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64:偉人の末裔

 この世界に碧の王国が誕生し、200年近い時が流れている。


 この地が王国となる前は、碧の一族は多数存在する貴族ー・・あり余る程の土地と資源を持つ貴族の中の一つに過ぎなかったが、初代碧の国王はそのいち貴族の頃から存在感のある男だった。

周りの人望も厚く、人が自然と集うその求心(カリスマ)力と戦地で見せた凄まじく冷静な判断力を建国時にも発揮し満場一致で国王に抜擢された偉人であった。


しかしながら彼は政治には向いておらず、当時事務官を務めた男が実権を握っていた。そこで王の一族は、親族の娘を王妃にあてがいその王子を2代目国王とし、権力の増強を目論んだ。


勢力争いの中産まれた2代目国王は父よりも母に似て美男子だったが、周囲の大人に持ち上げられ、利用されその人生を傀儡(くぐつ)として生きることしか出来なかった。


その妃もまた、碧の一族の娘だった。最初に産まれたのは愛らしい女児だったが未来の”王”に姉は不要として民に隠され葬られた。王妃はそのことで心身を病んだが、一族からの圧力は強く、7年後に3代目国王となる男子がようやく誕生した。


近新婚が続けられた影響か、3代目国王は生まれつき免疫が弱く、部屋からほとんど出ることはなかった。男子を愛せなかった母とは会うこともなかったため他人に囲まれて育った。


自分の生い立ちを恨んでいたせいか、3代目は冷酷で残忍な王だった。勇者ロビンの首を剣の前に埋めさせたのがこの王であり、3代目にして初めて一族の外から王妃を迎え産まれたのが現国王、4代目のブルーセスだ。


3代目は当然、子であるブルーセスにも非情な態度をとった。ブルーセスは”国王より尊い存在は無い”という言葉を常に聞かされ続けた。

ブルーセスの母は出来の良いブルーセスを溺愛していたが、その結果ブルーセスはこう考えるようになった。


 『自分は他の何より尊いのだ。しかし”国王”の命は子である私の命よりも尊いと父はいう。それは矛盾ではないか?』


 『・・・私が”国王”になることで、この不快な矛盾を正せばよいのだな。』


そうして体の弱い父王の食事に長い間微量の毒を混入させ、父王が崩御した後ブルーセスは若くして国王となった。周囲は騒然としたが、悲しんで見せるブルーセスを疑うものは一人もいなかった。



―矛盾は正され、全ては私の思うままだ。


しかしここに来て突然”女王”とやらが現れた。

興味半分に呼びつけたものの、まさか自分が毒を仕向けられるとは想像しなかった。


―これは父を毒殺したことの報い(・・)なのか?


ブルーセスは一滴の後悔も無い心で自問した。




―私が死ねば、私は最も尊い存在でなかったということかもしれない。


―私が生きるならば、この”世界”が私を必要としているということだ。王としての私を。




ーーー



国王は、寝室のベッドの上でゆっくりと目を開けた。


初めのうちはぼやけていた視界も次第にはっきりとして、覗き込む者達の顔が見える。


医者ばかりか。


その中に1人、軍人であるテサの顔が見えた。


 『近くへ。』


テサを呼び横に座らせたブルーセスはゆっくりと体を起こし、(ひざまず)くテサの顔を見下ろすと、既に決めていたかのようにその言葉を口にした。


 『ただちに出撃の準備をし、(ミドリ)の島を包囲しろ。』


 『私の命を狙った女王を捕らえるのだ。』



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