78:散らかった部屋
コメントありがとうございます!!
相手を見て驚いているのは、ラウルとヨザだけではなかった。相手もまたラウルとヨザを見て驚いていたのだ。
『・・・下げろ。』
並んだ男女の中で1番年上に見える男性が他の3人に合図すると、3人はしぶしぶ弓を戻し、ゆっくりと腕を下に下ろした。
それを見たヨザはようやく安心したように、場違いな声を上げた。
『いやぁ、久々にびびったぜ。』
びびったどころか人に戻ったその腕からは血を流しているが、それも構わずヨザは陽気に笑った。
『お前達、親戚か何かか?』
ヨザがラウルを振り返り、腕を押さえながら尋ねる。
・・・親戚がいるなんて、聞いたことがない。
ラウルは怪訝な顔のまま、一歩前に出た。しかしヨザがそう尋ねたのもわかるほど、その4人とラウルの顔は酷似していた。
『初めまして・・・、だよね?』
恐る恐る尋ねたのは1番ラウルと歳の近そうな女の子だった。
尖った耳に、背中までの金髪。整った顔立ちまでがそっくりだ。違う点は瞳の色が黄色いことくらいだった。
『え?そうだよね?』
ラウルも珍しく自信が無さそうに質問を返す。
瞳の色は、女の子と、1番歳上に見える男性が黄色で後の2人はラウルと同じ碧色の瞳だった。
身長がわずかに違うだけで、真ん中の2人とラウルはもはや三つ子と言ってもいいくらいだ。
『ううむ。他人とは思えんなぁ。』
歳上といっても、20歳前後に見える男性が顎を擦りながらラウルを見る。
男性は名をセロと名乗った。話す内に他の3人は男性の子で、セロの年齢は30を超えていると判明した。集落のように点在しているテントは全て倉庫で、ここには4人しか住んでいない、とセロは言った。
『いやそれにしても、エルフってのは、やっぱり皆こんな顔してんじゃねえか。』
ヨザが安心したようにラウルの背中を叩き、ラウルも半信半疑でその言葉に頷く。
『まぁ、砂漠は日も短いからよ。これも縁だし今夜は泊まって行きな。』
セロも話している内に警戒を解いたのか、ヨザとラウルを1番広い中央テントの中へと招いた。
『あ、ありがとう。』
ペコリと小さく頭を下げ、ラウルとヨザはそのテントの幕をくぐった。
テントの中は思ったよりも広く、ラウルは不思議そうにその中を見回す。
中には雑然とものが置かれていて、端の方に水の入った瓶や煮炊き用と思われる鍋、食器などが並び、奥には寝床のハンモックが4つ仲良く並んでいる。
・・・奇妙な感覚だ。
ラウルは無遠慮にジロジロと部屋の中を見て、黙って首を傾げた。
何故かわからないが、既視感を覚えるのだ。
『似てる・・・?』
ラウルのひとり言に、ヨザがどう見てもめちゃくちゃ似てるぞ。と反応したがラウルは首を振った。
『違うよ、森の中の”家”に似てるんだ。』
ラウルの感じた既視感は、物の並べ方、散らかり方。そんな微妙な感覚の懐かしさだった。
『エルフって、みんなこうなの?』
ラウルは両親以外の同族に会うのも初めてだったのだ。
『そんなこたぁないだろ。ウチは”母ちゃん”がこんな感じにしてたからさ。』
セロはラウルの言葉に苦笑いして答えた。
『そういえば、奥さんは?』
ヨザが初めて気づいたようにセロに尋ねる。寝床は4つしか無いのだ。
『・・・母ちゃんは、出ていった。』
長男だというルキが怒ったように答え、ヨザは慌てて謝った。
『悪かったな兄ちゃん。そんなこととは知らねぇで。』
『いいんだ、もともとフラフラ旅してる女でよ。』
ルキの代わりにセロが気にしないでくれ、と手を振り言う。そのセロを穴が開くほど見つめながら、ラウルは恐る恐るその質問を口にした。
『あの・・・その、奥さんの名前って?』
セロは何でそんなことを?と驚きながらラウルを見たが、すぐにまぁいいか、と呟きガサガサと雑多な物の中に手を突っ込むと、古い木の箱から絵を取り出して自慢げに2人に見せた。
『綺麗だろ?』
絵を見せながら照れたように笑うセロはまるで青年のようだった。セロは驚いているヨザとラウルに満足そうにしながら、愛おしそうにその絵を掲げる。
『これが俺の奥さん。』
『もう10年も帰ってないが・・・名前は、”エレーヌ”っていうんだ。』
そう言うとセロは悲しげにグス、と鼻を啜った。
少し遅くなりましたが更新です。