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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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54.機功館(からくりやかた)

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

福山…………由美の同僚

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤教授……麻紀の祖父。装置の開発者。黒田総裁と峰准教授と級友

伊藤節子……麻紀の祖母。実はUGCの職員で時々スパイもする

伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹

黒田総裁……元総理大臣。UGC総裁

西村院長……西村病院の院長。装置の共同研究者。独特の個性を持つムードメーカー

アルジャーノン…装置の動物実験で特別な能力を持つ児島の白いハムスター

斉藤さん……トラ。伊藤家のペット

ちーちゃん……猫。伊藤家のペット

 万事休すだ。


 「鍵を出せ」


 私の腕を掴んだ男が言った。

 祖母が倒した男の小型カメラに撮られた映像は誰が見ているのか。

 誰が私が斉藤さんの首輪から鍵を奪ったと、伝えたのだろう。

 私はどうすればいいのか。


 「鍵を出せ!」


 男は再びそう言うと、ガラス部屋の方に銃を一発撃ち放った。

 千佳達の叫び声が響いた。


 「早く出さないと、誰かに弾が命中するぞ!」


 男は再び銃を放ち、防弾盾に弾が当たる音が聞こえた。

 力を振り絞り、震える手でポケットから鍵を出すと、男がひったくるように受け取った。


 全身の力が抜けていくような感覚の中で、私は、何か策がないかと辺りを見回した。

 すると階段下に史子あやこ叔母さんが身を潜めているのが見えた。

 更に史子あやこ叔母さんが、私に何かを言っているのが分かった。

 私は力を振り絞って、史子あやこ叔母さんにアイテムの能力を集中させた。


 「合図をしたらしゃがんで。私が敵を撃つ。援護するからその場から逃げなさい。聞こえた!? 分かったら頷いて」


 私は朦朧もうろうとしながら小さくうなずいた。

 遠くから小さな声で話す史子叔母さんの声を、ピーターは聞いてはいなかった。

 ピーターはの神経は目前にいる母達に集中していた。

 敵は私を捕えたことで有利に事が運んでいると油断している。


 史子叔母さんは銃の照準を敵に合わせると「今よ!しゃがんで!」と小声で合図を送った。

 私はほぼ倒れるように、床にしゃがみ込んだ。


 「麻紀!」


 銃声と同時に母の叫び声が聞こえ、私の上に血が降り注いだ。


 「キャー! 麻紀い!」


 何が起こっているのか分からない母と千佳が、パニック状態で私の名を叫んでいた。

 私は力を振り絞ってフラフラする体を起こし、壁に体をこすりながら進みだした。

 体を壁に預けた状態で、力の入らない足を一歩ずつ前に出して進んだ。

 

 もう歩けない……。


 意識が遠のいていくのが分かる。

 後方で史子叔母さんと職員らが突入し、ピーターらともみくちゃになって戦っているのが分かる。

 様々な音が遠くに感じ意識が朦朧とする中、突然、体を預けていた壁が消え、私は体を支える力もなく倒れた。


 「麻紀ちゃん!」


 聞き覚えのある声がして、誰かが倒れる私を支えてくれた。


 「大丈夫だ。今すぐ元気にしてやるから」


 そう言うと、その人物は私の腕に何かを注射した。


 「僕が特別調合した薬だ。特に君の症状にはカフェインが有効らしい。カフェインは頭痛薬にも含まれる成分だから安心して」


 「西村先生!」


 「気分はどうだい?」


 「うん、なんか少し元気になった気がする。力も沸いてきた感じ」


 「カフェインが効いたかな?」


 「先生、ここはどこなの?」


 「ここは壁の中さ。忍者屋敷みたいに壁がくるっと回るんだ。すごいだろ!」


 「すごい! まるで機功館からくりやかたね!」


 「歩けるかい?」


 「うん、歩けそう。先生の注射すごい効き目! ありがとう」


 「良かった! ママたちは大丈夫だ。さあ、行こう!」


 私は皆の事が気になりながらも、西村院長に導かれるまま、壁の中の秘密の通路を歩き始めた。



 8階ではピーターたち敵6人を確保しようと皆が奮闘していた。


 「わ、私達はどうしよう?」


 おろおろしている友紀に福山さんが叫んだ。


 「由美を援護しろ!」


 「よしっ、友紀、薫、由美さんを手伝うわよ!」


 史子あやこ叔母さんがピーターに銃を放つと、職員が一斉にピーターに飛び掛かった。

 母は、ピーターに加勢しようとする男の行く手を遮り、蹴りを入れた。

 男が倒れ、銃を落とすと、千佳は素早く銃を拾い上げ、薫と友紀は倒れた男の両足を押さえ込んだ。

 職員が素早い動きで男を拘束バンドで締め上げると、友紀は母の方を振り返った。

 その時、母が敵から強烈な蹴りを浴び、床に全身を叩きつけられた。


 「由美さん!」


 「友紀! 後ろ!」


 倒れた母は、体を起こしながら叫んだ。

 友紀は母を見ていて、後ろに敵がいる事に気付いていなかった。

 母が口にした名前を聞いた男は、友紀を見て、何かを見つけたような表情をして言った。


 「孫娘は確かそんな名前だったな、お前が孫娘だったのか?」


 男は「友紀」を「麻紀」と勘違いした。

 男が友紀を捕えようとすると、友紀はとっさにガラス部屋に逃げ込んだ。

 男も友紀を捕えようとガラス部屋に入った。

 ガラス部屋では、天井裏からガラス部屋に入った敵の男が、装置を取り出そうと苦戦していた。

 男が友紀に気付いた。


 「こいつはプロフェッサーイトウの孫娘だ、きっと何かに役立つ。捕まえろ!」


 2人の男が友紀にじりじりと近づいた。


 「やだ、どうしよう」


 友紀が逃げ場を探そうと背を向けた時、後で男がうめいた。


 「よくも斉藤さんを! 斉藤さんの仇!」


 友紀が振り返ると、薫が床に落ちていた点検口のアルミ製の(フタ)を振り上げ、男を殴り倒していた。

 すると今度は千佳が蓋を拾い上げ、プロレス技のジャイアントスイングさながら蓋を振り回したかと思うと、もう1人の男に向かって投げつけた。

 蓋は見事に命中し、男は痛そうに床に膝を落とした。


 「やったあ! 2人をやっつけたわ」


 友紀が声を上げたと同時に、福山さんと職員がガラス部屋に、敵2人を引き連れて入って来た。

 ガラス部屋に4人の敵が入った。

 しかし、ピーターともう1人がいない。


 「みんな!外に出て!」


 母がそう叫び、千佳達は慌ててガラス部屋から飛び出した。

 続いて母と福山さん、職員が飛び出すと、職員は外からドアに電子ロックをかけ、何かのボタンを押した。

 すると、ガラス部屋の室内に防火シャッターのようなものが、天井からガラガラと()りてきた。

 今度は、天井中央から、天井と壁にそって、するすると銀色のステンレス製のような板が現れ、ガラス以外室内は一面、銀板ぎんばんで覆われた。


 みるみるうちに、白かった天井と壁が銀色に変わった。

 ガラス部屋に閉じ込められた敵が、何事かと見回していると、銀色の壁からシューっと白い気体が立ち込めた。

 男達が次々に床に崩れ、インカムから黒田総裁の声がした。


 「催眠ガスだ。ご苦労だった。1階も密閉しガスを流した。車内の3人ももうすぐ眠りに落ちるだろう。ピーターは7階、もう1人は職員が追っている。この2人を捕えれば終わりだ」


 ふいに友紀が言った。


 「ねえ、ガラス部屋の敵は4人のはずよね。6人も倒れてる」


 薫はガラス部屋の中を覗き込んでみた。


「あれ? 本当だ。服装から職員に見えるけど……?」


 母が言った。


 「麻紀は無事出そうよ! 本部から連絡があったわ。 上手くいってよかったわ!」


 「本当ですか! よかったあ!」


 千佳がふうと息を吐きながら言い、薫と友紀もほっと胸を撫で下ろした」


 「由美さん、見て。ガラス部屋に敵4人のはずが6人も倒れてる」


 「ああ。あの2人は職員よ。部屋から出遅れたから敵と一緒に眠らせたの。私もよくああやって敵と一緒に回収されたもんよ。下手すればあなたたちも一緒に眠らされてたところね」


 薫は目を丸くし、友紀と千佳は身震いした。

余談


全部分ではありませんが、作中にアガサ・クリスティの著作名が紛れ込んでいます。

著書名がある部分にはあとがきで説明を加えています。

杉の柩など、クリスティ・ファンの方には聞いたことのある表現が隠されています。

小学校高学年からでも楽しめる作品です。


児童書で、はやみねかおるさんの名探偵夢水清志郎事件ノート (講談社青い鳥文庫)があります。

このシリーズは楽しいオマージュが多く、小学生から大人の方まで、大変おすすめの作品です。

作品の中に【機巧館のかぞえ唄 】という作品がありますが、こちらは竹本健治さんの『匣の中の失楽』のオマージュです。

それから【そして五人がいなくなる】という作品もありますが、こちらはアガサ・クリスティーの代表作『そして誰もいなくなった』のオマージュです。


夢水清志郎シリーズでは楽しいオマージュが多く、私はこの作品に夢中になりました。

そしてこの作品をきっかけに、元となる作品に興味を持ち、アガサ・クリスティ他いろいろな推理小説を読むようになりました。

推理小説に興味のある方にお勧めの作品です。


「私はアイテム」を読んで下さりありがとうございます。

今後ともよろしくお願い致します。

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