プロローグ
「乙女ゲームとは即ち、介護である」
私の持論だ。乙女ゲームの攻略対象たちは、顔の良い破綻者なのだ。健気に支えるヒロインは美しくも凛々しいが、精神的支柱として年端も行かない少女にもたれ掛かるのは人としてどうかと私は思う。
それに比べて、乙女ゲーヒロインの、人間力の高さといったらない。
受け入れる度量の広さ、照れたときの可愛らしさ、時に鈍感ゆえに繰り出される愛らしい言葉、嫌がらせや立ちはだかる壁も物ともしない精神力の高さ。
100点満点で表すなら100000点である。輪廻転生7周目なのではないだろうか。
私は、そんなヒロインたちを見るのが大好きだった。
でも、同時に苦しくもあった。
乙女ゲームのヒロインとはつまり、プレイヤーの分身である。
いくらデフォルト名がある個人として確立されていたとしても、立ち絵が用意されていたとしても、声優があてがわれていたとしても、彼女たちは動かされる立場なのだ。
「攻略したい……私は、ヒロインを攻略したいんだ……」
美しいスチル。
月夜に照らされてうっとりと見つめ合う男女は本当に美しい。でも、私の目が吸い寄せられるのは、画面の7割を占める攻略対象ではない。ほんの少し横顔が伺えるヒロインだ。
月に照らされた金糸のような髪の美しいこと。
乙女ゲームのヒロインはすごい。
一挙手一投足がすべて完璧に愛らしく、守りたい欲を刺激するかたまりで、それでいて芯が強く攻略対象の心を、時に運命を、変えて、守っていく。
「私は、この子を彼女にしたいんだ……」
トゥルーエンドで微笑む少女。文章にはなっているけれど、イラストで彼女一枚が抜かれることはない。
なんて不毛な片思いなのだろう。
「ファンディスクで攻略させてくれたりしないかな……、無理だよなぁ」
ばったん、とベッドに倒れて私は大の字の体制のまま目を閉じた。
片手に持ったゲーム機からは、エンディングの優しいワルツが、細々と流れ出していた。