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80:ラウルの弓

 砂漠の夜は、想像以上に恐ろしかった。森の中で多くの魔物と対峙してきたラウルですら思わず飛び起きる程不気味な魔獣の声が迫ったかと思えば、強風がテントを剥がすように激しく吹き荒れ、それがようやく止むとヒタヒタと深い闇の気配が辺りに満ちる。


セロが容易してくれたハンモックに横たわったラウルは結局全然眠れず、ようやくウトウトしていた朝方に立てかけた弓が動かされた気配でバッと跳ね起きた。


 『触らないで!!』


鋭く叫ぶラウルの右手は弓を持ったその人物に向かって正確に狙いを定める。


声に驚いたその人物ー・・・セロは、ピタリと動きを止めてラウル、そして同時に起き上がったヨザを見た。


ラウルは昼間見せていたあどけない表情と打って変わって、睨むようにしてセロをジロリと見る。ヨザも年齢を感じさせない機敏な動きでハンモックから降り身構えている。


 『・・・大丈夫だ、そんなに気を張らなくても。』


セロはため息を付きながら体の力を抜き、ラウルを真っ直ぐ見返してそう言ったがラウルはセロを見据えて動かない。


 『父さんの弓だから、離して。』


 『そうか、これはお前の父さんの弓か。』


セロは改めて手にした弓を眺め、寂しそうに呟いた。


 『弓が荒れてる。・・・こんなに良い弓なのに。』


繰り返し強い口調で弓を返してと言うラウルに、セロは首を振り優しく断る。


 『安心しろ。お前に合わせて(・・・・)やろうと思っただけだ。』


 『合わせる?』


面食らったように声を上げたラウルにセロは弓を撫でながら丁寧に説明した。バディスの弓はラウルには長すぎる。今みたいに弦を縮めるだけだと弓に負担がかかるから、どちらも調整(・・)するんだ、と。


 『そんなこと・・出来るの?』


ラウルは驚いたようにセロに尋ねた。その声にはもう疑念の色は無い。


 『今は砂漠で暮らしてるが、俺は弓師だからな。』


セロはニヤリと笑って見せた。それを見たヨザもようやくホッとしたように肩を撫で下ろし驚かせるなよぉと呟いた。



ラウルはどうせ眠れないからと、夜中セロの手元を見ながらその手伝いをした。


セロの手付きは鮮やかで優しく、弓をヤスリで僅かに削っていくその最中すらも弓への愛がひしひしと伝わるようだった。


その手をじっと追いかけながら、ラウルは父の弓の握りが少しずつ細くなりその先端が少しずつ短くなっていくのを見た。


 『父さんの弓が・・・。』


ラウルが寂しそうに呟くと、セロは手を止めラウルの顔を真っ直ぐ見てその手に弓を握らせた。


 『今までは父ちゃんの弓だが、これからはお前の弓だ。』



ラウルは一瞬戸惑った顔を見せたが嬉しそうに頬を上気させ、元気に頷いた。



ーーー




 翌朝、少し小さくなったバディスの弓はピカピカに磨き上げられ、ラウルの手に見事に収まっていた。


 『本当に、本当にありがとう。』


深々と頭を下げるラウルに、セロは照れたように笑い、そのまま下を向き俯く。


 『もう帰っちゃうの?』


末っ子のリザがラウルに抱き付くと、双子のようなサモとモリンもラウルを取り囲む。


 『どうにも、他人に思えないんだよなぁ。』


セロが顔を上げ、寂しそうに呟く。その言葉にヨザもしげしげと4人を見て大きく頷いた。


 『長年生きてるがこんなこと、なかなかねぇよ。本当にお前達知り合いじゃねぇのか?』


抱きつかれ戸惑い顔のラウルは2人の会話を複雑な表情で聞いていたが、リザが泣き出すと思いきったように3兄弟を抱きしめた。


 『また、会いに来るからね。』


ラウルは涙声でそう告げ、名残惜しそうに3人と離れる。ヨザはぐいと鼻を擦るとセロを見た。


 『あんたの奥さんのこと、何かわかったら伝えに来るからな。』


 『あぁ、頼むよ。』


鳥の姿になったヨザの背にラウルが乗ると、ヨザは別れを告げるように大きく羽ばたき空へと飛び立つ。


小さくなっていく4人の姿を目に焼き付け、ラウルはヨザの背にしがみつくようにその背に顔を埋めた。




ーーー



 『海沿いってどこでもいいのかい?』


 空を優雅に飛びながら、ヨザは背中のラウルに次の行き先を尋ねた。砂漠を離れながら、ヨザは東へ向かって飛んでいた。全方位に海はあるが、知っている地域の方が危険が無い。


 『あの、確か・・・漁師の町って言ってたよね?セロが住んでた町。』


 『あ?あぁ、エレーヌと会った故郷か。』


ヨザは驚いたように答え、あぁそうかなるほどなるほど、と呟きながら少し北に向きを変えた。


 『じゃあ、漁師の町(タラス)に向かおう。』


ラウルはヨザの背中で少し体を起こし、こくりと頷いた。









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