卒業後、一流企業に就職してそれっきり」


 「へえ、その居酒屋ってまだあるんですか?」


 「ううん、すっかり変わったわ。今では大きなビルが建ってる」


 「亡くなった児嶋君ってどんな人だったんですか?」


 「児嶋君は読書家でまじめで優しい青年だった。卒業後はT大学院に進学したの。卒業後も恩師を訪ねてこの大学に来ては、売店にも顔を出してくれてたんだけど、急に姿を現さなくなって、心配していたら、あの事故よ。本当にショックだった」



 私は目をつぶって千佳の話を聞いていた。

 22年前に教授と事故死した男子学生。

 児嶋は22年前に死んだと母は言っていた。

 ふみちゃんは史子(あやこ)叔母さんだ。

 私は小学生の時、家に飾ってあった家族写真の裏に書いてある史子(あやこ)叔母さんの名前を見て


「これ、ふみこじゃなくてあやこと読むの?」


と母に訊いた事がある。

 もし中山さんが話したふみちゃんが史子(あやこ)叔母さんなら、史子(あやこ)叔母さんは児嶋の親友だ。

 なぜ母は教えてくれなかったのだろう。

 それとも知らないのだろうか?

 いいや、これくらいの事はUGCなら調べられるはずだ。

 知らないわけがない。


 「麻紀、具合でも悪いの? 顔色が悪いよ。大丈夫?」


 友紀が、私の顔を覗き込んで言った。


 「うん、なんか、ちょっと気分が悪くて。私もう横になるね」


 私の様子に気付いたのだろう、


 「今日は疲れたね、続きはまた明日にして今日はもう寝よう」


と誰かが締めくくり、そのまま全員床に就いた。

 私は誰の言葉も頭に入らず、目をつぶったが全く眠れなかった。

 史子(あやこ)叔母さんが、祖父を裏切った児嶋の親友……いったいどういう事なのだろう。



 翌朝、言葉少なに朝の掃除を済ませ朝食に行った。

 眠れなかったせいもあって疲労感がひどく、頭の中も整理できず、話す言葉もなかった。

 朝食を終え、顔をあげると3人が心配そうに私を見ていた。

 一瞬我に返り久しぶりに皆の顔を見た気がした。

 どうしてだか涙がこぼれてしまい、私は3人に支えられ、いつもの自習室へ入った。


 「私、麻紀の化粧ポーチとってくるよ」


 薫は412号室へ向かった。


 「麻紀、無理して話さなくてもいいけど、困ったり、辛い事があるなら言いなさい。言えない事は無理して言わなくてもいいのよ。でも、そのまま放置して前に進めなくなったら、私達に話して。もしかしたら、そのために由美さんは、あなたをここに住まわせたんじゃないかしら? 私達と共に暮らすように仕向けたのは、そういう事なんじゃないかしら?」


 「千佳の言う通りよ。話せる範囲でいいのよ。何でも相談して」


 「違うの……何も分からないの。私だけが何も知らない」


 そこへ薫が戻ってきた。


 「みんな、部屋に戻って。来客よ」


 え? と3人で顔を見合わせ部屋へ戻ると、母が私の椅子に足を組んで座っていた。


 「ママ!」

 「おはよう、みんな」

 「由美さん!」

 「みんな座って。話しがあるの」


 私達が畳に座ると、母は何となくばつが悪そうに言った。



 「自習室での会話、全部聞かせてもらったわ」

 「まさか!信じられない、自習室にも盗聴器が!?」


 あきれたように千佳が言った。


 「あなた達も甘いわよ。聞かれたくない話をするなら、きちんと盗聴器がないかくらい調べてほしかったわ。でも自習室の盗聴器は外しましょう。あなた達にとって、あそこは特別な部屋になりそうだから。友紀、あとで探して外しておいて」


 「ママ、ひどい! いくら親子でも盗聴なんて!」


 「UGCは盗み聞きしたくて盗聴をしかけてるんじゃないの。青臭いあなた達を守る為よ」


 「何しに来たの? そんな事を言う為に忍び込んで来たの?」


 「今日は報告に来たの。千佳、よく伊藤史子までたどり着いたわ。友紀も大学の警備員についてよく気付いたわね。ここ数日の様子をみていて、千佳をそろそろ正式な職員に推薦してもいいかなって、それを報告に来たの。あなた、私達の招待を受けるかどうか、確認をしたいの」


 「私が正式なUGC職員に!? 信じられない!」


 「千佳! やったね、おめでとう!」


 「みんな、気が早いわ。おめでとうは千佳が採用試験に合格してからよ。千佳をリーダに決めた事はないけど、あなたのリーダーシップぶり、評価が高かったわ。職員になれば、今まで出来なかった話も出来て仕事がやりやすくなる」


 そうか、職員ならば、私達に話せない極秘事項を、母は千佳を通して私達に伝える事が出来るのだ。

 知らなければ、仕事に差し支える事もあるのだろう。

 千佳が職員となる事で、母も私達も仕事がやりやすくなる訳だ。


 「麻紀、驚いたでしょう。全て話そうと思って、急遽、来たのよ」


 「史子(あやこ)叔母さんの件はショックだった。まさか史子(あやこ)叔母さん、児嶋の仲間じゃないよね!?」


 「あやこおばさん?」


 3人は顔を見合わせた。


 「伊藤史子は麻紀の叔母。私の夫の妹で、A国情報機関のエージェントよ」


ええっ、と千佳たちは驚き、友紀が言った。


 「A国のエージェント!? つまり、CIAやFBIみたいな?」


 「全て話すわ。ざっくりと話すとね、史子(あやこ)と児嶋君は親友だった。史子(あやこ)はなりたくてエージェントになったんじゃない。親友の児嶋君の死の真相を調べていて、装置とアイテムの存在を知ってしまい、成り行きでエージェントになったの。史子(あやこ)は青木君、そしてもう1人と一緒に、真犯人と装置を追ってA国へ行った」


 史子(あやこ)叔母さんの過去に、私は驚いた。


 「ママ、もう1人って誰?」

 「児嶋君の父親よ」

 「はあ?」


 予期せぬ人物の登場で私達は混乱した。


 「そして、私の夫は装置を取り戻そうとして、殺された」

 「ええっ!?」


 一気に話が飛躍し、全員が驚きの声を上げた。


 「パパは殺されたの? そんな!」

 「麻紀のお父さんが、殺された?」


 友紀はショックを受けたようで、口元に手を当てたまま、深刻な表情で私を見た。

 千佳と薫もかける言葉もなく青ざめた。


 「ごめんなさい、いつか麻紀が大きくなって、時期が来たら言おうと思っていたの」


 最近は、驚く事に慣れていたはずだったが、さすがにこれには驚きを隠せなかった。


 「私、何が何だか分からなくなってきた。ママ、どうして今まで教えてくれなかったの! どうして麻紀だけ、何も知らないの?」


 つい、大声を上げてしまった私に、母は、静かな落ち着いた声で言った。


 「話しはとても複雑で、あなたには理解が難しかった。詳しくは明日、史子(あやこ)叔母さん本人から説明させるわ。それからもう一つ隠し事が。これは、誰にも言わないと約束してほしいのだけど……」


 皆が静まり返り、私はごくりと唾を飲み込んだ。


 「麻紀はね、アイテムなの」


 誰も何も言わなかった。

 全員の視線が私に注がれ、私の手と足はガクガクと震えだした。

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