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9:大きな樹

 メルルを掴んでいたものは、曲がりくねった樹の枝だった。先ほどまで目の前にあった大きな樹がまるで生き物のようにその口を開け、枝を振り回し叫ぶ。


 ギィアーーー。


その枝は鞭のようにしなり、枝が横切る度周囲には風が巻き起こる。


 勇生(ユウキ)は左腕で顔を覆いながら右手にナイフを握りしめた。何だコイツは。コレが魔物か。ナイフを握りながらもその手には汗が滲み震え、足は竦んで一歩も動けない。

 メルルはというと何とか意識は保っていたが目は回り血が下がり、顔面蒼白で勇生(ユウキ)を見ていた。その手は枝を握っているものの力無く、振り回される度人形のようになっていく。

 魔物ートレントは、怒りのままその腕を振り、地面を揺らし、自分の領域に立ち入った愚か者の姿を確認した。目は無いが、エネルギーを感じ位置や動きを把握することができる。


 愚か者の内1人は手中にあった。弱く、何の力も感じられない。このまま取り込み、また自分の糧としよう。トレントはほくそ笑み、その(くち)を大きく歪ませる。

 もう1人ー。その姿を追ってトレントは周囲に枝を伸ばす。先ほど、すぐ近くで怯えているのを感じた。逃がさない。目の前に居たはずである。


ー‥いた。


トレントはそのエネルギーを捉え、全ての枝を止めた。


勇生(ユウキ)は、静かにそこに立っていた。


目を閉じ、やはり腕で顔を覆っているがナイフを握る手に震えはもう無い。

メルルはぐったりしながらも薄目を開け、動きの止まった枝をもう1度掴んだ。


勇生(ユウキ)の中では恐怖と別の感情が湧いてきていた。それは、今まで長い間、蓄積されてきた途方も無い量の「怒り」だった。

洞の中の骨。ボロボロのノート。あんなものだけを残して死ぬのか。得体の知れないものに殺されて。こんなところまで来て。

ぐったりしているメルルを見ると余計に怒りは増した。


 勇生(ユウキ)はメルルに向かって叫んだ。


 『ー逃げろ!!!!』

 

 メルルは声に驚き手に力を込めたが、抜け出せない。勇生(ユウキ)はそれをチラリと見ると、覚悟を決めたように地面を蹴って目の前の樹に飛びかかった。トレントは体を揺らし勇生(ユウキ)を振り落とそうとするが、勇生(ユウキ)は怒りをぶつけるかのように渾身の力でその太い幹にナイフを突き立てる。


樹には小さすぎる刃だった。


しかしその反撃にトレントは怒り狂った。再び枝を振り上げ少女を地面に叩きつけようとした瞬間、勇生(ユウキ)の手に握られたナイフが眩い閃光を放ち轟音が轟いた。


 勇生(ユウキ)は思わずその手を離し、メルルは枝から振り落とされた。


 2人が呆気にとられる中、樹ートレントは大きく裂け燃え上がり、その断末魔が森に響き渡っていた。


 尻もちをついた勇生(ユウキ)と、手を付いて起き上がったメルルはまた顔を見合わせ、樹を見た。


 『す‥、すごいね。』


先に喋ったのはメルルだった。勇生(ユウキ)は気の抜けたような顔をしてメルルを見る。


燃え続けるトレントの叫び声が森にこだまし、その声が徐々に小さくなったのを見届けたかのように、どこかで口笛のような音と鳥の羽ばたきが聞こえる。


その場にいた4人(・・)の中で、その様子がはっきり見えていたのは1人だけだった。


その1人は興味深そうに小さく呟きその場を去る。


 『”雷”属性かー。』


後に残された勇生(ユウキ)とメルルは樹が燃え続けるのを眺め・・、


 『あ、コレ‥』


そう言ってメルルは持っていた魚を急いで火にくべた。勇生(ユウキ)は少し呆れたが目の前でパチパチと音を立て焼ける魚が、混乱から少し平静さを取り戻させる。


 『あ、腹、減ってる。』


勇生(ユウキ)は初めてそれに気づき、メルルはそれを聞いて、ようやく安心したように微笑んだ。





魚を焼けてよかった。本日もスマホから。

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