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88:洞窟

 

 アルマに言われるまま、2人は出掛ける準備をした。


・・・荷物は無い方がいい。持つなら濡れてもいいものを。とアルマが言うのでヨザは手ぶらで、ラウルは迷っていたが弓矢を置いて代わりに小さなナイフを持った。準備を終え2人が階下に降りるとそこにはアルマが半袖短パンという軽装で待っていた。


 『おう。』


 『・・・お前さん、そんな装備でいいのかい?』


2人を見て軽く片手を挙げたアルマに思わずヨザが尋ねるとアルマは首をすくめ、行けばわかるさとドアに手を掛けた。


女将・・・アルマの母もラウルに何かあったのには気付いているようだった。何しろアルマが連れ帰った翌日から一歩も部屋を出なかったのだ、無理もない。

そのラウルを連れ出したとなると、怒りに火がつくのは容易に想像できた。アルマは母の気配が無いのを念入りに確認し隠すようにして2人を外に連れ出した。


 『よし、いいぞ走れ!』


初日に通ったのとは反対の方向へ出て小走りに通りを抜けたアルマは、しばらく2人が戸惑う程コソコソと物陰に隠れながら進んだ。


 『おい、どこに行く気だ?』

 『ねえ、アルマ?』


ラウルとヨザが交互に問い掛けるが、アルマは無視して宿屋の並ぶ道をじぐざぐに走りながら通り過ぎて行く。


 『やれやれ。』


ヨザはハァ、とため息をついて、その後ろをラウルが少し不安げに付いていく。


しばらく進むと宿屋も無くなり辺りには潮の匂いが漂い始めた。3人は町の西端まで辿り着いたのだ。そこから先は岸壁だった。


 『まさか釣りでもする気かぁ?』


ヨザが気の抜けた声を出すが、アルマは相変わらず黙々と崖の方に向かって歩いて行く。


 『わぁ・・・!』


アルマに付いて崖から下を見下ろしたラウルは思わず声を上げた。


眼下には、透き通る色の綺麗な海。青く輝く、途轍も無く広く大きな海があったのだ。


 『見て、ものすごい量の水が動いてる!』


初めて見る海に、ラウルは久しぶりに頬を上気させ興奮して波を指差した。ヨザはそれを見てうんうんと頷き、目を細める。


 『ここで驚くのはまだ早い。』


アルマは得意げな顔で2人を見ると、岩の僅かな凹凸を足掛かりに崖を降り始め、付いてくるように言った。


 『うへぇ。俺は無理だ。先に行っててくれ。』


ヨザが下を覗き込み口をへの字に曲げるが、促されたラウルは口を尖らせヨザを見る。


 『自分だけ飛んで行く気だ。』


そう言うとヨザは気まずそうに笑い、坊や(ラウル)も乗りな、と呟いてまた鳥の姿になった。


2人がそうしている間にもアルマはどんどんと崖を降りて行く。


怖くないのだろうか?


ヨザはラウルを乗せフワリと宙へ舞うと、優雅に羽ばたき海の上へと飛んだ。


 『うわぁー・・・!』


ラウルはヨザの背から海を見下ろし歓声を上げる。


キラキラと日の光を反射し、(まばゆ)い海を見ていると旅に出て初めて知った嫌な感情を少しの間忘れることが出来た。


 『こっちだ!!』


声の方を見ると、アルマは海面近くの岸壁に開いた、大きな洞窟の縁に立っていた。ヨザは一度羽ばたくと目標を定め、一直線にその洞窟へと飛び込んでいく。


暗いが、魔物の気配は無い。ヨザは洞窟の中に静かに着地すると周囲に気を張り巡らせ、安全を確信するとホッとしたようにラウルを降ろした。


 『ここに居た魔物は前、来たときに全部倒した。安心して付いてこい。』


アルマは、恐る恐る歩くラウルに自慢げに言って洞窟の奥へと進む。


・・・兄ちゃん(アルマ)も、やるなぁ。


ヨザは呟きながら洞窟の壁をキョロキョロと見回す。海水は足元を浸す程度にしか入って来ていないが、壁の上の方まで貝がびっしりと付き、潮の跡もある。


・・・塩が満ちればここは海の中か。


ヨザはまた口をへの字に曲げ、黙って歩いた。前を行くアルマはよく知った場所を行くように迷い無く洞窟の中を進んで行く。


洞窟の中には起伏があり、上がったり下がったりしながらクネクネと曲がり、ヨザが音を上げそうになったところでようやくアルマは立ち止まった。


 『・・・ここだ。』


 『・・・ここ?』


ラウルはアルマの足元を見た。そこには穴のように見える深い潮溜まりがあった。


 『何か良い魚でもいるのかい?』


ヨザが少し興味深そうにその暗い底を覗き込む。


 『ふふ。』


アルマは意味深な笑みを浮かべ、そこでいきなり準備運動を始めた。


 『・・え?魔物が出るわけじゃないよね?』


ラウルは戸惑ったようにアルマに問い掛ける。


アルマはそこで2人を振り返り、思い出したように尋ねた。


 『あんた達・・泳げる(・・・)よな?』


ヨザとラウルはぽかんとして顔を見合わせ、頷く。


 『泳げるってまさか・・・。』


ヨザの不安げな言葉を最後まで聞かず、準備運動を終えたアルマは深い水の底へ飛び込んだ。


 『わ、嘘、本気だ。』


ラウルも驚いたようにヨザを見るが、水から顔を出しアルマが呼ぶと直ぐに真似をして水へ飛び込んだ。


 『わー!冷たい!』


ラウルの無邪気な声にヨザはため息を付きながらソロソロと足を水に付ける。


 『おぉ冷たい。』


全く・・年寄りを死なす気か?とぼやきながらもヨザは慎重に水の中へ体を沈めた。


アルマは水の中をぐんぐんと潜り、横穴が開いているところまで行って止まるとジェスチャーで2人にその中を指し示す。


穴からは光の筋が漏れている。


どこかに通じているのだろうか?


ラウルとヨザはアルマの後を追うようにその横穴へと入る。狭い横穴は思ったよりも長く、人間の体になったせいか息が苦しくなってきたラウルは急いで足を動かし前へ進む。


ー駄目だ。もたない。


ラウルは苦しい表情で何とかアルマに追いつこうと体を動かした。


苦しい。早く地上へ。


ラウルはアルマに追い付き、急いでその肩を叩いた。


焦った顔のラウルを見て、アルマは上の方を指差す。


ラウルが上を見上げると、その上は一面真っ青だった。


 『わぁ。』


水中であることも忘れ、思わず口を開きゴボゴボと泡を吐いたラウルはその光景に目を奪われた。


一面の青。見たことの無い美しい青だ。


地上から差す日の光が、水の中で青い光となって降り注ぐ。地上から見た海の色とも違うその色に、横穴からようやく出てきたヨザも感心したように見とれている。


・・・何て綺麗なんだろう。


 『あ、やばい。』


ラウルがまたゴボゴボと泡を吐き出し、水面へ上昇して行くのを慌ててアルマとヨザが追いかける。


水面から何とか自力で顔を出したラウルは、ぐるりとその周りを見て驚いたように声を上げた。




 『アレ?ここは・・・。』


ヨザとアルマもすぐ隣から顔を出した。


 『何だ、知ってるのか?』


ヨザがひと息ついてラウルに尋ねる。


 『うん。』


ラウルは返事をして、まだ信じられないように周りを見渡した。




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