95:敗戦国
4年前の外島との大戦は、王国軍の圧倒的勝利に終わった。それは英雄バディースの存在によるものも大きかったが、そもそも軍の規模が違うのだ。外島は正式には外島諸島といい、小さな島々の寄せ集めで出来た国だった。軍もそのまま寄せ集めのような代物で、傍から見ても王国と外島には明らかな武力差があった。
その外島がなんのためにまた軍を興したのか。敗北したことを理解出来ないのか?その点は見張りをしていた国境警備兵にも甚だ疑問だった。
沖に立つ灯台から船を目視した兵士は、陸で待つ仲間に合図し堤防から牽制砲を撃たせたが、侵入船は止まる様子も無い。その様子を確認すると兵士は城へ伝令の鳥を飛ばした。
『普通、敗北した後は頭下げて従うもんじゃねぇのか?』
『いや、あいつら諦めが悪いのさ。まぁ2回目も結果は変わらないだろ。』
兵士達は軽い調子で会話しながら次の手を打った。
戦争に負けた国にもう勝ち目は無い。前回の戦争で資源や人手も尽きている上、悪条件での貿易を続けているのだ。
『よっぽど頭が悪いのかね。』
兵士達がそう言うのも無理はなかった。
現に目のまえの船は小さく、戦力もたかが知れている。
海上の境界線を大きく超えて進む船の前にこれみよがしに楔を打ち込み、物理網を張ると侵入船はようやく進行を止めた。脅しの意味しか無い網だが、効果はあったようだ。
『やれやれ。』
年長の警備兵長は疲れたようにため息を付いたが、双眼鏡を除き込んでいた若い兵が慌てたように声を上げた。
『ギヌイ隊長!あれを。』
ギヌイが兵から双眼鏡を奪い覗き込むと、先頭の船の舳先に人が立っていた。
堂々とした体躯に、足首まで隠れる長さの白いローブ。
その人物は王国にも何度か出入りしたことのある男・・・外島の大使”カルマン”だった。
短く刈られた白髪を後ろに撫で付け、カルマンは風にローブをたなびかせ、笑っていた。
『何だあの男は・・・。』
警備兵長は、不気味なその男を見て、顔を引き攣らせ呟いた。
ーーー
侵入船が発見された翌朝。王国東にある港町リメーンでは、その日の朝もいつもと変わらぬ日常が始められようとしていた。港町の朝は早い。漁に出た漁師達は既に獲物を手に港へ向かい、市場の者たちがそろそろと集まり始めていた。
しかし日も昇りその日の競りが始まろうかという時、各所で警報が鳴り響いた。国王の指示により、王国軍の出撃が決まったのだ。人々は慌てて退避行動のためバタバタと片付けや移動を始めた。
ここ数年は平和だったが、また何か起きたということだろうか。買い物へ出ていた1人の少女は家へと道を急ぎながら船着き場の方を見た。
王国軍の船が何艘もそこに待機している。
ついこの間も海竜を倒す時に王国軍が出動していたが、あの時は町中が盛り上がった。
大きな竜が倒され運ばれて行ったのを、少女もその目で見た。自分とほとんど年の変わらない勇者が王国軍にいるのだという噂もその時に聞いた。
また、王国軍が来てくれる。大丈夫。王国軍は強いんだから。
小さく呟いて頷いた少女の頭上で、鳥の羽ばたく音が聞こえた。それも一羽ではない。複数の・・・そして日が翳ったように辺りが急に暗くなり、驚いて少女は上を見た。
そこには空を埋め尽くす程の数の魔鳥が飛んでいた。白くて大きなその魔鳥は、まるで平和の象徴のようにも見えた。
あれはもしかして・・魔鳥を操るという王国軍4番隊だろうか?
少女はドキドキする胸を押さえながら、鳥の姿を見る。
・・・でもちょっと待って?
王国軍なら、城の方向から来るはずではないだろうか。
少女は怪訝な顔で眉をひそめた。
あの鳥達は、海の方から来たように見えた。
まさか・・・?
少女は立ち止まり、もう一度魔鳥の姿を見ようと空を見上げた。
その瞳に、魔鳥から放たれた幾筋もの光線が見えたと同時に激しい音と地面からの土煙ですぐに視界は閉ざされ、町は悲鳴に包まれた。
『そんな・・・。』
少女は、恐怖で立ち上がれずその場に倒れ込んだ。その身にも容赦なく魔鳥の光線が降り注ぐ。
ー私、死ぬの・・・?
そして少女が目を瞑ったその瞬間、ドサッと重いものが近くに落ちた音がした。
恐る恐る目を開けた少女の目に、白い服を来てこちらに背を向けた小さな人の死体が見える。
『ヒィ!!!』
少女は咄嗟に後ずさりしてその死体から離れた。
『どういうことだよ。』
呟いたのは、少女ではなかった。少女は驚いてまた声がした方を振り返った。
そこで不機嫌そうに死体を見下ろしていたのは、王国軍の防具に身を包んだ、少女と同じくらいの年齢の”少年兵士”だった。
どうでも良いことを書きますが、最近、布団の魔力が凄い。
凄く強い。
おかげで更に更新遅れ気味です。。すみません。