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私はアイテム  作者: 月井じゅん
103/105

56.バスで

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

福山…………由美の同僚

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

伊藤節子……麻紀の祖母。実はUGCの職員で時々スパイもする

伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹

黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁

西村院長……西村病院の院長。装置の共同研究者。独特の個性を持つムードメーカー

アルジャーノン…装置の動物実験で特別な能力を持つ児島の白いハムスター

斉藤さん……トラ。伊藤家のペット

ちーちゃん……猫。伊藤家のペット

 「西村院長!? ここで何してるんですか!」


 「西村先生は本部のはずでしょ! UGC職員以外は病院は出入り禁止です! というより入れないはずよ!」


 「ここは私の城ですよ。忍び込むなんて朝飯前だよ。とりあえず皆僕の後について来て!」


 そう言って院長は階段を上り始めた。

 薫が首を傾げた。


 「外に逃げるのに、階段を上るの? 下りて外に出るんじゃなくて?」


 「屋上にヘリポートがあるんだ」


 少し太り気味の千佳が、息を切らしながら言った。


 「屋上に、ヘリポートが、あるだなんて、初耳! ねえ、エレベーター、ないの?」


 「あるさ! だけどさっき敵に見つかっちゃって、そいつをとっさにエレベーターに閉じ込めたんだ。念の為に持ってた催涙スプレーが役に立ったよ」


 「エレベータに敵を閉じ込めたのは西村院長でしたか!」


 福山さんが驚いたと言わんばかりに言った。


 「うちのエレベーターはハイテクエレベーターだ。遠隔操作はもちろん、僕の声だけで音声操作も出来るんだ。さっき敵と鉢合わせしちゃってエレベーターに誘い込んで閉じ込めたんだ。他にも色々な仕組みがあるよ。催眠ガスが出たり、水が出たり」


 走りながら楽しそうに話す院長は、祖父と同級生とは思えない若々しさだ。

 院長と対照的に、千佳は重い体と戦いながら必死で階段を駆け上がっていた。

 12階にある屋上を目指して走りながら、私は、私達以外の足音に気付いた。

 ピーターのようだ。


 「ピーターはガラス部屋のガラスに阻まれて装置が奪えず混乱した模様です。皆さんを追って階段を上り始めました。正常な判断を失い、最初のターゲット、人質に麻紀さんに照準を変えたかもしれません」


 「私!?」


 そう言いながら、私はもうひとつの音に気付いた。


 「ヘリコプターが来たみたいだよ、先生!」


 「ヘリ? おかしいなあ」


 首をひねる院長に福山さんが尋ねた。


 「何がおかしいんです? 院長のヘリが来たんじゃないんですか?」


 「いやあ、違うね」


 院長がそういうと福山さんが本部に呼びかけた。


 「本部、ヘリが見えるか?」


 「ヘリ一機いっきを確認しました。どこのヘリか調べます」


 福山さんと本部がやり取りしている間に、私達は12階の屋上に到着した。

 ドアを開けるとそこは城の屋上とは思えない場所だった。

 外観からは小塔や張り出し窓のある、いかにも城っぽい屋根だったのに、実際に屋上に上がると、そこに城らしさはなく、代わりに広いヘリポートが完備されていた。


 ヘリの姿はないが、ヘリ10機は置けそうだ。

 私はハアハアと息を切らしながら、空を見上げた。

 遠くにヘリの姿が小さく見える。


 「あれ、西村先生のヘリじゃないの?」


 「違うって! きっと敵のヘリだ」


 「どうやらそのようです。敵はヘリと船で装置を運ぶつもりだったのかもしれません。ピーターの目的はあのヘリの可能性もあります。ヘリはこちらで撃ち落とすなり、なんとかします」


 「なんとかって……適当だなあ」


 薫が呆れて言った。


 「犠牲にするなら畑じゃなくてソーラーパネルにしてくれよ。ソーラパネルなら壊れても金ですぐになんとかなるから」


 「承知しました」


 建物の裏側には広大な畑があり、畑の先には無数のソーラーパネルが湖の様に光っていた。

 すでにヘリは、目視で確認できる位置まで近づき、轟音が響き渡っている。

 友紀が狼狽うろたえながら、ヘリの轟音の中、大声で言った。


 「あれが敵のヘリなら、西村院長のヘリはどこ?」


 屋上を見渡すと、ヘリは無く、不自然にもバスが一台あった。


 「僕はヘリで移動するなんて一言も言ってないよ! みんな、あのバスに乗りこんで! 急いで!」


 大声で西村院長が答えた直後、遠方でものすごい音がした。

 広大な敷地内に広がる、まるで湖の様に光り輝いていたソーラーパネルの上に、ヘリが墜落した。

 畑は無事だ。


 「ピーターが屋上に現れました。急いで下さい」


 私達は無我夢中でバスに乗りこんだ。

 ピータが近づいくるが、足を引きずり、動きは鈍い。

 母が遠くに見えるヘリの煙を見て言った。


 「早く出ましょう! ピーターがあのヘリの状態を見たら、このバスに便乗しようと考えるわ!」


 「みんな座ってシートベルトして! 福山君、バスの運転ぐらいできるんだろ? 運転頼むよ!」


 「了解!」


 福山さんはハンドルを握った。

 私は慌ててシートベルトを締めた。


 「これでどうやって逃げる気!?」


 シートベルトをしながら千佳が怪訝そうに言った。


 「院長、どっちへ進むんだ!」


 「下だ! いつでも走れるように用意しておいてくれよ、福山君!」


 院長が悪戯っ子っぽくにやりと笑うと、突然、バスが落下し始めた。


 「きゃあああああ!」


 正確には、落下したのではなく、バスは高速エレベータで下へ降りているのだ。

 バスの下部分が円卓状にくり抜かれ、高速で階下へ降下していった。

 みんな必死で座席にしがみついていた。

 10秒もたたないうちに、バスは速度を落としながらストップした。


 「まるで〇ィズニーシーのタ〇ーオブテラーね」


 千佳がぐったりして言った。

 高速エレベーターが止まった場所は地下らしく、真っ暗だった。


 自動ライトが点灯し、辺りが明るくなると、そこが円形状なのが分かった。

 周りはコンクリートの壁で覆われ、トンネル型の出入がぐるりと6つ並んでいるのが分かった。

 それぞれ白で大きく1~6の数字がふられている。

 上を見上げると円形のエレベーターが屋上まで伸びている。

 バスが降下後、屋上は閉ざされたようだ。


 突然、バスが回転したかと思うと、バスの正面に白い「3」の数字が近づき、「3」と書かれたトンネル型の壁がゴゴゴゴゴと音を立てて上がり始めた。

 壁が近づいたのではなく、床が動いて、バスをトンネル入り口へ運んだのだ。


 トンネル型の壁がなくなると、手前から順に明りが点灯し始め、吸い込まれてしまいそうに長く果てしないトンネルが姿を現した。

 4車線はありそうな広い道だ。

 西村院長がふらふらと立ち上がり、言った。


 「ちょっと高速すぎたね。さあ、福山君! バスを出してくれ!」


 状況を飲み込めた福山さんは全速力でバスを発進させた。

 すると院長がスマホらしきものをどこからか取り出し、話始めた。


 「もしもし、伊藤?」


 「ああ! 皆無事か?」


 「地下道に入った。建物を閉鎖してピーターを閉じ込めてくれ」


 すると職員が落ち着いた声で言った。


 「院長、GPSでは、ピーターがバスと一緒に移動しています」


 「ええ? まさか! そんなはずはないだろう? GPSって金庫の鍵のだよね、麻紀ちゃん、本当に鍵、敵に取られたの??」


 「えっ! 私、持ってない! ピーターが持ってるんじゃ……?」


 皆の血の気が引いた。

 私は、このバスとトンネルに気を取られていた。

 すでに目視で捉える距離にいるピーターを、アイテムの耳で確認する必要もないと、気にしてなかった。

 確かに、バスが落下した瞬間、ほんの一瞬だが、少しずれたタイミングに異音がして、バスが不自然に揺れたのを感じとってはいたが、まさか……。


 「きゃああああ!」


 突然、友紀の叫び声がバス中に響いた。


 「ピーターがバスの後ろにしがみついてる!」


 ピーターがものすごい形相でこちらを睨み、しがみついていた。


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