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66:布陣

 

 『直ちに出撃し、女王を捕らえよ。』


国王ブルーセスの命を受けたテサは、すぐに立ち上がりその言葉に従った。


女王とやらをこの目で見たわけではないが、間違いなく王国の脅威となる存在だ。化物(・・)と対峙したテサにはわかった。


ベルタは過熱蒸気による火傷の治療中であり、大事には至らなかったが遠征直後であることも考えると3番隊は出られないだろう。


―1、2、と4番隊を動かすか。


5番隊には負傷した衛兵の穴埋めをさせる必要がある。


テサは隊の編成を考えながら、2番隊隊長ダリウスの部屋のドアを叩いた。


 『出撃か。』


ドアを開けたダリウスはテサが口を開く前にその意図を察し、短く尋ねる。


休暇開けだというのに、相変わらずの臨戦態勢だ。テサは少し嫌な顔をすると手短に状況を説明した。


 『王命だ。(ミドリ)の島へ向かい女王(クイーン)と呼ばれる女を捕らえる。』


 『そいつが例の(・・)毒の魔女か。』


 『ああ、そうだ。』


テサはダリウスと二言三言話すと次の部屋へ向かったが、4番隊隊長セルビオは部屋にいなかった。ため息をついたテサはくるりと踵を返し、誰もいない廊下を見ながら”大声”でセルビオを呼びつける。


 『王命だ!!!!4番隊は(ただ)ちに出撃用意しろ!!!!』


実際の大声と共に放たれた、思念の大波が空気中を伝播し中庭で空を見上げていたセルビオの元へ届く。


 『・・やれやれ。4番隊(ウチ)も休暇に入りたかったぜ。』


セルビオはダリウスと正反対の重い腰を上げ、ブツブツと愚痴を吐きながら兵士の宿舎へと向かった。




ーーー




敵の・・・少なくとも女王(ターゲット)の能力は今回の件で明らかになった。そのため出発前に兵士全員にガスマスクが支給された。

さらに、対毒霧を考慮し今回は風・火・水属性の者を隊中央に置く。


テサは、支度を整え整列した兵士達に向かって手短に状況を伝えた。


城までは”島民”との乱戦になるだろうが、いつ毒を持つものが現れるかわからない。どれ程いるかもわからない。


有事には”風”を使い安全を確保するため、原則前衛の者で乱戦を切り抜ける。火、水は合わせることで毒を消し去ることがわかっているが効果の程が未知のため保険として風同様に配置する。そして後方はいつも通り、敵陣深く切り込み囲まれた際の退路確保を担う。


緊張感漂う中でもさすがに兵士達は落ち着いて、テサの一声でキビキビと隊を組み変え間を置かず出発となった。


勇生は乱戦を担うという、前衛を任されていた。前衛は、どうやら体力自慢で物理攻撃を得意とする者達で構成されている。


獣車の荷台で揺られながら、勇生はチラリと後方を見た。

見えはしないが何台も連なったその後方に、メルルもいるのだ。


・・・後ろを守るため、全員(・・)払い除けるだけだ。


勇生はクシドのことを思い出し、一瞬憂鬱になった心を無理矢理振り払うように隣のマリオンに話しかける。遠征から帰って以来、勇生自身もずっと体調が優れないが弱音を吐いている場合でないことはわかっていた。


 『マリオン。今回の行先って何て・・。』


 『(ミドリ)の島だろ。小さい時、釣りに行ったことがあるなぁ。』


マリオンはいつもと変わらず明るい調子で答えた。・・やっぱり。勇生は小さく呟いたが、マリオンはその呟きを聞き逃さず勇生に尋ねる。


 『やっぱり、って?』


勇生はおばばとの経緯(いきさつ)をかいつまんでマリオンに話した。


 『そのおばばが”王国”と”島”には行くなって言ってたから。』


 『何だよそんなの。』


マリオンは意外にもその話を笑い飛ばした。


 『王国にも行くなっつってたんなら、そのおばばの方が信じらんねぇよ。』



・・・そっか。まあ、そうだよな。



勇生はマリオンの言葉に小さく頷いた。確かに、王国は今のところ危険な場所では無い。”島”にしてもおばばの思い過ごしかもしれない。



軍は王国を出発し、休まず半島の手前まで進むとそこで一旦獣車を止めた。


 『急がなくていいの?』


獣車を降り、順番に隊の様子を見て回っていたテサに勇生が尋ねると、テサは変な顔で答えた。


 『夜はどちらにも不利だからな。そういう(なら)わしだ。』


既に伝令は送ってあるが、明朝、狼煙を上げ正々堂々と戦いを挑む。


テサの台詞に不満げにふうん。と呟き勇生はテサに小突かれた。


 『子供(ガキ)はさっさと寝ろ。』


そうはいっても、戦いの前夜なのだ。眠れそうもない。勇生はため息をつきながら獣車に戻った。



・・・メルルはどうしてるだろうか。


隊列が長く伸びているせいで、後方のメルルの声すら聞こえないが、勇生は目を瞑りメルルの声を思い浮かべながら、狭い獣車の中で何とか横になった。



ーーー




すっかり日も落ち、辺りが暗闇に包まれた頃。王国軍は僅かな見張りを残して皆寝静まっていた。



その不気味な静けさの中、勇生の背中側に置いた火竜の剣が突如、まるで息づくように、小さく震え出した。


ーブゥ・・・ン。


聞き慣れたようなその振動音に勇生は思わず手を伸ばし、ソレが剣であることに気付いて驚いて起き上がる。


ー何だ?


スマホかと思った。とは誰にも言えない。


言ったところで、伝わらないだろうけど。


勇生は生き物のようにも見える剣を恐る恐る握りしめる。


伝説の剣。火竜の剣が、何かに反応している。


ー何に?


勇生は注意深く周囲を見ながら、隣のマリオンを揺り起こす。



 『何だよー!』


驚いたマリオンは勇生に文句を言いながら次の瞬間、低く頭を下げ素早く腰の剣を抜いた。



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