5:夢現(うつつ)
不思議な感覚だった。夢の中で勇生の体は羽根のように軽くなり、狭いトンネルのような空間をぐんぐん上昇しやがて一つの場所に出た。そこは白いカーテンで区切られた、部屋のように見えた。その部屋のベッドには誰かが横たわり、その体には沢山の線や管が繋がれている。その線の先にはいくつもの機械装置があり、どうやらそこは病院の一室のようだった。勇生は横たわった人物の方を見ようとしたが、その輪郭はぼんやりとして定まらない。
他に見るものもなく、機械装置のチラチラ光る画面を眺めていると、いきなり他の誰かの手が覗きカーテンが開けられた。
ー誰だ。
それを確認するより先に、眩暈のような感覚に襲われ勇生はまたトンネルへと吸い込まれた。今度は滑るようにその中を進み、抜け出るとまた違う場所を見下ろしていた。
そこはよく知っている場所で、勇生の通う中学校だった。よく見ると正門の前に人だかりが出来ている。スーツを着ている、男の人、女の人、大勢の大人達。意識して少し近づいたが声は聞こえない。しかし誰もが怒りや緊張の表情を浮かべ、聞こえはしないが何かを訴えていて、大きな問題が起きたのだろうとわかった。その群れの中をコソコソと潜って中へ入ろうとしている人物がいて、その大きすぎる体から勇生はそれがクラスの担任教師であることに気付いた。
『モゴモゴ‥。』
担任教師は何と言っているのかわからないが、大きな背中を丸め、何度も頭を下げる。謝っているように見えるが、大人達はまるで獲物を捕まえたかのように興奮し、マイクを突きつけ担任へ群がっていた。
勇生は考えた。あの、象男が何かするとは思えない。
だとしたら。
勇生はただ脱力し、勝手に身体が上方へ浮かんで行くのに任せた。
ーそうして辿り着いたのは、想像通り勇生と同じクラスの生徒がよく集まっていた屋上だった。その重いドアには、これでもかとばかりにチェーンと鍵がかけられ、立ち入り禁止のテープが幾重にも貼られていた。まるで、忌まわしいものを封印するかのように。
ーそういうことか。
勇生は急に苦しくなり、自分が呼吸をしていないことに気付いた。
そうだ。状況を思い出せば、事件になるのは当然だった。あの雨の中、あそこに2人でそのまま、倒れていたとしたら。誰かが駆け付け、あの状況を見たとしたら。
そこにはぐるぐる巻きでボコボコにされた田中がいたはずだ。勇生が持って行ったロープで縛られて。
田中は死んだのだろうか。先刻の病室は誰のものだったのだろう。
勇生はまるで何かで喉を詰まらせたかのように息が出来ないまま、また体が重く沈み始めたのを感じたが、目は開けずに、ただひたすら待った。
自分は死んだのだろうか。
もし命があったとしても、こんな人生はもう終わりだ。こうなって当然の毎日だった気もする。
ー姉は、母は、いま一体、どんな表情を浮かべているのだろう。
またしても少し暗いです‥!が、次は戻ります!