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71:眩しい人

 聞き慣れた声と同時に、立ちすくむ隊員達と”2人”の間に暴風が吹き荒れる。メルルの巻き起こした風は物凄い勢いで勇生諸共(もろとも)毒霧を吹き飛ばし、一瞬にして消え去った。


いつの間にか疾風(ゲイル)の威力が強くなっている。


吹き飛ばされた勇生は数十メートル離れた地面の上でぎこちなく起き上がり、驚いたようにその人物の名を呼んだ。



 『メルル・・・!!!??』


息を切らし、丸い盾を構えて敵の前に立ちはだかったその人は、随分久しぶりに見たメルルだった。


どうやら無事な勇生を見て、メルルは少しだけ申し訳無さそうに・・・マスクの下ではそんな顔をしている気がしたが、一瞬の間の後、ホッとした声で呟いた。


 『間に合った。』


 『あ・・・、ありがとう。』


勇生はようやく出るようになった声で、メルルに礼を言った。


そのすぐ向こう側では、桜良が怒りの形相を浮かべ今にも溢れんばかりの殺気を今度はメルルに向けている。


魂を込めた一撃を邪魔されたのだ。


しかも”この女”、見覚えがある。以前にもこうやって涼しい顔で私の邪魔をしたことがある・・・?


ーそうだ。城を出る時にも私の邪魔をした。


ーこれで2回目。



勇生に何事か呟く可愛らしい声。愛される為に生まれたようなその造作。風に揺れる柔らかな髪。兵士とは思えぬ小さく華奢な体。


その全てがまるで嘘のように、わざとらしく映る。


桜良は食い入るようにその眩しく清らかなメルルの姿を見て、そのメルルと言葉を交わす勇生の顔を見た。


 『フゥン・・・。』



その様子を見た桜良の顔はゆっくりと歪み、引き攣るように口角が持ち上げられる。


桜良は、笑っていた。



笑いながらその手をまた持ち上げ、指先でメルルを指すと、そのままピタリと止める。


 『待てぃ!!』


見るとやたら体格のいい男ーダリウスが、ようやく先頭に躍り出ようとしていた。その後方には、何十箇所も骨を折られ立ち上がることすら出来なくなった山積みの島民ゾンビの姿がある。


 『チッ。』


桜良が舌打ちするとすかさずマジョルドが前に出た。


 『女王(クイーン)。邪魔はさせません。』


 『何だ!おぬしは。』


ダリウスは足元に(うずくま)るマリオンを片腕で抱え軽々獣車へ放り投げると、立ちはだかるマジョルドを見て奇妙なものでも見るような顔をした。


獣車では隊員達が慌ててマリオンを受け止めている。


 『女王(クイーン)の敵に、話す価値は無い。』


マジョルドは冷めた表情でそう言うと衣装(スーツ)に不似合いな腰の剣を引き抜き、低く構えた。




ーーー



付近に墜落したセルビオは、傷だらけで横たわるセオの首筋を撫で、羽を慈しむように撫でながら納得がいかないように呟いた。


 『曲げられた・・?そんな馬鹿な。』


暗黒閃光(ブラックフラッシュ)を撃つ時、確かに女王を捉えていた。それが当たらなかったのは、何かに方向を逸らされたからだ。


女王は気付いていなかったはずだ。では隣の男かー?


セルビオは動かしていた手を止め、悔しさを滲ませたままセオの固く閉じた瞼を見る。


あの時、光線が逸らされたと同時に、セオの首が捻られたのだ。セオは即死だった。そんな芸当の出来るものがいるのか。


いるとすれば、恐らく人間ではない。死を(つかさど)る魔族くらいだろうか。


今や、子どもに聞かせる昔話でしか耳にしない存在となっている種族がまさかこんなところに?


まさか。しかし、この”異様な力”は。


セルビオは自問しながらセオの亡骸を静かに見つめる。


小さな雛の時から育てた愛鳥だったのだ。簡単に離れられない。ーしかし、このこと(・・・・)を知らせなければ。


セルビオが急いで”男女”の向かった方へ走っていくと、既にダリウスが”男”と戦っているのが見えた。


 『ダリウス、気をつけろ!』


セルビオは思念で叫ぶが、ダリウスは戦闘に夢中で聞こえていない。


その向こうでは、女王(クイーン)がメルルを追い詰めていた。


 『メルル・・・?!』


何故ここにメルルが?セルビオは驚く。女王の周りには何人もの隊員が重なり倒れている。


 『本当に、何て可愛いんだろう。』


桜良は微笑みを浮かべメルルに近付く。


女王が近付く度空気は重くなり、吸っても吸っても肺に酸素が入らない。メルルは立つのが精一杯で、呪文を唱えることすら出来なくなっていた。


 『いいよねえ。こんなに可愛くて。』


メルルは首を振るが、桜良は構わず続ける。


 『いいわねぇ。恋人なんて山程いるのかしら。』


メルルはもう一度、苦しそうに大きく首を振る。


 『でもさっき・・助けたよねぇ?』


桜良は地面に這いつくばっている勇生を見やり、キッとメルルを睨むとその細い首に手をかけ、マスクを剥ぎ取ってじろじろと顔を覗き込む。


 『アンタみたいなの、1番憎たらしい。』


それはほかでもない、強い嫉妬から出た言葉だった。


きっと誰からも愛される子。可愛くて明るくて正義の味方気取りで。


大嫌い。


だから桜良は勇生よりも先にメルルに手をかけた。


メルルは必死な様子で否定していたが、死にたくないから藻掻いているだけだと桜良は思った。この女はさぞかし人生楽しんだに違いないと。


足掻け。藻掻け。そしてゆっくり苦しんで死んでいけ。


桜良が毒を口に溜め、嫌々をするように首を振るメルルに吹きかけようとしたその時。

最後の力を振り絞るようにメルルが大きく身体を捻ったかと思うと、突如左腕の盾を振り上げ、桜良を弾くように押し返した。


 『・・・っ。』


脇腹を押さえた桜良が、驚いた顔でメルルを見ている。


 『だから、全然違う(・・)って言ってんのに!』


メルルはゼェゼェと肩で息をしながら、怒って桜良を見下ろした。


 『何が・・・?』


桜良は呟き、恐る恐る押さえた脇腹を見る。


その腹はメルルの盾に付けられた”海竜の爪”により深く切り裂かれていた。麻痺毒が身体に回り、じわじわと身体が動かせなくなっていく。


ーそんな馬鹿な。


桜良は信じられないように目の前のメルルを見るが、その視界は既にかすみ、ぼんやりとした輪郭しか見えない。


ーああ、嫌だ。


桜良はゆっくりと地面に倒れた。


悪役として殺られて終わりなんて。こんな絵に描いたような美少女に負けるなんて。


やっぱり、勇生(あいつ)がいた時点で、私の生まれ変わりは失敗していたんだろうか?


それは違うと、頭の隅ではわかっていた。

私が弱かっただけ。


目の前の美少女は、倒れた桜良に驚いた様子でわざとらしく慌てて盾を外す。



マジョルド。似合わない執事の格好なんて、させてごめん。


桜良は顔を動かしてマジョルドの姿を一目見ようとしたが、身体が地面に張り付いたように固まりそれすら叶わなかった。


その代わりに、驚いたようにこちらを見ている勇生の姿が目に入り桜良はまた苛立ちを覚えながら目を閉じたー。


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