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72:悪魔誕生

 

 『あぁァァ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!!』


 桜良が倒れたと同時に、マジョルドが地の底まで響き渡る程の叫び声を上げた。苦しみと怒り、嘆きに満ちたその声はマジョルドの絶望の声、そしてその身に潜んだ悪魔の歓喜の雄叫びだった。


ダリウスはギョっとしたように身構え、目の前の男を見る。


先程まではただの男だった目の前の人物が、今まさに別の”何か”に取って代わろうとしていた。


ー桜良への好意はマジョルド自身の僅かに残った自我だった。マジョルドの目に、崩れるように膝を付く桜良が写ったと同時に、その動揺を見逃さなかった悪しき者ー”悪魔”に完全に意識を奪い取られたのである。


美しい桜良。禍々しい毒を持った桜良。自分を受け入れてくれた桜良があんなにも呆気なく倒れてしまった。


ひと目会った時から、心身全てを捧げようと決めた人だったのだ。


その人がいなくなってしまうという喪失感は、計り知れなかった。


桜良は麻痺させられたものの致死量の毒を受けてはいなかったが、マジョルドがそれを知る由もない。


今地に立つその者は、既にマジョルドではなかった。




ーーー




 『ダリウス!その男、悪魔(・・)術を使うやもしれんー。』


墜落により自身も大怪我を負ったセルビオがかろうじて戦場に着いた時には、ダリウスと男は激しい戦闘を繰り広げていた。


マジョルドが意識を手放すと同時に、彼の全身の筋肉は見る見る成長し元々長身だったその身体は体格の良いダリウスよりも大きくなっていた。

そして男の息をつかせぬ攻撃に、ダリウスはじりじりと押されていたのである。


 『熱拳(ヒートナックル)!!』


ダリウスは男の拳をほんの僅かな距離で(かわ)し、闘魂を込めた一撃を繰り出す。しかし男は超高温の拳をいとも簡単に受け流し、かすり傷すら負わない。


 『フフ。地獄の灼熱には及ばんな。』


男は余裕すら見せながらダリウスを翻弄する。


 『お前は何者だ・・・?』


ダリウスはセルビオの言葉を反芻(はんすう)しながら尋ねた。悪魔術を使うと言ったか?ならばこの男は滅びた(・・・)はずの悪魔族だというのか?いや信じ難い。


前に立つ男はその眼に歓びの色を浮かべながらダリウスを殴り、身体を地面に叩きつける。


 『そうだなぁ。せっかくこの世に戻れたんだ。有名になるのも悪くない。』


男は起き上がろうとしたダリウスの頭を鷲掴み横を向かせると、その耳に顔を近づけゆっくりと囁いた。


 『よく聞け。我が名はヴォロス。』

 『私の糧となることを喜ぶがいい。』


ヴォロスはそのままダリウスの頭を掴んで持ち上げ、その胸に片方の手を押し当てた。


 『捻じ曲げる真実(ディスタープ)』 


 『なっ・・・!』



セルビオは為す術無くその(・・)光景を見ていた。墜落時の衝撃を防ぐために魔力を放出しきっていたのだ。


突き出した手からは何の光も出ず、目の前でダリウスの胴がまるで雑巾を絞るようにぐるぐると捻じ曲がっていくのを見た。


 『ダリウス・・・!!』


セルビオは震える足でダリウスに駆け寄ると同時に、空に向かって合図した。


 『4番隊、集中砲撃!!!』


セルビオの合図と共に頭上を旋回していた魔鳥達がピタリと止まり、鳥に乗った隊員達がセルビオの示した”男”に狙いを定める。


 『おい止めろ!』


ゾンビと島民をかい(くぐ)りようやく辿り着いたテサの声はわずかに遅く、既に放たれた暗黒閃光(ブラックフラッシュ)が辺りを眩しく照らし出す。


上空から放たれた幾つもの暗黒閃光は、男に届く前に不自然に捻じ曲げられ勢いを増し四方に飛散した。


 『滝壁よ(ウォールフォール)!!!』


地上ではテサが咄嗟に作った巨大な水の壁により隊は被害を免れたが、その上空では惨劇が起こっていた。


ボトボトと落ちる魔鳥と隊員の姿に、セルビオは涙を堪えながら必死で走った。体のあちこちが痛むがそれどころではない。


 『そよ風よ(ブリーズ)!!!』


声のした方向を見ると、倒れた女王の前にしゃがみ込んだメルルがその手を突き出し隊員達の落下速度を弱めようとしていた。


セルビオはそれを見ながら歯を食い縛り、なおも走った。隊員達がやられたのは自分のせいだ。自分の判断ミスが惨劇を招いた。


しかし今は自分を責めている場合ではない。一人でも多くの隊員を救わなくては。


 『ウグッ!!!』


空から落下してきた隊員の一人を何とか身体で受け止め、セルビオは倒れた。落下速度が弱まっているとはいえ、その衝撃は激しい。ましてや怪我をしているセルビオの身体は引きちぎれそうだった。


ダリウスのように強靭な身体があれば・・。そんなことが頭をよぎるが、4番隊隊長はほかでもない、この私なのだ。セルビオはまた一人空から落ちて来る隊員の下に立ち大声を出しながらその身体を受け止めた。



ーーー



 暗黒閃光を受けずに済んだものの、只者では無い”男”の気配にテサは汗を滲ませながら隊の状況を見た。


標的であった女王は既にメルルの前に倒れている。その横に勇生。2番隊隊長のダリウスは倒れ4番隊は皆瀕死だ。


 『女王(クイーン)を獣車に乗せろ!』


テサはまず女王を捕らえることを優先した。側にいたメルルがその言葉にハッとして女王を見る。そして一瞬迷ったように勇生を見た後、慌てて女王を担ぎ上げた。


勇生は心ここにあらずという表情で脱力していたが、テサはその勇生を引き摺り起こし勢い良くビンタした。


 『しっかりしろ!!!』


一瞬で頬を腫らした勇生は驚いたようにテサの顔を見る。


 『戦場で休むな!この子供(ガキ)が!』


勇生はテサの怒号に我に返ったように立ち上がった。


ーそうだ。俺は何をしてた?


メルルに助けてもらったのに、危ないところを助けられなかった。


桜良がメルルの首を絞めていた光景を思い出し、勇生は悔しさで剣を握りしめる。


ー情けない。悔しい。何も出来なかった。


メルルがもしあの場で死んでいたらー?

勇生は想像しゾッとする。絶対に駄目だ。そんなことあってはならない。


余計なことに囚われるな。引き摺られるな。

今は戦いに集中しろ。


ブツブツと呟きながら立ち上がった勇生の表情を見てテサは黙って頷き、自分も剣を構えた。


勇生は全身から怒りを滲ませるようにそこに立っていた。


不甲斐ない自分への怒り。


変わらない桜良への怒り。


そして、目の前でダリウスを殺した”男”への怒り。


その怒りで溢れ出す魔力の量だけは、”男”にも引けを取らない。



 『行くぞ。』



テサは短く合図し、男に斬りかかった。



↓後書き

なかなか筆(指?)が進まず・・すみません。

2日空いた割にいつもと同じ文字数程度です(汗)

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