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76:勇者と囚人

 暗い廊下に、カツカツと固い靴底が床を叩く音が響く。城の地下には、囚人を入れるための牢屋が存在していた。テサと勇生は城の地下へ続く長い階段を下り、檻で塞がれた牢屋を一つ一つ見ながら歩いていた。時折話しかけてくる囚人がいるがテサは無言で、勇生もまるで聞こえていないかのように無視して通り過ぎる。


あの碧の島(グリーンアイランド)での戦いの後、桜良は解毒剤を投与され牢屋に入れられた。何のために生かすのか?決して償わせるためでは無い。テサは横を歩く勇生を見ながら黙って考えていた。あの国王のことだ。見せしめのために捕らえさせたに決まっている。生きたまま、火あぶりや車裂きの刑もあり得る。今回は民の敵でもあるのだ。大々的に処刑をやる可能性が高い。


王国の敵を苦しませ、王の権威を思い知らせる必要があるのだ。


勇生は何を考えているのか、戦いが終わった後も女王に会わせろといって聞かなかった。


勇生(こいつ)は”女王”を知っているのか?

どうもそのような(ふし)があるのだ。

果たして、連れて来てよかったのだろうか。


自問するテサは最奥の牢の前で立ち止まり、その中にいる人物を見た。


顔を隠すように長い髪を下ろし、脱力し壁にもたれているその人を。


靴の足音にも顔を上げない桜良を見て、勇生はテサの方を向いた。


 『ごめん。ちょっと離れててくれると嬉しい。』


勇生にしては丁寧な頼み方だ。

テサは(しば)し考え”何か”あっても対処出来るよう、数歩だけ廊下を戻ってそこに立つ。


勇生は檻の外から桜良を睨むようにじっと見ていた。


桜良は勇生の声に気付いていたが、牢屋の端で俯いたままピクリとも動かない。


 『・・・マリオンの、目が見えなくなった。』


ようやく震える声で勇生が口にしたのは、1番隊で仲の良かったマリオンのことだった。桜良の前に立ちはだかってくれたマリオンが、桜良の毒を受け失明したのだ。


何度も見舞いに行った。メルルもどこからか薬草を採って来ては、オリジナルの呪文を唱え回復を試みたようだったが効かなかった。王国の回復術すら効かなったのだ、それも当たり前かもしれない。マリオンはそれでも陽気に話してくれたが、罪悪感は(つの)る一方だった。


 『見舞い金に保障金。これから戦わなくても暮らしていけるぜ。』


マリオンが言っていたそれは事実かもしれない。でも視力を奪ったのは桜良だ。マリオンだけではない。クシドは死んだ。衛兵達も沢山。そして碧の島(グリーンアイランド)での戦死者は、ヴォロスの”血の雨(ブラッディレイン)”により体を潰され壊された。屈強な身体を持っていたダリウスすらも例外ではなかった。


勇生は黙って桜良を見る。


桜良は薄い灰色の囚人服を着せられていた。


何故。どうして。勇生は何日も考え続けたが、その答えはわからなかった。


 『何で。』


だから聞くしかなかった。


 『何であんなことするんだよ。』


桜良は何も答えない。

―無視しているつもりか。他人のフリか?

勇生は僅かに苛立ち、言葉を続ける。


 『アンタ、どこまで来ても引き籠ってんな。』


その言葉に初めて桜良はビクッと反応した。その反応で、やっぱり桜良本人なのだと確信し勇生は追い打ちをかける。


 『首謀者として女王(クイーン)処刑(・・)されるって。』


桜良は勇生の方を虚ろな目でチラリと見る。


ー生きているにしても、もはや死人同然だな。離れたところで桜良を見ているテサはその様子に小さく舌打ちした。せめてもっと憎らしい姿でいてくれないと勇生やメルルが同情し、おかしな行動に出るかもしれない。

何故だか2人が桜良を気にしているのには気づいていた。もしやこの女も異世界人か?


テサは勇生と桜良を見比べ、ため息を付く。

面倒なことにならなけりゃいいが・・・。



桜良は何も答えず、少しも動かない。勇生の存在が見えていないのかと思う程に無視を続ける。


 『おい!!アンタ、生きてんだろ?!』


終いにはテサの方が痺れを切らし、大股でツカツカと牢屋の前まで行くと檻を掴み桜良に向かって叫んだ。


 『言っとくけどな、面会なんてこれきりだ。あとは誰とも話せず死ぬだけなんだぞ!!』


思ってもいなかったことを叫んでしまい、テサは少し気まずい顔で勇生を見た。勇生はひと時も目を離さず桜良を見ている。やはり、何らかの知り合いなのだ。テサは眉間に皺を寄せその肩を掴んだ。


 『・・・もう終わりだ。行くぞ。』


勇生は黙って頷く。2人が牢屋の前を去ろうとした瞬間、桜良がようやくその口を開いた。


 『何でこんなこと、って?』


2人は桜良の声に驚き振り返る。・・・桜良は壁にもたれた姿勢のまま、じっと2人を見ていた。


 『知りたい?どうやったら処刑されるような人間になれるのか。』


勇生は何も言わず、以前よりも痩せた桜良を見た。

襟の開いた囚人服のせいで白い首に、消えかけた痣があるのが見える。その痣と重なるようにして六角形の(・・・・)傷があった。


 『・・・勇生(おまえ)には無理か。』


桜良は呟きながら、自分を唯一慕ってくれたマジョルドの姿を思い浮かべた。その記憶だけを大事にしよう。そう思っているのに集中出来ず、次の瞬間には生まれたばかりの勇生の顔が浮かんだ。


 『もういい、さっさと殺してくれ!!!』


桜良はその記憶を頭から消すように強く目を閉じ、大きく叫んだ。マジョルドのいないこの世界にもう用は無い。


その叫び声を後ろに聞きながら、勇生はテサに引っ張られるように牢屋を離れた。


テサは一言も喋らず、ずっと怒ったような顔をしていた。






―勇生とメルルはこの戦いで再び国王から名誉を与えられ、桜良は囚人となった。




急?かもしれませんが、ここで一旦この章終わります。

続きはまた次章で・・!(整理するので、数日空くかもしれません)


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