51:大陸間条約
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勇生達が賑やかに城下町を凱旋していたその日、クシドは護衛の者を数名連れ"外島"を訪れていた。大戦の後、豊富な資源と独自の技術を持つ外島と貿易条約を締結するためクシドは3年間もこの間を行き来し続けたのだ。そしてようやく昨年、その形が定まり大陸間の交流が始まった。
この交流を、成功させ続けなくてはならない。クシドにはそのプレッシャーがあった。このために多くのものが犠牲になったのだ。大戦で命を落とした者も多いがこの条約のためだけに犠牲になったものもいる。
クシドはそのことを思い出し、ブルッと身震いしながらその簡易的な"会議場"の扉の前に立った。外島の代表者は前任ドティからカルマンという大男に変わったが、カルマンもまた自分達に不利な条約をなかなか飲もうとしなかった。クシドはある時は脅し、またある時は同情を見せ、様々な手段を取ったがカルマンはしぶとくそれをかわし続けた。
この、負け犬めが。潔く従え。
心の中で何度そう思ったことかわからない。
国王にも逐一その状況を報告した。王は最初の内興味無さそうにそれを聞いていたが、3年もの月日が経ったあの日、また外島へと向かう支度をしていたクシドを呼び出し、突然指示したのである。ー"土産"を持て、と。
その土産とは、外島との大戦で大量殺人を犯した『戦犯』を差し出すというものだった。
クシドはその命令に驚き、目の前に捕らえられた英雄ーバディースの姿を信じられない思いで見た。
バディースはその前年に謀反を起こし、地下牢に入れられていた。
しかし謀反の後に打ち首とならなかったのは大戦での功労が大きかったためだと思っていたが外島に差し出すとはー・・・クシドは王の顔色を窺いながら発言する。
『民には何と・・・?』
王は全くその顔色を変えずクシドに命じた。
『これは単なる”追放”だ。こやつは私の首を狙ったのだ。皆、既に”英雄”とは思っておらぬ。』
言葉の後半はバディースへ聞かせるように強調され、クシドと王の間に膝を付いたバディースはその会話の間ずっと黙って項垂れていた。
その姿は今思い出しても辛い。かつては英雄としてクシドも皆とその活躍を讃えたのだ。彼は強く、皆に好かれる人物だった。
その彼を。髪と髭が伸び随分と汚らしくなったが、カリスマ性の高い外見は変わっていないそのバディースを連れ、昨年クシドはこの外島を訪れたのだ。王の決定には逆らえなかった。
そして代表者カルマンはバディースを見るやいなや、その目に怒りを滾らせ、クシドが提示する条約の内容を飲んだのである。
条約はその年の内に締結された。
バディースを引き渡した”後”のことは、クシドは聞かなかった。彼は恐らく死んだ島民の仇として、あの地で酷い目に遭わされ死んだのだろう。
つい最近、”勇者”として突然現れた勇生にバディースのことを聞かれた時は驚いたが、この話を説明する必要は無い。
クシドは何度も自分に言い聞かせた。
バディースが謀反を起こさなければー・・・もしくは、城下町で働いていたバディースの妻を王が気に入らなければー彼は死ぬこともなかったのだ。
確か”ミレーヌ”という名前だったか。
王が彼女を城へ呼び、部屋に呼ぶようになったのはバディースを”追放”した後だったが、いつから王が彼女を知っていたかはわからない。
『エレーヌ』はそのミレーヌの、酒場で働いていた頃の源氏名である。それを知るものは少ないが王は彼女をその名で呼んだ。
詮索は無意味か。クシドは考えるのをやめ会議場の扉が開くのを待つ。
今日は外島で古くから研究されている”合成”技法を王国へ持ち帰るために来たのだ。この技法は王国の武力向上にもつながるだろう。
クシドは日が暮れるまでその扉の前で待った。
ー・・・しかし、その扉が開くことはなかったのである。
日付を再度確認するためクシドは伝者を送り、自分は業務のため一旦王国へと引き返した。
そして何日も経過したが、カルマンからの回答は無く伝者も帰って来ることはなかった。
お盆前後で休み休みの更新になるかも?しれません。