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70:邂逅

 城から出て戦場へと向かうその2人に真っ先に気付いたのは、上空のセルビオだった。


正確には、セルビオの乗る魔鳥ー”セオ”がその気配にひどく怯え出したのだ。


首を捻り、王国へ帰ろうとするセオをなだめながらセルビオはその2人を見つけた。


馬に乗った男女が、真っ直ぐこちらに向かってきている。一見して戦闘員には見えないが投降者か・・・?


セルビオは目を細め、その方向に集中して2人を視た(・・)


男の方は、見たところ衣装が変わっている以外何も感じない。それが返って不気味だがその反面、女の方は分かりやすく身体中から殺気(・・)を醸していた。魔力も押さえているつもりかわからないが、下にいる島民達と比べ桁違いに強いことがわかる。


ー女だ。間違いない(・・・・・)。呟いたセルビオは、セオの手綱を引くと大きく息を吸い、全員に聞こえるように叫んだ。


 『マスクを着けろ!!』

 『やつ(・・)が出た!!!』


セルビオの言葉に隊員達が慌ててガスマスクを着ける。セルビオは叫ぶと同時に加速し、一気に高度を上げながら2人の上空へと飛んだ。


相手を射程圏内に入れるということは、相手からもそうなる可能性があるということだ。女王は毒を操るというが噴霧の距離は如何ほどか。

”セオ”にはマスクが無い。毒を吸えば危険だ。つまり射程距離の長い方もしくは先に仕掛けた方の勝ちとなる。


しかし空を制す私に勝機はある。


セルビオは視界に2人を捉えると迷わずその手を下に向け、相手に気付く隙も与えず呪文を唱えた。


 『暗黒閃光(ブラックフラッシュ)!!!』


 『ーあのバカ、突っ走りやがった。』


上空を一直線に飛んで行った一羽の影を目で追いながら、テサはチッと舌打ちした。


その後ろで慌てたようにメルルが獣車を降りている。


 『おいメルル!』


待てー・・とテサが引き止めるよりもわずかにメルルが速かった。


メルルは地面に降りると、隊の先頭に向かって走った。


ー間違いない。”あの”気配だ。


膨大な魔力。重くのしかかるような重圧。

勇生に近い(・・)誰かの気配。


今、その誰かが勇生を狙っている。


それがメルルにはわかったのだ。


勇生は隊の誰よりも前にいた。マスクを付けたところで何かの気配が急に近づいてくるのを感じ身構えたが、近くでセルビオの暗黒閃光(ブラックフラッシュ)が炸裂したせいで目が眩み何も見えなくなった。


おかしい。先程から動悸が止まらない。

今更怯える事など無いはずなのに。


勇生は火竜の剣を握りしめたがその手の平にも汗が滲んで、滑って上手く握れない。


女王はー?今のはどっちの攻撃だ?


目が見えない。何にしろ撃つ場所が悪い。

勇生はまだ瞼に残る閃光に毒づき、強く目を押さえた。クラクラして、気持ち悪い。


感じるんだ。気配(・・)を。


ー来た。やっぱりそうだ。そこにいる。

今、目の前にいる。


勇生はその存在を把握すると同時に、薄く目を開けた。


滲んだ視界の端に、セルビオの乗った魔鳥が急降下していくのが見える。


ー大丈夫か?


勇生はその方角を僅かに気にしながら、姿を現した”2人”を見た。


ー男と、女が道の真ん中に立っている。

何故ここに。


嫌な気分がどっと吹き出るように、汗が止まらない。

視界がまた歪む。


そこには、忘れようもない

”姉”ー桜良の姿があった。



ーーー



桜良は勇生の目の前に立っていた。部屋にこもっていた頃と同じで顔色は悪く衣装こそ違っていたが、それは間違いなく、長年同じ家に住んで居たはずの桜良だった。


 『何で・・・。』


勇生は、か細く呟いた。さっきまでは汗が止まらなかったのに、今は喉が締めつけられたように声が出ない。苦しい。


そして桜良はマスク姿の勇生を見るや、甲高い声で笑い出したのである。


 『アハハハ・・・!!!』


戦場で笑い出すその異様な姿に隊員達も驚いて見ている。


 『アハ・・無様だね、アンタ。そんなマスクなんて着けて。アハハ。何のつもりだよ。』

『はあ。』

桜良はひとしきり笑うと気が済んだように溜め息を付き、真顔で勇生を指差した。


 『もう消えて。』


その暗い声と共に、念入りに練られた経皮毒(・・・)が桜良の指先から放たれる。


勇生を守るように剣を構え前に出たマリオンが、目を押さえ倒れた。


支給されたマスクは吸気部にしかフィルターが無い。自由自在の毒に粘膜などひとたまりもない。


駆け寄り、助けたいのだ。

しかし勇生は一歩も動けず桜良の前に立ち尽くしていた。


桜良が長い間かけて植え付けてきた怨念が勇生の頭にこだましている。


ー消えろ。消えろ。消えてしまえ。


お前のせいで。お前のせいで。


“私”の世界から、出て行け!!!!


桜良の想いはより強い毒を生み、まるで全てを亡くそうとしているかのように王国軍目掛けて、”勇生”を目掛けて飛散した。


ーああ、ごめんマリオン。


勇生はかすれた声を絞り出す。

動こうとするが、少しも身体に力が入らない。


ココで俺は、この人(・・・)に殺されるのか。


桜良の眼は何年経っても変わらなかった。こんな世界で会ったというのに、勇生を見るその眼は未だ憎しみで溢れていた。



この眼の、無い世界に来たと思っていたのに。



一瞬が今までの十数年にも思えるような、止まった時間の中に居た勇生の耳に、突然軽やかな声が響いた。




 『疾風よ(ゲイル)!!!!!』





ーー

邂逅ーかいこうと読むらしいです。

前話、前々話とその前前前話辺り?微修正しています。


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