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6:スカートの中

すみません!!投稿してたつもりが出来てませんでした・・!

 少女が目を覚ました時、勇生(ユウキ)はまだ眠っていた。起こさないようにそっと立ち上がり顔を覗き込むと、血の気が引いた顔は今にも死にそうに見えた。浅い呼吸が続いて、表情は苦しそうだ。

 

 ー何だよ。こんな奴。


 不満げに口を尖らせ、少女はその場を離れる。湿った地面は音を吸収し、踏みしめる足を柔らかく包んで心地よい。体は傷だらけだが少女は割と元気だった。何度も振り返り慎重に周囲を見ながら森の奥へ進むと、獣か人か、何かに踏み固められた細い道が出てきた。


 少女は一旦立ち止まりしばし考えると、(おもむろ)に着ているワンピースの裾を引きちぎり、細く裂いたその布を手近な木の枝に結びつけた。その枝は歩いて来た方向へと伸びている。方向感覚には自信があるが、念のための目印だ。

 目の前の道に出て耳を澄ませると、ザワザワと雑音(ノイズ)のような音だけが聞こえる。どうやら耳の反応も少し鈍くなっているように感じるが、それはこう(・・)なる前からだった。少女は嫌な気分を払うかのように小さく頭を振って右の方へ進んだ。周辺には皮の剥がれた樹木や囓り取られたきのこがあり、この森に確かに生命が息づいているのを感じさせる。


 深呼吸すると、それだけでエネルギーが湧いてくる気がして少女は微笑んだ。その大きく美しい瞳には逞しい光が宿り、鼻は楽しげにひくひくと動いた。うん、当たりだ。水の匂いがする。


 思った通り、細い道は小さな沢へと続いていた。小走りになった少女は沢へ降りると迷わずその手に水をすくって飲む。水は冷たく清らかで美味しかった。


ー良かった。


少女は続いて辺りをキョロキョロ見回し、服を脱いだ。水に入って魚でも捕るつもりだった。しかし着ていたワンピースを広げまじまじと見て、今更のように怪訝な表情をしている。


―スカート。


ワンピースの下には簡素な下着を身につけていた。胸騒ぎがした少女(・・)それ(パンツ)を降ろし、




 『わあーーっ!!!!!!!』


‥‥叫んだ。叫んでまたそれ(パンツ)を履いた。そこにはあるはずのものが無く、もう見てはいけない気がしたから。


 焦った顔の少女、もとい‥彼、は綺麗な川の水面を覗き込んでまた驚愕する。


 『か‥可愛い‥。』


 水の流れではっきりした輪郭は見えないが髪の毛は水面に反射してキラキラふわふわと揺れ、小さな白い顔には真っ直ぐな眉、その下には翠色の瞳が大きく見開かれこちらを凝視している。その人物は小さな唇をずっとパクパクと動かしていた。


 『可愛い‥。』


ー何ということだろう。どうしてこうなったんだろう。そもそもココはどこだ。コレは俺?誰?僕?

ーあの‥‥雷の、せいで??


疑問は果てしなく湧いたが、何よりも‥嬉しさが、勝ってしまった。


少女はニヤニヤと似合わない笑みを顔に浮かべる。いや、そんな表情すらも知的に見せる美貌だった。


ーうふ。ウフフ。


田中は手を口元にあてる。


田中には女性になる願望は無かった。ただひたすら願っていたのは、嫌われない人間になることだった。


断トツに愛らしい容姿なんて最高だ。ここがどんな場所かわからないが、こんな姿なら、幸せになれるに違いない。


そこまで考えて田中は我に返った。


ーアイツが知ったらどう思うだろう。この少女が実は田中(ぼく)だと知ったら。その想像は恐ろしすぎて田中の高揚は一気に冷めた。気付くわけがない。少なくともまだ気付かれていないはずだ。こんなに全然違うんだから。


 バレるわけにはいかない。田中は下着も全て脱ぎ、冷たい水に全身浸かって身体を、髪をゴシゴシと洗った。全裸になったついでに手頃な川魚を数匹捕まえ、尖った枝に刺す。


 漁の感覚は不思議と冴えていて、魚は思うように捕まった。空腹を満たすために漁をしたことは今までもあったが、ココの魚は今まで捕まえたどんな魚よりも不気味で、色は黄色く表面はぬらぬらと光り、エラが無かった。


ーこりゃまた、食欲わかない色だな‥。


そう思いながらも今年の頭、空腹に耐えかね公園の池の鯉を捕って家に持って帰ったことを思い出して田中は苦笑した。


あの時は、母さんまでドン引きの顔してたな。


ただ、皆の食糧を得たかったのだ。溢れるように泳ぐ、太りすぎた鯉を見て魔が差した。


母は結局、黙って鯉を調理した。

兄も姉も、妹も何も知らずにそれを食べたが、知っていたらどうだっただろう。誰も食べなかったかもしれない。


この黄色い魚はどうだろう。アイツは食べるだろうか。この女の子が差し出したら。


田中はそんなことを考えながら身体を適当に乾かし服を着た。そして魚の刺さった枝を肩に担ぎ、そのままもう1度川の水面を覗き込む。


ー大丈夫。僕は別人だ。最高に可愛い。


そうしてニッコリ笑う練習をして、まだ少しの驚きを胸に川を後にした。


スマホから書いてたので疲れ目がすごいです。

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