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私はアイテム  作者: 月井じゅん
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53.麻紀のピンチ

登場人物


伊藤麻紀……主人公。大学1年生。法学部

清水千佳……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。リーダー的存在で少し太り気味

菊池友紀……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。科学好きで、今時の娘という感じ

志藤 薫……学生寮で麻紀と同じ部屋に住む。整った美人だが、男っぽい性格

福山…………由美の同僚

伊藤由美……麻紀の母親。UGC職員

伊藤節子……麻紀の祖母。実はUGCの職員で時々スパイもする

伊藤史子……麻紀の叔母。孝之の妹

斉藤さん……トラ。伊藤家のペット

ちーちゃん……猫。伊藤家のペット

 「敵はあと残り2人か。そういえば、誰も第九で眠らなかったから、アイテムはピーターだけだったみたい」


 友紀がそう言うと、職員の声がインカムから聞こえた。


 「史子さんが追っている敵の確保は時間の問題です。しかしピーターには苦戦しています」


 加えて職員が気まずそうに言った。


 「それから悪い知らせが。残り1台、8人を乗せた敵の車が侵入、敷地内を走行中です。敵はピーターら含め合計10名です」


 「また10人? 振り出しに戻ったって訳?」


 友紀ががっくりと肩を落として言い、職員が続けて報告した。


 「敵の車にピーターが合流、職員を蹴散らしながらロータリーを暴走中です。滴の車は防弾など特殊に加工されています」


 腕時計型通信機に、暴走する車の様子が映し出された。

 空から捉えた映像に切り替わると、どこから現れたのか分からないが、大勢の盾を持った職員や車、ドローンが、スピード全開で走るピーターの車を阻止しようと追っている様子が見えた。

 玄関が目の前だというのに車のスピードは衰えない。

 阻止しようとする職員を跳ね飛ばし、車はものすごい音を立てて、半壊状態の玄関を突き破った。

 腕時計の画面が建物内に切り替わると、車が建物内を暴走している様子が映し出された。


 「嘘でしょ!」


 千佳が叫んだ。

 車は階段近くで停車すると、車内に3人を残し、ピーターを含む6人が階段を駆け上り始めた。


 「車に残った3人はどうする訳?」


 通信機を見ながら千佳がそう言った直後、3人が乗った車は、ピーター達を追いかけるように階段を登ろうとして途中で停車した。

 福山さんが言った。


 「階段を塞ぐつもりだ!」


 車内には運転手が1人と、後部座席に2人が残っている。


 「ねえ! 見て! 後部座席の2人、眠ってるんじゃない?」


 言われてみれば、後ろ2人の体が少し傾いている。


 「後部座席の2人はアイテムなのね。第九で眠ったんだわ!」


 母がそう言うと、職員が言った。


 「車には爆弾が仕込んであるようです。運転手がスイッチを持って見せています。いざとなったら車もろとも吹っ飛ぶつもりでしょう」


 続けて、別の職員の落ち着いた声が、インカムから聞こえた。


 「確保した敵ですが、全員、小型カメラを装着していました。これまでの様子は小型カメラを通じて誰かに見られていたようです。敵は装置が8階にある事を把握している模様です。ピーターら5人はまっすくガラス部屋に向かい、1人が別の方向へ向かっています。おそらく天井の点検口からガラス部屋へ侵入するつもりです」


 更に報告は続いた。


 「先ほど史子さんが敵1人確保し、そちらに応援に向かいました。敵は車に3人、そちらに6人が向かい、合計9人です」


 私はかなり疲労感を感じ始め少し不安になっていた。

 もしもの時、私は逃げ切れるだろうか。


 「君達は敵をガラス部屋に誘い込め。一網打尽にする」


 福山さんの指示に、私は戸惑い、言った。


 「ええ? そんなことしたら装置が」


 「大丈夫だ」


 私は天井裏の音に気が付いた。


 「天井裏の敵が近づいている、もうそこまで来てる!」


 「本部、天井裏は確認できるか?」


 福山さんが訊ねた。


 「残念ながら不可能です。麻紀さんの耳だけが頼りです」


 職員の応答直後、ガラス部屋の天井から1人の男が飛び降りた。


 「大変だ! ガラス部屋に敵が! 装置が!」


 友紀が叫んだ。

 男はさっそく金庫を開けようとしている。

 しかし金庫の鍵は、さっき誰にも気付かれないよう、私が斉藤さんの首輪からそっと外た。

 鍵は私のポケットの中だ。


 「ピーター達5人が8階に到着しました」


 職員全員が盾を構えた。

 敵がすんなりここに到着したところを見ると、各階に職員はいない。

 わざとここに敵を誘き寄せているようにも感じる……。

 とにかく、指示では敵をガラス部屋に誘い込めとの事だ。

 UGC本部に何か考えがあるのだろう。

 指示通りにやるしかない!



 5人の敵が通路に姿を現し、同時に何かをこちらに転がした。

 職員達が盾を構えて並び、私も職員の後ろに隠れた。

 何かがプシューっと音を立てて煙を吐き出し、母は私と薫を、また、あのガラス部屋横の通路に突き飛ばした。

 私と薫は床に倒れ込み、薫は倒れた勢いでテイザー銃を床に落とした。

 千佳と友紀は煙を吸わないように手で口を覆いながら、守るように私の前に立ちはだかった。


 「催涙ガスだ!」


 職員がそう叫ぶと、数人の職員が苦しみ出し、顔を覆ってうずくまった。

 かすかに私も目に痛みを感じ咳き込んだ。

 しかしみるみるうちに煙は天井に吸い込まれ、壁からは中和剤だろうか、何かが噴出すると目の痛みが消えた。


 安心したのも束の間、敵1人が銃を放ち、もう1人が再び棒の様な物を投げ込んだ。

 福山さんと職員が防弾盾を構えたまま後ろに退くと、投げ込まれた棒から濃い赤い煙が勢いよく吹き出し、辺り一面、真っ赤に染まった。

 天井の換気が追いつかない量の真っ赤な煙で、毒ではなさそうだが辺りは何も見えなくなった。

 その間、ガラス張りの保管室だけがクリアな空間になっていて、ガラス部屋の中では敵が1人、スマホで何か話しながら装置を取り出そうと悪戦苦闘しているのが見えた。

 私達の視界を遮り、敵は時間稼ぎをしているのだろうか。


 職員達が大声で、お互い何か指示を出したり確認しながら、視界が戻るのを待っている中、私はラジコンカーのような音がこちらに近づいてくる音に気付いた。

 それに、敵が私達のいる位置から離れて行く足音が聞こえた。

 敵の足音が遠ざかっていく。


 きっと誰も気付いていない。


 私には敵とラジコンカーの場所が音で分かる。

 私は薫が落としたテイザー銃を手探りで拾い上げると、恐る恐る音のする方に進んでみた。

 煙で何も見えないが、耳を頼りにラジコンカーに近づき、すばやく手に取ってラジコンカーを顔に近づけて見た。


 「ひっ!」


 プラスチック爆弾だろうか。

 白くて四角いものがくっついている。

 視界が開けたら遠隔操作で私達を吹き飛ばすつもりか、ガラス部屋のガラスを破壊する気か……。

 この手の物は遠隔操作で爆発し、落としたり衝撃を与えても爆発しないと聞く。


 私はとっさにラジコンカーを掴むと、敵がどこにいるのが音で探りながら急ぎ走り、敵の方へ思い切り投げてみた。

 ラジコンカーが敵の頭上を越えて固い床に落ちる音が聞こえた。

 階段が近くにあったらしく、ラジコンカーはそのまま階段を転がり落ちていった。

 職員の怒号とバタバタという足音に交じり、敵の足音も階段を下りていくのが分かった。

 ラジコンカーの落下音と敵の足音を頼りに、敵のあとを追ってみると、私の目前に敵が1人いることに気が付いた。

 私はとっさにテイザー銃を向けて撃ってみた。


 「うっ」


 男がうめくような声を発し、その場に倒れたのが分かった。

 しかしその瞬間、真っ赤な煙がみるみる天井に吸い込まれ、私は敵と鉢合わとなった。

 目の前には男が倒れていて、その先に見える階段にピーターら敵の上半身が見えた。


 敵は驚いた様子を見せた。

 そして、階段下に引っくり返って落ちているラジコンカー、倒れている男、そして恐怖に固まる私とテイザー銃を見て、事態を察した。

 きっと敵は階段に非難して、起爆装置のスイッチを入れるつもりだったのだ。

 敵が爆弾を回収すると私を睨みつけた。


 私は体の異変を感じ始めていた。

 耳を使ったせいか、指にも力が入らずテイザー銃を床に落としてしまった。

 もはや立っているのも精いっぱいだった。


 「麻紀!」


 母が叫び、その名を聞いた敵が私に近づき、にやりと笑った。


 「教授の孫娘か。それにおまえ、金庫の鍵を持っているな」


 鍵の事がバレていた。

 きっと祖母と母と職員が倒した敵が装着していた小型カメラで撮られていたに違いない。

 私は2人の男に腕を掴まれ、そのまま引きずられるように、階段上にるピーターのそばまで連れていかれた。


 「キャー! 麻紀!」


 千佳が叫び、母も福山さんも職員も手が出せず凍りついたままだ。

 私がテイザー銃で撃った男がゆっくりと立ち上がり、私を睨んだ。

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