53:クシドの苦悩
クシドは”外島”から戻ってすぐに国王へ事態を報告しようとした。島の代表者カルマンと全く連絡がつかないのだ。当人に何かあったのか、それともこれは何らかの意思表示かー?
クシドは焦る心を落ち着かせようと胸に手を当て考える。早まるな。判断を誤れば2度目の”大戦”を引き起こしかねないのだ。若き国王は2度目であろうと戦争を躊躇わないだろう。
まだ何もわからないのだ。もっと慎重に”向こう”の動きを調査すべきだろう。
そうだ。それに他にも対応しなければいけないことは山程あるのだ。ー急ぎ、王への報告が必要なことが。
クシドは自分に言い聞かせるように資料の山の中からその一つを取り出し、足早に王の居室へと向かったー・・。
ーーー
『・・フン。』
クシドが資料を捲りながらその件について報告するのを、国王は頬杖を付きながらつまらなそうに聞いている。
『ここ一ヶ月程のことですが、王国の南方境界付近にて魔物が異常に増加しているようなのです。』
クシドは片肘を付いた王へ根気強く状況を説明する。
『いつものように兵を派遣すればいいだろう?』
国王は愛人の長い髪を指に絡ませながら答えた。
『この魔物の増加ですが、”原因”があるようなのです。』
クシドは王の顔色を窺いながらそれを伝える。
ー王国南方に位置する、碧の島に女王と呼ばれる”何者か”が現れてからというもの、そこを住処としていた魔物達が続々別の場所へと”移住”しているようなのです。ーそれが前述の状況を生んでおりまして。
また厄介なことに、島付近の少数民族達が女王の下に続々と降り、注視すべき勢力となりつつあります。
クシドはそこまで説明してひと息付いた。王は不快そうに眉をつり上げて黙っている。
『急ぎ手を打つ必要のある境界付近の魔物に関しては・・陛下の仰るとおり、討伐隊を派遣いたします。』
『しかし女王とやらの対応は・・・。』
いかがいたしましょうか。クシドが言葉にする前に、王がその体を起こしクシドの手から資料を取った。
『ふうん・・。』
そして薄い笑みを浮かべながら1枚1枚それを見て低い声で呟く。
『”女王か。・・・会ってみたいね。』
『・・は?』
クシドは思わず間抜けな声を出した。
『は、いえ、といいますと・・・?』
慌てて訂正し、もう一度聞き直すが王は狼狽するクシドには目もくれず愛人と戯れている。
『は、、では伝者を・・・”招待状”を持たせ、”島”へ伝者を走らせます。』
クシドは王の意図を読み確認するようにそれを言葉にした。
『この大陸に新たな”王”を名乗る者が誕生したんだ。まずは丁重に頼むよ。』
『・・・は!!畏まりました。』
クシドは深く頭を下げ王の居室を退き、そのまま王国軍の出動を要請するため隊長達の元へと向かった。