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69:勇者の力

 上空から戦場を見下ろすセルビオは唖然とした。 


暗黒閃光(ブラックフラッシュ)に貫かれ、まだ立ち上がるだと・・・?


余程強靭な肉体と精神を持つというのか。


いや、つい最近まで漁師だった彼らにそんな”力”があるわけない。1人ならまだしも戦闘員全てがそんなに強靭(タフ)であるわけがないのだ。


セルビオは遠い地上に立つテサに問いかける。


 『テサ。何が起こっている?』


テサはセルビオのいる上空を睨み、叫ぶように応えた。


 『知るか!!!”死人”が起き上がってきやがるんだよ!!!』


確実に仕留めたのだ。テサはその感触を思い出し自分に言い聞かせる。


急所を外したなんてことは断じて無い。この、胸の紋章に誓って一撃で命を奪ったのだ。


腹から血を流した島民が獣車の前に立ち上がり、起き上がった弾みでまた激しく出血する。


こいつらは”死なない”のか?


いや、違う。


流れる血も底を付き既に止まっていたのだ。その証拠に腹から噴き出したている血も溜まり血(・・・・)のようにどす黒い。


ならば、死体が動いているというのか。


テサはその答えに辿り着き、愕然とした。


 『どうして死体が動くんだ?』


テサのその独り言のような問いかけに、セルビオもまた驚き眼下を見た。


闇属性の力を持つセルビオは、王国軍の中で最もその答えに詳しいはずだった。


闇属性を扱う者の中には、禁忌魔法である”蘇生”の魔法を覚えるものもいる。しかし誰かが実際に行使したという話は聞いたことがない。


”蘇生”している者がいるというのかー?

こんなに多数の人間を、一体どこから?


セルビオは一帯に潜む術者を探したが、それらしき人物は見つからない。


ここには居ないとすると ・・・まさか、”城”か?


目指す”城”には微かに人影が見えるがー。


女王(クイーン)が表に出ているとは思わず、セルビオは怪しげな人影を探す。


 『死体(・・)だっつってんだろ!!』


そのセルビオにテサが苛立ったように叫んだ。


 『こいつらは死体だ!生き返ったわけじゃない!!』


ーだから気味が悪いんだよ。何だこいつらは。


テサの声にセルビオはハッとした。


屍を操る(・・)者が存在するのか?


そんな者はセルビオの知る限り、存在しないはずだった。”死者を冒涜する”、蘇生よりも悪質な禁忌魔法を使う者。


いや、今はそれどころではない。


セルビオは我に返り、下の戦場を素早く観察した。殺すことに意味がないのだ。ならばどうすればいい?


隊員達が斬った死者は一時的に動きを止めるが、すぐにまた何事もなかったかのように襲いかかる。


正体はわからないが、不気味な魔力を感じるのは確かだ。面倒なことにセルビオの魔鳥もこの力に怯えている。


ー落ち着け、こら。


セルビオは戦場から離れようとする魔鳥を諌めながら端から端まで見回し、ある箇所に目を留めた。


ーなんだ。


 『おい、テサ!!!』


セルビオはテサに向かって叫んだ。


 『お前のところの”勇者”は死者も死なせる(・・・・・・・・)力があるのか!?』


ー何を言ってる?


テサは一瞬キョトンとした後、素早くメルルと勇生を見た。メルルは言われた通りテサにピタリと付いて身を守っている。


勇生(あいつ)


先頭獣車の周りには、山のように死人が倒れ重なっている。その誰もピタリと止まったまま起き上がらないのを見てテサは驚いた。


あいつ、そんな力があったのか?


テサは戸惑いながら勇生に向かって問いかける。


 『お前は、死者を殺す方法知ってるか?』


勇生は遠目でわかるほど驚いて、テサを振り返った。


そしてテサと目が合うと、気まずそうに目を逸らしたが数秒後怒ったような声で応えた。


 『殺して無い。』

 『この・・・周りの奴らは、死んでない。』


テサとその会話を聞いたダリウス、セルビオは呆気にとられて勇生を見た。


勇生は3人の視線を感じながら黙り込むと、背中を向け黙々と気絶剣(スタンソード)を繰り出した。


バシッ。

剣から放たれる青白い火花に島民がまた1人倒れる。確かに倒れているが、その顔にはまだ生気が感じられる。



その剣を凝視していたダリウスが最初に笑い出すと、セルビオも気が抜けたようにため息をつき、テサは怒ったような顔でまた車上に登ってきた死者を滅多切りにした。


ーフン。


そして気が済んだように剣を一旦置くと、勇生に向かって怒鳴る。


 『もう何でもいい!そのまま前に進め!!』


そして自身もまた、死者をミンチにしながら獣車を進めた。セルビオとダリウスも苦笑しながらテサを真似して、”死者”を再起不能な程打ち砕くことで隊は再び進み始めた。



ーーー



城の上からマジョルドと桜良はその様子を見ていた。


死者が次々と起き上がりあちこちで死闘が繰り広げられ膠着する中、先頭の獣車だけが不思議と、淡々と島民を押し倒すように進んでくる。


1人の兵士が剣を振る度、青白い光がチラつき島民達がばたばたと倒れるが、そこから彼らは起き上がらないのだ。


 『あれは、何?』


桜良は思わず身を乗り出し、その先頭の兵士を見た。


あの綺麗な光は、死者を浄化する光なのだろうか。


 『あれは・・・。』


マジョルドが不快そうにその様を見て首を捻る。


先頭を突き進む者は、まだ子供のように見えるが王国の”兵士”には違いない。


ー何故、こんなに気になるんだろう?


桜良は自分でも不思議に思いながら兵士を見つめ、改めてまた戦場を見渡す。


死者によりまた王国軍は苦戦しているようだった。


このまま、凌げるかもしれない。


桜良はそう思い、やはり部屋に戻ろうと踵を返した。


その時、誰のものかわからない”大声”が桜良の耳に響いた。


 『こんの、クソ女王!!!!待ってろすぐに行ってやる!!』



ー何だって?


桜良は耳を押さえもう一度戦場を振り返る。


先頭の小さな兵士が、城を睨むようにして剣を振り翳している。


その姿形に、やはりどうしても見覚えがあった。


ーそれに、あの声。


桜良は震える手でマジョルドを掴み、戦場を、指差す。




 『ー討って出るぞ。』



マジョルドは少し驚いたが、嬉しそうに微笑み、頷いた。


 『我が女王(クイーン)に出陣していただけるならば、勝利は確実となるでしょう。』


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